ヒルベルトの第12問題

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クロネッカーの青春の夢(Kronecker's Jugendtraum)、あるいは、(ヒルベルトの23の問題の中の)ヒルベルト第12問題(Hilbert's twelfth problem)は、有理数体のアーベル拡大クロネッカー・ウェーバーの定理(Kronecker–Weber theorem)を、任意の数体を基礎体とするへ拡張する問題である。すなわち、1のべき根指数函数の複素数値として、円分体やその部分体が構成されることの類似として、他の基礎体となる数体に対しても、拡大体全体を生成するような複素数が存在するかどうかを問うている問題である。

虚数乗法の古典的な理論は、現在、「クロネッカーの青春の夢」として知られている。任意の虚二次体が基礎体の場合には、特別な周期格子英語版(period lattice)を持つように選んだモジュラ函数楕円函数を使うことによって、体の拡大を実現することができる。志村(Shimura Goro)は、CM体英語版(CM field)へこのことを拡張した。一般の場合は、2014年現在未解決である。レオポルト・クロネッカー(Leopold Kronecker)は、気に入った青春の夢 liebster Jugendtraum として、虚数乗法の考えを次のように書き表した。

「楕円函数の変換公式による有理数の平方根をもつアーベルの方程式は、特異モジュライをもつ円分体の拡大によるアーベルの積分方程式のように、まさに拡張可能であることを証明すること、これは、私の青春の夢でありとても気に入っています。」

クロネッカーのデデキントへの1880年の手紙より、クロネッカー全集の第5巻 page 455

問題の内容と経緯[編集]

代数的整数論の基本問題は、代数体の記述である。ガロア(Évariste Galois)の仕事は、あるガロア群(Galois group)により体の拡大が制御されることを明らかにしたことである。既に理解されている場合である単純な状況は、ガロア群が可換(アーベル的)な場合である。二次多項式の根を結びつけて得られるすべての二次拡大はアーベル的であり、それらの研究はガウス(Carl Friedrich Gauss)によりなされた。有理数Q のアーベル拡大の他のタイプは、円分体の結果により n-番目の 1のべき根を組み合わせて得ることができる。既にガウスが示していたことであるが、実際、すべての二次体はより大きな円分体に含まれる。クロネッカー・ウェーバーの定理は、Q の任意の有限アーベル拡大は円分体に含まれることである。クロネッカー(とヒルベルト)の問題は、より一般的な代数体 K では、K のすべてのアーベル拡大を構成することに必要な代数的数は何か?を問うている。この疑問への完全な回答は、K虚二次体のとき、もしくはその一般化であるCM体英語版(CM-field)のときのみ解けている。

ヒルベルトの第12問題の元々の設定は少し誤っていように思えるかもしれない。彼は、虚二次体のアーベル拡大は楕円モジュラ函数の特殊値により生成されると言っているように思えるが、これは少し誤っている。(ヒルベルトが言っていることは、「楕円函数」という用語を使い、楕円函数 \wp と楕円モジュラ函数 j の双方を意味しているとはなかなか考えにくい。)ヒルベルトは暗にこれらを示していたかもしれないが、1のべき根を使うことも必要となる。さらに詳しく言うと、楕円モジュラ函数の値がヒルベルト類体英語版(Hilbert class field)を生成するとき、もう少し一般的にはアーベル的に拡大するときには、楕円函数の値を使う必要もある。例えば、アーベル拡大 \mathbf{Q}(i,\sqrt[4]{1+2i})/\mathbf{Q}(i) は、特異モジュライと 1のべき根によっては生成されない。

クロネッカー・ウェーバーの定理が言っている注目すべきことのひとつに、指数函数の特殊値 exp(2πi/n) を結合して使うことで Q の絶対アーベル拡大を得ることができるということがある。同様に、虚数乗法(complex multiplication)は、τ を虚二次体の無理数であれば Q(τ) の最大アーベル拡大が、モジュラ函数 j (τ) と ℘ (τ,z) の特殊値と 1のべき根を合わせて使うことで得ることができる。ここに τ は虚二次体の元であり、z は対応する楕円曲線の捩れ点を表す。ヒルベルトの第12番目の問題の解釈の一つとして、適当な指数函数や楕円函数、モジュラ函数の類似をとってきて、その特殊値が一般的な数体 K の最大アーベル拡大 Kab を生成することが可能かどうかを問うている。この形の一般化された問題に対しては、未解決である。絶対アーベル拡大体 Kab の記述は類体論によって得られる。類体論はダヴィット・ヒルベルト(David Hilbert)自身と、エミル・アルティン英語版(Emil Artin)と20世紀前半の他の人々により開拓された[note 1]。しかしながら、類体論の中で Kab を具体的に構成することは、最初にクンマー理論(Kummer theory)を使いより大きな非アーベル拡大を構成し、それからアーベル拡大へ落とし込むことでなされるので、従ってアーベル拡大のより具体的な構成方法を問うているヒルベルトの問題の解には至っていない。

近年の発展[編集]

1960年頃より、(ヒルベルトの第12問題は)確かに発展してきている。これよりも前に、エーリッヒ・ヘッケ英語版(Erich Hecke)は、論文 Hecke (1912)中で、実二次体のアーベル拡大を研究するためにヒルベルトのモジュラ形式英語版(Hilbert modular form)を使用した。アーベル多様体の虚数乗法(Complex multiplication of abelian varieties)は、志村五郎(Goro Shimura)と谷山豊(Yutaka Taniyama)の仕事である。一般には、このことはCM体英語版(CM-field)のアーベル拡大を導く。拡大体を発見することが可能かという疑問は、ある多様体に対するガロア表現英語版(Galois representation)として、テイト加群英語版(Tate module)の拡大が可能かという問題となる。この点がl-進コホモロジー英語版(l-adic cohomology)の最も取り掛かり易いので、これらの表現が深く研究されている。

ロバート・ラングランズ(Robert Langlands)は、1973年に Jugendtraum の現代バージョンである志村多様体ハッセ・ヴェィユのゼータ函数英語版(Hasse–Weil zeta function)を扱うべきであると論じた。30年以上にも渡り、彼は、より広い問題を扱うラングランズ・プログラムという壮大なプログラムを想定したが、ヒルベルトの発した問題を取り込むことについては、未だに重大な問題として残っている。

これとは対照的に、別の発展では、直接、数体の特別に興味深い単元の見つけることを扱うスターク予想(Stark's conjecture) (ハロルド・スターク英語版(Harold Stark)) がある。この予想は、L-函数英語版(L-function)の議論の発展にも大きな影響をもつ予想であり、また、具体的な数値結果をもたらす可能性も持っている。

脚注[編集]

  1. ^ 特に、高木貞治は、絶対アーベル拡大体が存在することを証明した。高木の存在定理(Takagi existence theorem)を参照。なお、本記事は高木貞二のアーベル拡大のときの類体の存在定理の証明をもって、ヒルベルトの第12問題(クロネッカーの青春の夢)の解決が完成したという狭義の立場をとってはいない。非アーベル拡大を含む一般的な体の拡大と具体的構成が、類体論であるとの立場である。

参考文献[編集]