クリ胴枯病

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クリ胴枯病(クリどうがれびょう、英:Chestnut blight)はクリ属の樹木に発生する病気。

ニレ立枯病五葉マツ類発疹さび病と並び世界の樹木三大病害に数えられるほど蔓延した病気である。

症状[編集]

春先から秋にかけて急速な葉の萎れ、および枝や幹の部分的な膨張を特徴とする。特に気温が高く乾燥する8-9月に病勢が高くなる。

原因[編集]

子嚢菌の一種、クリ胴枯病菌(Cryphonectria parasitica)の感染による。この菌は1905年、アメリカでも最初に大規模な被害が記録されたニューヨークの植物園にて、同園に勤める菌類学者William Murril(1869-1957)が発見し、コッホの原則の確認によって病原と断定された。発見当初はDiaporthe parasiticaとされていたが、幾度か所属する属の変更を受けている。

この菌はクリの傷口から侵入すると、シュウ酸を作り出して周囲を酸性化し形成層を攻撃し[1]。これを殺して増殖する。形成層が殺された部分はクリが防御反応でコルク形成層を作るために腫れあがるように膨らんでくる[2]。幹や枝の形成層を一回り全て殺されてしまうと、水を吸い上げられなくなることにより病変部より上部が枯死する。

発病要因[編集]

クリの種類と感受性[編集]

アメリカ産、ヨーロッパ産の種は強感受性であり、太い幹であっても幹の周囲の形成層全てを侵されて水を運べなくなり枯れてしまう。これに対して東アジア産の種は抵抗性があり、形成層は部分的に侵されるものの枯死にまでは至らないことが多い。もっともクリは萌芽力に優れ、かつこの病原菌は根を侵さないことなどから、強感受性の種であっても枯死した下部の生きている組織から萌芽を出して再生し(萌芽更新)、個体の死にまでは至らないことが多い。しかしながら、その実や木材を目的とするものにとっては大きな打撃を与える。

その他の要因[編集]

土壌の乾燥やクリの衰弱具合、病原菌が侵入する幹・枝の傷の具合などが感染を左右する。

対策[編集]

予防的措置[編集]

適切な灌水・施肥管理、特に窒素不足は発病を助長するという。また、乾燥しやすい南~南西向き斜面で後発すると言い、栽培場所を良く考える。

発病後[編集]

抵抗性の日本産種では病変部の切除・ボルドー液の散布等も有効とされるが、強感受性種では効果が無いとされることが多い。

抵抗性種の植栽・開発[編集]

抵抗性の種を植えることも有効。日本産のクリ(Castanea crenata)は胴枯病には比較的強いと言われるが、品種によってはやや弱いものがある。胴枯病の被害が酷いアメリカでは胴枯病に強い遺伝子をアメリカグリ(C. dentata)に組み込むために、アジア産のクリと交配させることも行われている。1950年代植物学者のダンスタン博士(Dr. Robert T. Dunstan)がシナグリ(C. mollisima)とアメリカグリを交配して生み出された抵抗性雑種はDunstan chestnut(ダンスタンの栗)と呼ばれる。この雑種は遺伝子の半分がアジア産のクリであるが、最近では雑種に対してアメリカグリと戻し交配を行うことで抵抗性を持ちつつも、極力アメリカグリの遺伝子を残した雑種が生み出されている。 交配で遺伝子を組み込むのではなく、遺伝子組み換え技術によって効率的に耐性遺伝子を組み込むという研究も行われている。例えばコムギの持つシュウ酸耐性遺伝子をアメリカグリに組み込む研究に着手するということなどが報道されている。

アメリカにおける歴史[編集]

胴枯病を発症したアメリカグリの若い個体

クリ胴枯れ病は1900年ごろにクリ材やクリの木にまぎれて北米に偶然にもたらされたと考えられている。1905年にこの病気を研究していたアメリカの菌類学者William Murrillは病原菌を分離した。

クリ胴枯れ病菌のアジア産のクリへの感染は1904年にニューヨーク州ロングアイランド(Long Island)で確認された。病気は中国か日本から侵入してきたとの見方がある。これは日本のクリと一部の中国のクリが病気に抵抗を見せるためである。これらの木は感染はするものの、病原菌が木を枯死させることはほとんど見られないのだ。アメリカ北部に分布していた40年生に満たない40億本近い健全なクリが壊滅的な被害を受けた[3]カリフォルニア州太平洋岸北西部(Pacific northwest)に少数の集団が残るのみである。この病気のために、アメリカグリ材は10年間で市場から姿を消した。だが、まだ再生材(Reclaimed lumber)として手に入れることは可能である。現在残っている木は根元や根を菌に抵抗性のある台木を使用している。たくさんのアメリカグリの稚樹がまだ生き残っている。。平行して病気に免疫のあるアジアのクリからの必要最小限の遺伝子の導入も行われた。このような努力は1930年代に始まり、クリの木を国に取り戻すためにマサチューセッツ州[4]をはじめ全米各地で今も続いている。1940年までにはアメリカクリの成木はこの病気の蔓延でほとんど絶滅状態となった[5]

アパラチア山脈(Appalachian Mountains)の周辺では雑多な広葉樹4本に対してアメリカグリ1本が同等の価値と評価されていた。成木は真っ直ぐな幹で枝下高15m(30mに達するものも時々見られた)で、樹高は60m、胸高直径40㎝に達した。菌による胴枯病は40億本ものアメリカグリを枯死させ、東海岸ではまたたく間にその数を減らした。アメリカグリの一種チンカピングリCastanea pumila)は特に胴枯病に感受性が強い。ヨーロッパグリや西アジアのクリも感受性が強いがアメリカ産のものほどではない。病気に抵抗性を持つものはニホングリCastanea crenata)やシナグリCastanea mollissima)などの抵抗性品種はアメリカ産品種と掛け合わせて病気抵抗性品種を生み出すために使われている[6]

アメリカグリ財団(The American Chestnut Foundation)では抵抗性を得たクリについて、21世紀初頭にも元々の分布域に再導入することを計画している。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Crop Protection Compendium 2005 Edition. Cryphonectria parasitica (blight of chestnut). CAB International, Wallingford, UK.
  2. ^ 内田和馬(1981)クリ胴枯病の発生生態とその防除. 農林水産技術研究ジャーナル4(1),43-47.
  3. ^ The American Chestnut Foundation - Mission & History.
  4. ^ The American Chestnut Returns. By Fred Thys, for WBUR news. July 18, 2008.
  5. ^ Rogerson CT, Samuels GJ. (1996). Mycology at the New York Botanical Garden, 1985-1995. Brittonia 48(3):389-98
  6. ^ New RHS Dictionary of Gardening. By A. Huxley ed. 1992. Macmillan ISBN 0-333-47494-5.

出典[編集]

  • Wikipedia 英語版 en:Chestnut blight
  • Wikipedia フランス語版 fr:Chancre de l'écorce
  • 林業百科事典(日本林業技術協会著、丸善)
  • 林業技術ハンドブック(全国林業改良普及協会)

外部リンク[編集]