クリ胴枯病
クリ胴枯病(クリどうがれびょう、英:Chestnut blight)はクリ属の樹木に発生する致命的な病気。
ニレ立枯病、五葉松類発疹さび病と並び世界の樹木三大病害に数えられるほど蔓延した病気である。
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原因 [編集]
子嚢菌の一種、クリ胴枯病菌(Cryphonectria parasitica)の感染による。
1905年にこの病気を研究していたアメリカの菌類学者William Murrillは病原菌を分離し、記録している。彼はこの菌をDiaporthe parasiticaと名付けた。そして彼はこの菌を健全木に接種し、発病を確認した。
感染サイクル [編集]
病原菌は害虫の侵入や気象災害、剪定等で傷付いた部分から侵入する。クリの内部で増殖した菌は初夏に子実体を形成し、胞子を飛ばす。胞子が風で飛ばされることで拡散し、距離が短い場合は分生子が雨滴が跳ねたものが付着すること寄ることによる感染もある。
症状 [編集]
病原菌は傷口などから侵入して樹皮の下で成長して形成層を侵す。最終的には枝や幹の周囲のすべての形成層を殺してしまう[1]。菌糸は広がっていくつかの毒物を合成する。その中でもとくに重要なのはシュウ酸である。シュウ酸は感染した組織の周囲のpHを通常状態の5.5から約2.8まで低下させてしまい、クリの細胞に有害である[2]。
樹皮が若く滑らかな場合、病変部は赤褐色に変化し凹んでいる。老齢の個体では樹皮の色の変化は分かりづらい。病変部は最初はへこんでいるものの癒合組織(カルス)が形成されることで徐々に膨らんでくる。病変部が幹の周りを一巡してしまうと、その上の組織には水分が行きわたらなくなって枯れてしまう。これは我々が間伐などの時に樹皮を環状に剥い(環状剥皮)で樹木を枯らす「巻き枯らし」に良く似ている。子実体の形成は初夏で、雨の日に樹皮を突き破って出てくる。その前兆として樹皮に多数の発疹様の凹凸が見られる[3]。
クリの種類によって感受性に差がある。アメリカグリやヨーロッパグリ(Castanea sativa)は胴枯病に感受性が強くその大量死が問題になっている。一方で東アジアに分布するニホングリ(Castanea crenata)やシナグリ(Castanea mollissima)はこの病気に対して抵抗性を持つ。ただし、抵抗性を持つ種類であっても品種によっては比較的弱いものもある。
対策 [編集]
- 1、病変部の切除…初期症状が見られたら早急にナイフ等で病変部を切り取り、切断面にペンキや石灰乳を塗布する。病原菌は傷口から侵入することが多いので、剪定後にも同様の処置をすべきである[3]。
- 2、カミキリムシやキクイムシ、コウモリガなどによる食害傷、凍害による裂傷部からも病原菌が侵入する。だからこれらの害虫の防除、および凍害の予防は大切である。凍害は酢酸ビニルやアクリル系の水溶性塗料を水で薄めたものを塗布すると予防効果がある[3]。
- 3、傷が判明し、感染している可能性がある時は春先にニンヒドリンを添加したボルドー液を幹に散布する[3]。
- 4、ウイルスの接種…少なくとも2種類のウイルスが菌に感染することが知られている。
- 5、枯死した枝や幹は切断して焼却処分する[3]。
- 6、抵抗性品種の開発
抵抗性品種の開発 [編集]
胴枯病の発生以来、多くの科学者と植物学者がアメリカグリの特徴を多く保った抵抗性雑種クリの開発に励んできた。1950年代初頭、オハイオ州(Ohio)において胴枯病の蔓延する果樹園で、病気に感染した形跡のないアメリカグリの集団が見つかった。これらの個体から接ぎ穂が作られ、これはノースカロライナ州グリーンボーロ(Greenboro)の植物交配の専門家ロバート・T・ダンスタン博士(Dr.Robert.T.Dunstan)のもとに送られた。彼はこの接ぎ穂に根を接ぎ木し、大事に育て上げて3つの選りすぐりのシナグリと異花受粉させた。このようにして結実した雑種個体はダンスタングリ(Dunstan chestnut)と呼ばれる。近年の抵抗性品種の研究開発はForest Health Initiativeを中心に、ニューヨーク州立大学、ジョージア大学、ペンシルベニア州立大学やアメリカ農務省森林局(US Forest service)が協力し遺伝子技術を用いた近代的な交配手法を用いて行われている。最も優れた方法の一つは抵抗性雑種をアメリカグリと戻し交配(backcross)することである。最初の抵抗性雑種は東アジア(日本か中国のクリ)のクリとアメリカグリの遺伝子が半々で混ざっているが、この雑種をアメリカグリと3回戻し交配してやることで、ゲノムの約1/16がアジアのクリのもの、残り15/16がアメリカグリ由来のものにまで高まる。この方法の良いところは戻し交配をしても病気に対する抵抗性は残ったままということであり、アメリカグリの野生型の特色を残した表現型を持つ抵抗性雑種が作られている。
2006年4月、ジョージア州天然資源局(Geogia Department of Natural Resources)のネイサン・クラウス(Nathan Klaus)はジョージア州ウォーム・スプリングス(Warm Springs)にあるF.D.ルーズベルト州立公園(F.D.Roosevelt State Park)にて生き延びているアメリカグリの小さな個体を発見した。発見場所は乾燥した岩場で菌が生育する水分に乏しいという[4][5]。
歴史 [編集]
アメリカにおける歴史 [編集]
クリ胴枯れ病は1900年ごろにクリ材やクリの木にまぎれて北米に偶然にもたらされたと考えられている。1905年にこの病気を研究していたアメリカの菌類学者William Murrillは病原菌を分離した。
クリ胴枯れ病菌のアジア産のクリへの感染は1904年にニューヨーク州ロングアイランド(Long Island)で確認された。病気は中国か日本から侵入してきたとの見方がある。これは日本のクリと一部の中国のクリが病気に抵抗を見せるためである。これらの木は感染はするものの、病原菌が木を枯死させることはほとんど見られないのだ。アメリカ北部に分布していた40年生に満たない40億本近い健全なクリが壊滅的な被害を受けた[6]。カリフォルニア州や太平洋岸北西部(Pacific northwest)に少数の集団が残るのみである。この病気のために、アメリカグリ材は10年間で市場から姿を消した。だが、まだ再生材(Reclaimed lumber)として手に入れることは可能である。現在残っている木は根元や根を菌に抵抗性のある台木を使用している。たくさんのアメリカグリの稚樹がまだ生き残っている。。平行して病気に免疫のあるアジアのクリからの必要最小限の遺伝子の導入も行われた。このような努力は1930年代に始まり、クリの木を国に取り戻すためにマサチューセッツ州[7]をはじめ全米各地で今も続いている。1940年までにはアメリカクリの成木はこの病気の蔓延でほとんど絶滅状態となった[8]。
アパラチア山脈(Appalachian Mountains)の周辺では雑多な広葉樹4本に対してアメリカグリ1本が同等の価値と評価されていた。成木は真っ直ぐな幹で枝下高15m(30mに達するものも時々見られた)で、樹高は60m、胸高直径40㎝に達した。菌による胴枯病は40億本ものアメリカグリを枯死させ、東海岸ではまたたく間にその数を減らした。アメリカグリの一種チンカンピングリ(Castanea pumila)は特に胴枯病に感受性が強い。ヨーロッパグリや西アジアのクリも感受性が強いがアメリカ産のものほどではない。病気に抵抗性を持つものはニホングリ(Castanea crenata)やシナグリ(Castanea mollissima)などの抵抗性品種はアメリカ産品種と掛け合わせて病気抵抗性品種を生み出すために使われている[9]。
アメリカグリ財団(The American Chestnut Foundation)では抵抗性を得たクリについて、21世紀初頭にも元々の分布域に再導入することを計画している。
ヨーロッパにおける歴史 [編集]
この病気はアメリカ経由でヨーロッパに入ったと見られている。1938年にイタリア北部の港町ジェノヴァ(Genova)近郊で被害が確認されたのがヨーロッパで最初とされる。1956年にはフランスでの被害が確認された。
出典 [編集]
文献等 [編集]
- Wikipedia 英語版 en:Chestnut blight
- Wikipedia フランス語版 fr:Chancre de l'écorce
- 林業百科事典(日本林業技術協会著、丸善)
- 林業技術ハンドブック(全国林業改良普及協会)
脚注 [編集]
- ^ Anagnostakis SL (2000) Revitalization of the Majestic Chestnut: Chestnut Blight Disease.
- ^ Crop Protection Compendium 2005 Edition. Cryphonectria parasitica (blight of chestnut). CAB International, Wallingford, UK.
- ^ a b c d e 林業百科
- ^ Rare American Chestnut Trees Discovered (Washington Post 2006-05-19)
- ^ http://www.msnbc.msn.com/id/12861536/ns/technology_and_science-science/
- ^ The American Chestnut Foundation - Mission & History.
- ^ The American Chestnut Returns. By Fred Thys, for WBUR news. July 18, 2008.
- ^ Rogerson CT, Samuels GJ. (1996). Mycology at the New York Botanical Garden, 1985-1995. Brittonia 48(3):389-98
- ^ New RHS Dictionary of Gardening. By A. Huxley ed. 1992. Macmillan ISBN 0-333-47494-5.
