Cliché (大貫妙子のアルバム)

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Cliché
大貫妙子スタジオ・アルバム
リリース
ジャンル
レーベル RCA / RVC
プロデュース 宮田茂樹大貫妙子[1][2]
チャート最高順位
大貫妙子 アルバム 年表
EARLY TIMES 1976-77
1981年
Cliché
(1982年)
SIGNIFIE
1983年
『Cliché』収録のシングル
  1. 黒のクレール
    リリース: 1981年10月21日
  2. ピーターラビットとわたし
    リリース: 1982年9月21日
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Cliché』(クリシェ)は、1982年9月21日に発売された大貫妙子の6枚目のスタジオ・アルバム[2]。大貫のブレイク・ポイントとなった作品で[4]、次作の『SIGNIFIE』(1983年)と並んで、大貫の80年代を代表する傑作アルバムと評価されている[5]。大貫としては初となる海外レコーディングをフランスパリで行った[1]

概要[編集]

前々作の『ROMANTIQUE』(1980年)、前作の『AVENTURE』(1981年)と共に「ヨーロピアン三部作」と呼ばれ[5][注釈 1]、本作で一つの完成がなされた集大成的なアルバムと評されている[5][4]。前半のA面(CDでは1~4曲目)は、坂本龍一が編曲を担当。後半のB面(CDでは5〜10曲目)が映画音楽の作曲などを手がけるジャン・ミュジー (Jean Musy) の編曲によるフランス録音で、ヨーロッパ志向が深化している。

アルバム・タイトルの「クリシェ」は、フランス語で ”常套句” ”決まり文句” という意味。また音楽用語としては、ある和音を連続して使用するとき、その和音の中の一音を少しずつ変化させる技法のこと。大貫はタイトルに込めた意味について、「普段よく使われている音やメロディーをもう一度取り上げることで、そこから新しい価値観を生み出す」といった解釈であるといい、「私の中の音楽をフランスで録音することこそが私にとっての ″クリシェ″ でした」とも語っている[6]

制作[編集]

アルバム制作を始める前に、大貫はまずヨーロッパへ行こうと思い、都市への憧れからパリを選んだ。ジャン・ミュジーにアレンジを依頼したのは、大貫自身が好きだったフランシス・レイの楽曲のアレンジを手掛けていたという理由からである[7]。レコーディングの前にアルバム『ROMANTIQUE』と『AVENTURE』に手紙を添えて送ったところ、「非常に気に入ったから是非一緒に仕事をしたい、今度レコーディングする曲が出来次第送って欲しい。ただし、その曲を気に入らなかったらアレンジは出来ない」と、かなりの好感触であると同時に厳しい条件付きの返事を貰い、大貫は全力を挙げて曲を仕上げた[7]。出来上がった曲を送ったところ「全部OK」との返答が来たため、レコーディングのスケジュールを決めてパリへ向かい、初めに詞の内容や、こういう楽器を使って欲しい、この映画の様なイメージで、といった要望を伝えた。ジャン・ミュジーの楽曲制作は、まずピアノと歌のみで全曲を録音し、その上にシンセサイザー、ドラム、ベース、ギター、最後にストリングスを被せていくという、日本での作り方との違いを若干感じるものではあったが、アレンジに関して意見が衝突するようなことはなく、むしろ想像以上のものを作ってくれることの方が多かったという[7]。ジャン・ミュジーの仕事のやり方から大貫は、歌心、メロディーが持つリズムや流れといった基本的なものを学ぶことが出来たといい、コンピューターを用いた現代の日本のポップスとはかなり異なったフランスの音楽家の手法を見て、改めて「いいもんだな」と思ったと語っている[7]。なお、ジャン・ミュジーのアレンジだけではやりたい事を全て補うのは難しいとして、収録曲中数曲のアレンジは坂本龍一に依頼された。

アートワーク[編集]

ジャケットには大貫が絵描きに扮したカラフルなデザインが施されているが、これは前作、前々作とモノトーンが続き、”意地悪そう” や ”冷たい女” であるといったイメージが付くことに抵抗を感じた大貫自身の希望によるものである。撮影は写真家の大西公平[8]が担当している。

なお、LPレコードジャケットと同時発売のミュージック・テープとでは使用されている写真が異なっている。

収録曲[編集]

編曲:坂本龍一 (Side A : 1 - 4)[1]、ジャン・ミュジー (Side A : 5、Side B : 1 - 5)[1]

LP・CT[編集]

Side A[編集]

  1. 黒のクレール(4:59)
  2. 色彩都市(3:35)
  3. ピーターラビットとわたし(3:11)
  4. LABYRINTH(4:36)
  5. 風の道(3:32)

Side B[編集]

  1. 光のカーニバル(3:17)
  2. つむじかぜ〈tourbillion〉(3:10)
  3. 憶ひ出〈mémoire〉(3:43)
  4. 夏色の服(3:10)
  5. 黒のクレール (reprise)(3:09)

CD・SACD[編集]

  1. 黒のクレール
  2. 色彩都市
  3. ピーターラビットとわたし
  4. LABYRINTH
  5. 風の道
  6. 光のカーニバル
  7. つむじかぜ〈tourbillion〉
  8. 憶ひ出〈mémoire〉
  9. 夏色の服
  10. 黒のクレール (reprise)

曲解説[編集]

  1. 黒のクレール
    大貫自身とても気に入っており、よく聴く曲だという。本作より1年近く前に発売されたシングルであるが、アルバムにはまだ収められていないため是非収録したいと希望し、1曲目に配された[7]
  2. 色彩都市
    当時の心境や生活態度といったものが現れており、大貫はこのアルバムで一番好きな曲であるとのこと。自分のことをこの曲の主人公のような女性だと思ってもらって結構だと、冗談混じりに話している[7]
  3. ピーターラビットとわたし
    CARNAVAL」や「恋人達の明日」の延長線上にあるシンセポップとなっており、初めからこういったサウンドにしようと希望して制作された曲である。途中に聴こえるウサギの笑い声は、大貫自身の笑い声を録音して回転速度を上げたもの。ピーターラビットが笑うと多分こんな感じだろうと想像して作ったという[7]
  4. LABYRINTH
    アフリカン・ビートシンセサイザーを使って新しい世界を創りたいと制作された。「世の中に生まれて、いつの間にか迷宮の罠の中に巻き込まれている」ということをどうしてもテーマにしたかったとのこと[7]
  5. 風の道
    女性歌手RAJIEのために書かれた曲で、フランソワーズ・アルディの歌の世界をイメージして作られた。他人に提供した曲を自身のアルバムに収録するのは、大貫にとって初めてのことであった[7]
  6. 光のカーニバル
    フランスをイメージさせるこのメロディー・ラインは、元々自身の中に温めていたものだという。日本人のアレンジャーが手掛けると ”フランス風” になってしまうので、絶対、現地のミュージシャンに任せたいと思っていたが、本作でそれを実現出来てとても嬉しいと話している[7]
  7. つむじかぜ〈tourbillion〉
    編曲を担当したジャン・ミュジーが「オー・シャンゼリゼ」等のポップスのアレンジに携わっていることもあり、アルバムの中でポップな面が出せればと思い作られた曲[7]
  8. 憶ひ出〈mémoire〉
    映画のワン・シーンを想像させるような曲を作りたいとの思いから生まれた作品。大貫はこの曲を「非常にドラマティックな曲にしたい」と考え、その意図をアレンジャーに伝えたところ予想以上の完成度となって、ちょっとびっくりしたと語っている[7]
  9. 夏色の服
    詞のテーマは「置き去りにされる女」だったが、大貫自身はこのテーマに男尊女卑を感じるため好きになれず、「想っている女」と解釈を変えて曲を作ったという。ジャン・ミュジーの弾くピアノにはエリック・サティに通じるものがありとても気に入っているとのこと[7]
  10. 黒のクレール (reprise)
    大貫は本作を一つのトータル・アルバムと考え、「映画が終わり、字幕スーパーが静かに流れるといった状況を想像しながら聴いてもらえたら、私の『Cliché』は完成したという感じなんですが」と述べている[7]

参加ミュージシャン[編集]

黒のクレール

色彩都市

  • Keyboards, Drums: 坂本龍一
  • Guitar: 大村憲司
  • Percussion: 浜口茂外也
  • Background Vocals: EPO

ピーターラビットとわたし

  • Keyboards, Drums: 坂本龍一
  • Guitar: 大村憲司
  • Background Vocals: 大貫妙子

LABYRINTH

  • Keyboards, Drums: 坂本龍一
  • Guitar: 大村憲司

風の道

光のカーニバル

  • Keyboards: Jean Musy

つむじかぜ〈tourbillion〉

  • Keyboards: Jean Musy
  • Bass: Sauver Mallia
  • Drums: 村上秀一

憶ひ出〈mémoire〉

  • Keyboards: Jean Musy
  • Guitar: Claude Samara
  • Bass: Sauver Mallia
  • Drums: Pierre Alain Dahan

夏色の服

  • Keyboards: Jean Musy

黒のクレール(reprise)

  • Keyboards: Jean Musy

カバー[編集]

黒のクレール

色彩都市

ピーターラビットとわたし

  • やくしまるえつこ - アルバム『大貫妙子トリビュート・アルバム -Tribute to Taeko Onuki-』収録。

LABYRINTH

風の道

  • RAJIE - 大貫による提供楽曲。アルバム『キャトル』収録。
  • 岩崎宏美 - シングル『』カップリング曲。

夏色の服

  • 宮沢和史 - アルバム『大貫妙子トリビュート・アルバム -Tribute to Taeko Onuki-』収録。

発売履歴[編集]

発売日 レーベル 規格 規格品番 備考
1982年9月21日 Dear heart / RVC LPレコード RHL-8807[9]
カセット RHT-8807[9] LPとはジャケットが異なる
1984年8月21日 CD RHCD-7[9] 初CD化
1986年9月15日 R32H-1028[9] 再発盤
1991年8月21日 Dear heart / BMGビクター BVCR-2528[9]
1995年3月24日 Dear heart / BMG JAPAN BVCR-8016[9] Q盤 音パレード
1999年6月23日 BVCK-38012[9] RCA・CD名盤選書
2006年12月20日 BMG JAPAN/RCA BVCK-37120[9] リマスター盤・紙ジャケット仕様
2008年1月23日 BVCK-18022[9] リマスター盤
2018年11月28日 Sony Music/Great Tracks LPレコード MHJL-39[9] 再発売・リマスター盤
2021年12月8日 Sony Music/ALDELIGHT SACD MHCL-10151[9] 高音質CD

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ MIGNONNE』(1978年)、『ROMANTIQUE』(1980年)、『AVENTURE』(1981年)を「ヨーロッパ三部作」と捉える見方もあるが[4]、この『Cliché』の楽曲「黒のクレール」もヨーロッパの世界観を表現したものと評価されている[4]

出典[編集]

  1. ^ a b c d Cliché 2008
  2. ^ a b 6th Album: Cliché”. 大貫妙子 Taeko Onuki. 2022年11月9日閲覧。
  3. ^ オリコン 2006, p. 119
  4. ^ a b c d 「〈Part 2〉20世紀を代表するシンガー・ソングライター――大貫妙子『Cliché』」(長井 2013, p. 46)
  5. ^ a b c 「〈Part 1〉フィーチャリング・アーティスツ――大貫妙子『Cliché』」(木村 2020, p. 52)
  6. ^ 大貫 1983, p. 135
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n 大貫 1983, p. 134-143
  8. ^ Personal Value 大西 公平 / Kohei Ohnishi”. MADE IN WONDER. 2023年4月27日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g h i j k 大貫妙子 – Cliché”. Discogs. 2022年12月15日閲覧。

参考資料[編集]

  • オリコン『ALBUM CHART-BOOK COMPLETE EDITION 1970-2005』オリコン・マーケティング・プロモーション、2006年4月。ISBN 978-4-87131-077-2 
  • 大貫妙子・解説『ミュージック・ステディ』ステディ出版〈MUSICIAN FILE 大貫妙子徹底研究(パートⅡ)〉、1983年2月20日。 
  • Cliché』(ライナーノーツ)大貫妙子、RCA、2008年1月23日。BVCK-18022。  – 初盤は1982年9月
  • 長井英治:監修『日本の女性シンガー・ソングライター』シンコーミュージック・エンタテイメント〈ディスク・コレクション〉、2013年4月。ISBN 978-4401638048 
  • 木村ユタカ:監修『ジャパニーズ・シティ・ポップ』(増補改訂版)シンコーミュージック・エンタテイメント〈ディスク・コレクション〉、2020年2月。ISBN 978-4401648771 

外部リンク[編集]