クシエルの遺産
クシエルの遺産 (Kushiel's Legacy) は ジャクリーン・ケアリーによるファンタジー小説のシリーズであり、“フェードル三部作”と“イムリエル三部作[1]”から成る。中世ヨーロッパと類似する架空の世界を扱うため、歴史ファンタジーあるいは歴史改変SFと考えることができる。
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[編集] 作品
“クシエルの遺産” は以下の小説からなる。出版順は物語の時間的な流れと一致している。
- フェードル三部作シリーズ(フェードル・ノ・デローネイの物語)
- 第一部 クシエルの矢 (Kushiel's Dart、2001年6月)
- クシエルの矢 八天使の王国(2009年6月、早川書房、ISBN 978-4-15-020498-3)
- クシエルの矢 蜘蛛たちの宮廷(2009年8月、早川書房、ISBN 978-4-15-020501-0)
- クシエルの矢 森と狼の凍土(2009年10月、早川書房、ISBN 978-4-15-020503-4)
- 第二部 クシエルの使徒 (Kushiel's Chosen、2002年8月)
- クシエルの使徒 深紅の衣(2009年12月、早川書房、ISBN 978-4-15-020506-5)
- クシエルの使徒 白鳥の女王(2010年2月、早川書房、ISBN 978-4-15-020510-2)
- クシエルの使徒 罪人たちの迷宮(2010年4月、早川書房、ISBN 978-4-15-020513-3)
- 第三部 クシエルの啓示 (Kushiel's Avatar、2003年4月)
- クシエルの啓示 流浪の王子(2010年6月、早川書房、ISBN 978-4-15-020516-4)
- クシエルの啓示 灼熱の聖地(2010年8月、早川書房、ISBN 978-4-15-020519-5)
- クシエルの啓示 遥かなる道(2010年10月、早川書房、ISBN 978-4-15-020522-5)
- 第一部 クシエルの矢 (Kushiel's Dart、2001年6月)
- イムリエル三部作シリーズ[1](イムリエル・ド・ラ・クールセルの物語)
- 第一部 (Kushiel's Scion、2006年6月、未邦訳)
- 第二部 (Kushiel's Justice、2007年6月、未邦訳)
- 第三部 (Kushiel's Mercy、2008年6月、未邦訳)
当初、“クシエルの使徒”は“ナーマーの召使” (Naamah's Servant)、“クシエルの啓示”は“エルーアの子” (Elua's Child) と呼ばれる予定であったが、連続性及びブランドのために変更された[2]。
さらに、“Songs of Love and Death”(2010) におさめられた“You and You Alone”という作品がある。これはフェードルの養父であり師であったアナフィール・デローネイの謎めいた過去と、波乱に満ちた一生を通しての愛を描く。“クシエルの矢”と“クシエルの使徒”の間に読むことが勧められている。
“クシエルの世界”を描いたものとしては、イサンドルの子孫モイリンの活躍を描いた次の三部作もある。
- モイリン三部作(モイリン〈Maghuin Dhonn〉の物語)
- Naamah's Kiss (2009年6月、未邦訳)
- Naamah's Curse (2010年6月、未邦訳)
- Naamah's Blessing (2011年6月、未邦訳)
[編集] 背景
“クシエルの遺産”の主な舞台はフランスを思わせるテールダンジュ国、すなわち天使国である。その国民は天使国人と呼ばれ、聖なるエルーアとその仲間の堕天使の子孫である。唯一の神の御子であるユーシフの子イェシュアが十字架にかけられた時、地に落ちた血が聖女マグダレーナの涙と交じった後に母なる大地によって再生させられ、エルーアは生を受けた。祖父たる唯一の神にはねつけられて、エルーアは仲間の8柱の天使と大地をさまよった。幾年もの放浪の後に、エルーアと天使たちは後にテールダンジュとなる土地に落ち着いた。エルーアは“汝、涸れるまで愛せ”の教えを奉じ、エルーアと天使たちは当地の人間と交じりあって天使国人を生み出すことになった。エルーアはディオニューソスと“放浪する豊穣の神”を合わせたもので、自然、愛そして自由と結びついた存在である。
“クシエルの遺産”はエルーアの時代から約千年後が舞台であり、天使国人はエルーアとその8天使の仲間を神として信仰している。天使国人はエルーアの教え“汝、涸れるまで愛を尽くせ”を実践して生き、またナーマーが放浪の間自ら夜をひさいでエルーアの暮らしを支えたために、春を売る営みを神聖なる奉仕と見なしている。この奉仕は独自のギルドによって管理されている。さらに、各花館はナーマーが春を売った理由について独自の解釈を行い、これらの花館から構成される“夜の法廷”で奉仕することはナーマーの奉仕における最高のものであると見なされている。
テールダンジュは7つの領からなっており、それぞれの領が一人の天使を守護としている。カシエルだけは定命の愛に背を向け、また唯一の神を真に拒否はしなかったがために、守護する領を持たない。クールセル王家はラニャースにある王都エルーアからテールダンジュを統治する。シリーズ冒頭においては、テールダンジュと周辺諸国であるアラゴニアおよびチェルディッカ連合、そして遠きケベル・イム・アッカドとの関係は一般に良好であった。しかしスカルディアは長く天使国の征服を図っている。早瀬の主の影響のもとで、アルバおよびエーラとは希薄ながらも良好な関係を保っている。
シリーズ最初の3作の主人公はアングィセットたるフェードル・ノ・デローネイである。その特殊な能力によってフェードルは祖国を恐ろしい運命から救うことが出来た。次の三部作はフェードルの養子となったイムリエル・ノ・モントレーブ・ド・ラ・クールセルの物語である。
“クシエルの世界”の第三の三部作は父親が天使国人、母親がアルバおよびエーラにおけるクールセル王家の子孫であるモイリンの物語であり、“クシエルの遺産”の約200年後が舞台である。
[編集] 登場人物
[編集] フェードル三部作主要人物
- フェードル・ノ・デローネイ
- 三部作を通じた主人公であり、苦痛を快楽と転じ、受けた傷をあとかたなく癒すアングィセットと呼ばれる能力の持ち主。たぐいまれな美貌であるが、左目に“クシエルの矢”と呼ばれる赤い染みがある。下級貴族の父と神娼の母の間に生まれ、幼くして花館の奉公に売られる。アナフィール・デローネイに引き取られ、養女となって快楽と諜報の技を学び、外国語の達人となる。メリザンド・シャーリゼおよびイシドール・デーグルモールの裏切りを暴き、スカルディアの侵略を阻止する。イサンドル・ド・クールセルの信頼を得てその寵臣となり、アナフィールの領地モントレーヴを継いで女伯爵となる。その後もメリザンドとベネディクト・ド・ラ・クールセルのイサンドル暗殺の陰謀を阻止し、パーシィ・ド・サマヴィーユの王都エルーア攻略の企みを失敗に導くことに尽力する。10年後、メリザンドの依頼を受けて、失踪したベネディクトとの息子イムリエル・ド・ラ・クールセルを探索してドルージャン後宮から救出し、自らの養子とする。引き換えにメリザンドから得た手がかりをもとにサバに赴いて唯一の神の御名を手に入れて堕天使ラハブを祓い、幼馴染の友ヒアシンスを呪いから解放する。
- アナフィール・デローネイ
- モントレーヴ伯爵家出身、フェードルの師でありフェードルを引き取った養父。故ローランド・ド・ラ・クールセル王子の恋人であり、その娘イサンドルの誓願騎士となって数々の陰謀から守る。メリザンドとイシドールによって殺される。
- アルクィン・デローネイ
- フェードルと同様にアナフィールに引き取られ、快楽と諜報の技を学んだフェードルの義理の兄弟。アナフィールとともに殺される。
- ジョスリン・ヴェルーユ
- キャシリーヌ修道士としてフェードルの護衛となるが、キャシリーヌの純潔の掟と神娼であるフェードルへの愛のはざまで悩み、修道会を破門される。その後はフェードルの愛人となり、冒険と苦難をともにするが、一時フェードルと離れイェシュト人と行動を共にする。美男で最強の剣士。
- ヒアシンス
- ツィンガン人の母と天使国人の父の間に生まれた混血児であり、フェードルの幼馴染。予言の才ドロモンドを持つ。スカルディア侵略に際してアルバからの援軍を呼び込むため、早瀬の主となって三姉妹諸島に囚われる呪いを受ける。フェードルによって呪いを解かれた後はシーベルと結婚し、アルバに住む。
- メリザンド・シャーリゼ
- 最大の悪役。天使クシエルの血の濃い、クシェスの名門貴族シャーリゼ家の出身。たぐいまれな美貌と頭脳を持ち、天使国の王位を狙ってさまざまな陰謀を仕掛ける。スカルディアによる侵略戦争を仕掛け失敗に終わったのちに逃亡し、ベネディクトと結婚して王位の血筋の息子をもうける。天使国の多くの民と数々の王子や貴族を死に至らしめ、その家を崩壊させたために多くの天使国人に憎まれる。天使国では死刑を宣告されているが、ラ・セレニッシマのアシェラト神殿の庇護を受け、ここに幽閉されていることで処刑を逃れている。
- イサンドル・ド・ラ・クールセル
- テールダンジュの女王。ガヌロン・ド・クールセルの孫。ローランドとイザベル・ド・ランヴェールの一人娘。
- ドラスタン・マブ・ネクターナ
- 黒猪氏族出身、アルバのクルアハ、継承戦争を勝ち抜き、援軍を率いて天使国に渡り、スカルディア軍を破ってイサンドルの配偶者となる。一年のうち半分をアルバ、残り半分を天使国で過ごす。
- イムリエル・ド・ラ・クールセル
- メリザンドとベネディクトの息子。10歳までは出自を知らされずエルーア修道院で密かに育てられる。カルターゲ奴隷商人に誘拐され、ドルージャン後宮に売られ苦難の日々を送るがフェードルによって助け出され、その養子となる。反逆者の血筋と高い王位継承順位ゆえに、陰謀と憎悪にさらされるが、フェードルとジョスランの愛と庇護をうける。
[編集] フェードル三部作 その他の登場人物
- ガヌロン・ド・ラ・クールセル
- イサンドルの祖父であり、前王
- ローランド・ド・ラ・クールセル
- イサンドルの父であり、王太子、三王子の戦いで死亡
- ベネディクト・ド・ラ・クールセル
- イサンドルの大叔父にあたる王子、ラ・セレニッシマに在住
- エドメ・ド・ロカイユ
- ローランドの婚約者、故人
- イザベル・ド・ランヴェール
- バルクィールの妹、ローランドの妃、イサンドルの母、故人
- バルクィール・ド・ランヴェール
- イサンドルの叔父、公爵
- ニコラ・ド・ランヴェール・イ・アラゴン
- バルクィールの従姉、アラゴニア王の弟に嫁す
- ヴァラール・ド・ランヴェール
- バルクィエールの娘、ケベル・イム・アッカドの太子に嫁す
- イシドール・デーグルモール
- カムラク領公爵、スカルディアと共謀して天使国王位を狙うが最後はヴァルデマールと刺し違える
- リヨネット・ド・ラ・クールセル・ド・トレヴァリオン
- ガヌロンの妹、アザールの雌獅子、息子とともに処刑される
- マルク・ド・トレヴァリオン
- リヨネットの夫
- ボードワン・ド・トレヴァリオン
- 公爵、マルクとリヨネットの息子、反逆罪により処刑される
- ベルナドット・トレヴァリオン
- ボードウィンの妹、ジスラン・ド・サマヴィーユの妻となる
- ガスパール・ド・トレヴァリオン
- フォルケー伯爵、マルクの従兄、アナフィールの友
- パーシィ・ド・サマヴィーユ
- 王軍総帥、公爵。反逆罪により処刑される
- ジスラン・ド・サマヴィーユ
- パーシィの息子
- クインティリウス・ルッス
- テールダンジュの海軍元帥、アナフィールの友
- テレジス・ド・モルネー
- 天使国の桂冠詩人、アナフィールの友
- ロクサーヌ・ド・メレリオ
- マルシリコスの貴婦人、女公爵
- マルミオン・シャーリゼ
- 従姉メリザンドの脱走を助けた妹ペルシアを殺害した罪で追放、アラゴニアに亡命する
- セシリー・ラヴォー-ペラン
- フェードルの恩師
- ファブリール・ノ・エグランティーヌ
- 元花館のお針子、のちに売れっ子の仕立屋
- ティ-フィリップ
- 元"フェードルの野郎ども"、後にフェードルに仕える
- モアレッド
- ドラスタンの妹
- ブリーディア
- ドラスタンの妹
- シーベル
- ドラスタンの妹、ヒアシンスの妻となる
- イーモン、グレーン
- アルバにおけるダルリアダ人の双子王。イーモンはスカルディア侵略において戦死
- ヴァルデマール・セリグ
- スカルディアの指導者、聖王
- チェーザレ・ストレガッツァ
- ラ・セレニッシマの統領(ドージュ)
- セヴェリオ・ストレガッツァ
- チェーザレの孫
- ミカ・ベン・シモン
- イェシュト人の若者。ジョスランからキャシリーヌの剣術を教わる
- カザン・アルタビアデース
- イリュリアの海賊
- プトレマイオス・ディカイオス
- メネケットのファラオ
- マハールカギ―ル
- ドルージャン王
- リジャス
- ジュベ・バルカルの王子
- カネカ
- ドルージャン後宮に囚われていたジュベ・バルカル人
[編集] クシエルの遺産シリーズにおける主な地名
[編集] テールダンジュ
天使国、エルーアと仲間の天使の末裔が住む、フランスにあたる。7つの領にわかれる。
- アザーレ
- テールダンジュの領で北岸に面す。天使アザによって築かれた。トレヴァリオン公爵家が治める。
- エザンド
- テールダンジュの領で南岸に面す。天使エシェトによって築かれた。メレリオ公爵家の当主“マルシリコスの貴婦人”が治める。マルシリコスはマルセイユにあたる。
- カムラク
- テールダンジュの領で東をスカルディアに接する。天使カマエルが築いた。デーグルモール公爵家が治める。
- クシェス
- テールダンジュの領で西岸に面す。天使クシエルによって築かれた。モールバン公爵家が統治する。シャーリゼ家の領地が属する。
- ショヴァール
- テールダンジュの領でアラゴニアに接する。天使シェマゼによって築かれた。アナフィール・デローネイの領地モントレーヴが属する。
- ナマール
- テールダンジュの領でアザールの南、ラニャースの北にある。天使ナーマーによって築かれた。ランヴェール公爵家が治める。
- ラニャース
- テールダンジュの領で王都エルーアを抱える。天使アナエルによって築かれた。サマヴィーユ公爵家が治める。王都エルーアはリヨンにあたる。
[編集] ヨーロッパにあたる諸国と地域
- アラゴニア
- スペインおよびポルトガルにあたる、首都はアミルカール。
- アルバ
- イギリスにあたる。早瀬の主によって他国から隔離されてきた。住民はクルイスネ人ともピクト人とも呼ばれる。統治者はクルアハと呼ばれ、姉妹の息子が後継者となる女系相続である。首都はブリン・ガリドゥム。
- イリュリア
- スロバキア、クロアチア、ボスニア、セルビア、アルバニアにあたる。
- ヴラリア
- ロシアにあたる。
- エーラ
- アイルランドにあたる。住民はダルリアダ人。アルバにもイニスクランを中心とする領地を持つ。
- クリティ
- クレタ島にあたる、ミノス王の子孫が統治する。
- ゴットランド
- ノルウェー、フィンランド、スウェーデンにあたる。
- サイセラ
- キプロスにあたる。
- スカルディア
- ドイツ、オーストリア、ポーランド、チェコにあたる。長らくテールダンジュの侵略を図ってきた。
- チェルディッカ連合国
- イタリアにあたり、中世イタリアのように多くの都市国家群に分かれている。
- チョワット
- ルーマニア、ハンガリー、ブルガリア、モルドバにあたる。
- フラットランズ
- ベルギー、オランダ、ルクセンブルクにあたる。
- ヘラス
- ギリシャにあたる。
- ユスケリア
- スペインとフランスにまたがるバスク地域にあたる、独立を求めるがこれを抑えようとするアラゴニアとの間に長年の不和がある。
[編集] ヨーロッパ外にあたる諸国
- ウマイヤート
- サウジアラビアにあたる。
- エフェジウム
- トルコにあたる。
- カルターゲ
- モロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビアにあたる、古代カルタゴの領域とほぼ一致する。
- ケベル・イム・アッカド
- イラン、アフガニスタン、イラク、パキスタンにあたる大国、首都はニネヴェ。
- サバ
- コンゴ、ウガンダ、ケニアにあたる、首都はティサール。
- ジェベ・バルカル
- エチオピアにあたるが、ソマリア、エリトリア、ジブチ、スーダン内部へ向けて国境は広がっている、首都はメロエ。
- シナ
- 中国にあたる。
- タタール
- モンゴルにあたる。
- トゥーファン
- チベットにあたる。
- ドルージャン
- アゼルバイジャンにあたる、首都はダルシャンガ。
- ヌビア
- スーダンにあたる。
- バクティプール
- ネパールにあたる。
- ボーディスタン
- インドにあたる。
- メネケット
- エジプトにあたる。ファラオが治める。首都はイスカンドリア。
[編集] 特定の国に属さない民族
- アマズィー
- 特定の居住地を持たない遊牧民であるが、主にカルターゲ南部に居住する。ベルベル人に類似する。
- イェシュト
- ユダヤ民族に類似する少数民族、各国に住む、ユーシフの子イェシュアを奉ずる。その宗教はユダヤ教とキリスト教の分離前の状態に類似。ハビル語を話す。一部の民は自らの国を建設するために北方に移住しつつある。
- ツィンガン
- ジプシー(ロマ)民族に類似する放浪の遊牧民族、各国に住むが、ボーディスタンに由来すると言われる。はるか昔エルーアを嘲ったために母なる大地に呪われ、流浪の民となる。
[編集] 脚注
- ^ a b 英国では“反逆者の世継ぎ”(Traitor's Heir) シリーズと呼ばれる
- ^ http://www.suvudu.com/2009/12/authors-share-once-titles.html