クオータ制
クオータ制(クオータせい、Quota System)は、政治システムにおける割り当て制度のこと。
目次 |
[編集] 概要
民主主義の帰結として国民構成を反映した政治が行われるよう、国会・地方議会議員候補者など政治家や、国・地方自治体の審議会、公的機関の議員・委員の人数を制度として割り当てることである。また、社会に残る男女の性差別による弊害を解消していくために、積極的に格差を是正して、政策決定の場の男女の比率に偏りが無いようにする仕組みのことでもある。
「クオータ制」の「クオータ」は quota と綴り、「割り当て、分け前、分配」の意味である。(「4分の1」を意味する「クォーター(quarter)」とは違う)
[編集] 発祥と普及
[編集] 発祥地
クオータ制の発祥地はノルウェーである。オスロ大学の教授でノルウェー左派社会党の党首を務めたベリット・オースが、新政党設立の際に党首就任を承諾する条件として、かねてより論じていた仕組み(=クオータ制)の採用を提示したのが始まりである。
産業革命によって農村地域から都市地域へと人口が大移動した際に、農村地域の代表を確保するために実施されていた「地域」割り当て制を「男女」に適用した。
1978年に制定されたノルウェーの男女平等法には、「公的機関が4名以上の構成員を置く委員会、執行委員会、審議会、評議員会などを任命または選任するときは、それぞれの性が構成員の40%以上選出されなければならない。4人以下の構成員を置く委員会においては、両性が選出されなければならない」(数値は1988年に改正)とある。
1986年には、グロ・ハーレム・ブルントラント首相と共に4割以上の閣僚が女性という「女の内閣誕生」として、全世界に報道された。日本でも新聞各社によって写真入で報道された。
[編集] 世界各国への普及
当初はノルウェー国内よりもデンマークなどで進み、やがてスウェーデン[1]など北欧諸国に浸透していき、欧州から男女平等の民主主義国家をめざす世界各国へと普及している。
アパルトヘイトで有名な人種差別の国だった南アフリカ共和国の女性議員割合は、民主化と殆んど同時に採用されたクオータ制によって32.8%で世界13位(2007年現在)。身分差別のカースト制度で有名なインドでは、クオータ制の一種であるリザーブシート=予め国民各層に議席を割り当てる仕組みを採用して8.3%となっている。
政治参加に対して男女間に残る格差を是正し、女性の政治参加を促し向上するには有効な仕組みである。
[編集] 普及の背景と国連
1945年、第2次世界大戦後にできた国際連合は、世界が平和で基本的人権の尊重される社会になるように、という願いで設立された。1946年、国連は「女性の地位委員会」を設置した。「女性の参政権に関する条約」(1952年)、「既婚女性の国籍に関する条約」(1957年)、「婚姻の同意、婚姻の最低年齢及び婚姻の登録に関する条約」(1962年)などを採択した。
1967年に「女性差別撤廃宣言」が採択され、1975年から国際女性年が始まる中、1979年に「女子差別撤廃条約」が採択された。条約加盟国を審査するため1982年には「女子差別撤廃委員会」が発足した。
日本では参政権こそ1946年に日本国憲法成立と同時に男女共に得たが、女性の国会議員が少なく男女の間で不平等な法律はなかなか改正されなかった。しかし、女子差別撤廃条約を締結するために、1984年に国籍法が改正され、1985年に男女雇用機会均等法を施行し、「男女の間で不平等だった学習指導要領の改正[2]」(1989年)を約束して、条約ができて6年後、世界で72番目の条約締結国になった。
以後、「育児休業法」(1991年)、「男女共同参画社会基本法」(1999年)、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(2001年)など法整備が進んでいる。
女子差別撤廃条約の第4条では【差別とならない特別措置】として暫定的な特別措置などを認めている。北欧諸国以外の条約締結国では、女性議員が圧倒的に少ないところが多くあり、国連の女子差別撤廃委員会で政府レポートの審査を受けることで、条約を履行するためにもクオータ制を採用するところが増えているようだ。
[編集] クオータ制を採用している国
※2006年8月時点
- 議員候補などのクオータ制を政党が綱領にしている国:73ヶ国163政党
- 国会議員のクオータ制を憲法で定めている国:14ヶ国(準備中3ヶ国)
- 国会議員のクオータ制を選挙法で定めている国:38ヶ国(準備中3ヶ国)
- 地方議会議員のクオータ制を憲法・法律で定めている国:30ヶ国
があり、国・地方議会議員へのクオータ制を憲法、選挙法、政党の何れか、または重複して実施している国は98ヶ国ある。
北欧など民主主義の先進国では、1970年代から各政党が次々と綱領に取り入れて、選挙候補者などで実施している。軍隊を持たない国として有名なコスタリカは、地方議会へのクオータ制を法で定めているだけだが、国会の38.6%が女性議員になっている。48.8%と世界一の女性国会議員割合になったルワンダのように、殺戮の動乱後に国連などの指導で、クオータ制を憲法に制定していく国も出てきた。
欧州諸国の中では女性の政治参画が遅れているフランスは2000年、パリテ(「完全なる平等」を意味する)法を作り、国・地方議会で女性議員が増加中である。法施行後の2001年の統一地方選挙では、22%だった女性議員割合が47.5%に一挙に増えた。2002年の国政選挙では、地方議会とは選挙制度の仕組みの違いもあり12.2%とあまり増えていない。しかし、2007年の選挙では、18.3%と効果が上がりだしている。また、同年に実施された大統領選挙後の内閣は男女半数で構成されている。
フランスがパリテを作ったのは、ベルリンの壁が崩れ(1989年)、民主主義とは何かを問うところから始まった。直接的な引き金は、国連による政界などへの女性進出調査(GEM指数)の順位がEUの中でギリシャ以下になったことだという。ちなみに1997年のGEMでフランスは41位と日本の34位[3]以下になっていた。
[編集] OECD30ヶ国の状況
経済協力開発機構(OECD)加盟30ヶ国のうちでは、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、オランダ、スペイン、ベルギー、オーストリア、アイスランド、ドイツ、スイス、オーストラリア、ルクセンブルク、メキシコ、ポルトガル、カナダ、ポーランド、イギリス、フランス、ハンガリー、イタリア、スロバキア、チェコ、韓国、アイルランド、ギリシャの26ヶ国の政党が採用している。
その中でもスウェーデン(45.3%)、デンマーク(36.9%)、ノルウェー(37.9%)、フィンランド(37.5%)、オランダ(36.7%)、ドイツ(31.8%)などはみな、女性の国会議員が31%以上いる国々である。
ノルウェー、フィンランド、フランスなどについで、2008年4月、スペインでも閣僚の半数が女性の内閣が誕生した。
女性の政治参画が遅れている韓国(13.4%)やギリシャ(13.0%)はクオータ制を含んだ法整備済みである。2004年4月まで韓国の女性国会議員割合は日本以下だったが、クオータ制を採用後は日本の9.4%を追い抜いている。イタリア(17.3%)、ドイツ(既に30%を超えている)が法整備の準備中。
ニュージーランド、アメリカ合衆国、日本、トルコの残り4ヶ国では、採用していないか野党の一部が採用しているだけとなっている。
1893年に世界初の女性参政権を確立したニュージーランド(32.2%)は、あえてクオータ制を必要としない国かもしれない。だが、未だ一部州の批准がなくて男女平等が憲法に明記できないアメリカ合衆国(15.2%)、イスラム教徒の多いトルコ(4.4%)、そしてOECDの中でトルコに次いで女性議員の少ない日本(9.4%)などは、フランスを見習ってクオータ制を採用する余地があるといえる。しかし、無理して女性議員を増やす必要は無いという意見もある。 日本においては2010年12月に閣議決定された「第3次男女共同参画基本計画」によって強力に推進しようとしており、特に政策・方針決定過程への女性の参画の拡大として2020年までに政治家・公務員・管理職・役員・大学教授等指導的立場にある者の30%を女性にするといういささか強引な目標を掲げている。しかしながら同計画では機会の平等ではなく結果の平等に眼目が置かれ、それによって排除される優秀な男性についての救済は全く考慮されていない。
[編集] 脚注
- ^ スウェーデンにはクオータ制の法はないが、「民主主義の基本は議会に男女が同数いること」、「男女同数は民主主義のスタート地点」ということで、比例代表名簿は男女交互になっている。
- ^ 具体的には、中学・高の家庭科が女子にのみ必修科目として課せられ、技術教育等を受ける機会が与えられていなかった。家庭科はもともと戦後教育の柱であった男女共学を反映して男女共通の科目として展開されていたが、「女子の特性」を重視した家庭科教育の充実を提唱する全国家庭科教育協会など家庭科教師団体などが中心となり、高等学校では女子のみ必修化され、中学校では男女別カリキュラムに再編された経緯がある。
- ^ 日本は初回1995年の27位から、1997年34位、1998年38位、2000年41位、2003年44位と下がり続け、2006年では42位。日本で女性議員が増えている以上に、世界各国での伸びの方が大きいからとされる。
[編集] 関連書籍
- 『ママは大臣パパ育児』(三井マリ子、明石書店)
- 『男を消せ! - ノルウェーを変えた女のクーデター』(三井マリ子、毎日新聞社)
- 『男女同権は女性を幸福にしない』(山下悦子、PHP研究所)
- 『日本の男性の人権』(山本弘之、星雲社)