ギヤードターボファンエンジン

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ギヤードターボファンエンジン
1.ファン
2.減速機構(遊星ギヤ)
ボンバルディア チャレンジャー 600に搭載されたALF 502ギヤードターボファン

ギヤードターボファンエンジン(Geared Turbo Fan Engine, GTF)とは、ジェットエンジンの一種をいう。GTFは従来のターボファンエンジンの発展形であり、従来と異なるのは、ファンを減速して駆動するために遊星歯車機構を採用する点である。

概要[編集]

(比較)ターボファンエンジンの構造
ファンの軸に減速機構が無い

一般にターボファンエンジンは、ファンの直径をより大きくする、すなわちバイパス比を大きくすることで燃費を改善することができる。バイパス比を大きくする事は、すなわちファンと低圧タービンの直径の比が増える事を意味するが、ファンの回転数を変更せずに極端に大径化すると、ファンブレードの先端が音速に達してしまい、造波抗力によって極めて大きな損失を生じてしまう。一方、従来のターボファンエンジンにおいてはファンと直結している低圧コンプレッサ及び低圧タービンは、回転数をある程度より下げると圧縮効率が著しく低下してしまう。したがって、ファンの回転数を下げるにも限界があった。

仮にファンの回転数をファンブレードにとって最適な速度で回転させようとすると低圧コンプレッサ及び低圧タービンの回転数は下がり、その為、ファン及び低圧コンプレッサを回転する為に必要なエネルギーを取り出す為に低圧タービンの段数を増やさなければならないというジレンマが生じる。ここで遊星歯車による減速機構を導入し、低圧圧縮機軸とファン軸の間のギア比を変えることでファンと低圧タービンをそれぞれにとって最適な回転数で運転することが可能になる、と言うのがギヤードターボファンエンジンの基本的なコンセプトである。ファンと低圧コンプレッサが自身にとってより高効率な回転数で回転できる事により、エンジンの圧縮機段数と部品点数を減らす事が出来る。

ファンとコンプレッサの間に減速ギアボックスを挿入したスタイルを持つGTFの構造は、本質的にターボプロップエンジンプロペラをタービンと同軸のダクテッドファンとしたものといえる。

このような仕様のエンジンとしては、長年使用されているハネウェル TFE731ハネウェル ALF 502/507や、最近のプラット・アンド・ホイットニー PW1000Gがある。

ギヤード・ターボファンでは、一般的なハイバイパス比ターボファンエンジンと同様、減速ギアボックスを通じて駆動されるファンが大半の推力を生み出し、その他の推力はエンジン排気から直接生み出される。

ハネウェル TFE731[編集]

ハネウェル TFE731ライカミングが開発してアライドシグナルを経て現在はハネウェル・エアロスペースが生産するビジネスジェット機用のギヤードターボファンエンジンである。 このエンジンは1972年からガレット・エアリサーチ (Garrett AiResearch) により設計・製造されていた。現在はハネウェル・エアロスペースにより製造されている。累計の生産台数は11,000台以上である。

ハネウェル ALF 502[編集]

ハネウェル ALF 502/LF 507ライカミングが開発してアライドシグナルを経て現在はハネウェル・エアロスペースが生産するギヤードターボファンエンジンである。1980年に認証を取得してBAe 146ボンバルディア チャレンジャー 600に搭載される。高推力のLF 507はアブロ RJの更新型のBAe 146に搭載される。初期に開発されたYF102は試作機であるノースロップ YA-9に搭載された。CH-47ヘリコプター用のターボシャフト・エンジンであるT55-712を元に開発された。

ハネウェル LF 507[編集]

ハネウェル ALF 502/LF 507ライカミングが開発してアライドシグナルを経て現在はハネウェル・エアロスペースが生産するギヤードターボファンエンジンである。ALF 502の強化型でBAe 146に使用される。

プラット・アンド・ホイットニーPW1000G[編集]

Nuvola apps kaboodle.svg 映像外部リンク
Nuvola apps kaboodle.svg PW1000G

プラット・アンド・ホイットニーは1998年頃からPW8000として知られるギヤードターボファン (GTF) の開発に着手した[1]。このエンジンは、本質的にはプラット・アンド・ホイットニーPW6000の改良型であり、そこからファンを取り除いて、ギアと新しい2段のファンに取り替えたものである。数年後、PW8000は中止された[2]。 その後まもなくAdvanced Technology Fan Integrator (ATFI)計画が持ち上がり、まだPW6000のターボ機械を使用していたが、新しいギアボックスと単段式のファンが加えられた。これがドイツのMTUとの共同開発による新しく設計されたコアを基にしたGTF計画に繋がった。

さらにギヤード・ターボファンの現在の設計には経済性を高める為の可変エリアノズルが含まれる。[3]

2008年7月、このGTFはPW1000Gへと改名された[4]

プラット・アンド・ホイットニーによると、PW1000Gはナローボディ機リージョナルジェット機において、従来のエンジンに比べ10%から15%の燃費改善効果があり、より静粛であるとのことである。[5]

エンジンはプラット・アンド・ホイットニーのボーイング747-SP[5]に懸架されて試験され、PW1000Gの飛行試験の第2段階ではエアバスA340-600の第2パイロンに懸架され2008年10月14日にトゥールーズで最初に飛行した。[6]

PW1524Gの試験は2010年10月に開始された。[7]

量産開始は2013年になる見通しである。[5]

仕様[編集]

出典: プラット・アンド・ホイットニー,[8] flightglobal.com,[9][10] エアバス[11]

形式 PW1100G PW1215G/1217G PW1400G PW1521G/1524G
ファン直径 81 in (2.1 m) 56 in (1.4 m) 74 in (1.9 m)
バイパス比 ~12:1 ~12:1 ~12:1
推力 24,000–33,000lbf (110–150kN) 15,000–17,000lbf (67–76kN) 25,000–32,000lbf (110–140kN) 21,000–23,300lbf (93–104kN)
燃費(現在のエンジンとの比較) -12.5% −12% −14%
騒音 (ステージ4に対して) −15 dB −20 dB
航空機1機あたりの二酸化炭素の排出量削減 −2,700 t −3,000 t
NOx排出 (CAEP 6に対するマージン) −50% −55%
重量 (現在のエンジンとの比較)
構成[12] 1-G-3-8-2-3 1-G-2-8-2-3 1-G-3-8-2-3 1-G-3-8-2-3
搭載機 A320neo MRJ MS-21 Cシリーズ
運用開始 2015年 2017年 2016年 2013年


一般的特性

  • 形式: ターボファン (1215G, 1217G, 1521G, 1524G)
  • 全長:
  • 直径: 1,422–1,854ミリメートル (56.0–73.0in)
  • 乾燥重量:

構成要素

  • 圧縮機: 軸流式, ギヤードファン:1段, 低圧:2-3段, 高圧:8段
  • 燃焼器: アンニュラー式燃焼器
  • タービン: 軸流式, 高圧:2段, 低圧:3段

性能


出典:MTU[13]

特徴[編集]

低燃費
GTFは、バイパス比の増大によって燃費が改善される。例えばPW1000では従来型比12%の燃費改善が謳われている。
低騒音
GTFは、ファンが従来よりも低速で回転しているため、風きり音が低減される。
圧縮機の単純化
高回転の駆動によって圧縮機の効率が向上するため、GTFでは圧縮機の段数を削減することができる。これにより、重量の低減・メンテナンス性の向上・製造コストの低減を実現できる。
遊星歯車機構の採用
GTFには減速機構として遊星歯車が用いられる。この遊星歯車の数は、ファンの高出力に耐えるため、他用途の場合より増加しており、より複雑な機構となっている。遊星歯車の数は、通常の用途では3個が一般的であるのに対し、例えばPW1000では5個の遊星歯車が採用されている。なお、大出力エンジンに遊星歯車を採用しようとする場合、更なる大出力に耐えるためにより一層複雑な機構を採用せざるを得ず、機械駆動による騒音、振動の増加、信頼性、メンテナンス性の低下などの問題が顕在化するため、遊星歯車を採用して問題が生じないのはPW1000程度の低出力型に限られる。
なお、ターボプロップエンジンでは、遊星歯車機構に加えてより複雑な可変ピッチ機構とが採用されているものもあるが、実用化されているのは、PW1000Gのコア出力に相当する1万馬力級までであり、これを大幅に超えるような大出力エンジンは実用化されていない。ちなみに、従来型のターボファンエンジンではPW1000の数倍の推力をもつものが実用化されている。

搭載機[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Pratt & Whitney's surprise leap.
  2. ^ The Short Life and Untimely Demise of the PW8000
  3. ^ P&W readies for CSeries “third knob” engine testing”. 2011年2月27日閲覧。
  4. ^ P&W launches geared turbofan plane engine”. The Gazette (2008年7月14日). 2008年7月14日閲覧。
  5. ^ a b c Garvey, William. Pratt Gears Up for PW1000G Aviation Week. Accessed: 9 January 2011.
  6. ^ Airbus-owned A340 flies P&W geared turbofan engine
  7. ^ Pratt & Whitney geared PW1524G testing underway”. 2010年10月31日閲覧。
  8. ^ PurePower PW1000G
  9. ^ P&W seals deal to begin design on GTF for Russia's MS-21
  10. ^ Airbus set to launch A320 NEO
  11. ^ Airbus offers new fuel saving engine options for A320 Family
  12. ^ ファン-ギア-低圧圧縮機-高圧圧縮機-高圧タービン-低圧タービンの順番で数字はそれぞれの段数をあらわす。
  13. ^ MTU

出典[編集]

文献

関連項目[編集]

外部リンク[編集]