ガングラン

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ガングラン(Gingalain)はアーサー王伝説に登場する円卓の騎士ガウェイン卿の息子とされ、中世のロマンスには彼の物語が多く残されている。通称は版によって異なる場合があるが、ル・ベル・アンコニュ(Le Bell Inconnu)、ザ・フェア・アンノウン(The Fair Unkwon)。どちらも表記がフランス語英語かの違いであって、意味するところは「無名の美男子」。英語版では『リベアウス・デスコヌス』に登場し、知られている。フランスでは、ルノー・ド・ボージュ(Renaut de Beaujea)の『ル・ベル・アンコニュ』[1] 、現存はしていないが13世紀の写本、『Gliglois』で主人公を務めている。はっきりとはしていないが、『Gliglois』はガウェインの息子である人物、あるいはその他のフェア・アンノウンの物語群に属するものと考えられている[2][3]

フェア・アンノウン物語群[編集]

フェア・アンノウン(Fair Unkwon)とは、貴種流離譚の一種。素性を知らない、あるいは隠している無名の美青年を主人公とする物語。たいていは本名の代わりにニックネームを付けられた主人公が冒険の末に貴婦人の愛を得え、また最終的には高貴な血筋であることを認められる、という形式を取る。

この場合の「Fair」は「公正・公平」の意味ではなく、文語的な表現として「美しい」の意味。マイ・フェア・レディとだいたい語法は同じ。

この物語群に属する人物として、ガングラン卿のほか、ガングラン卿の叔父にあたる「ボーメン」(美しい手、転じて女性的で騎士にふさわしくない手)ことガレス卿、パーシヴァル卿(ただしマロリー版でなくクレティアン版、ブルフィンチ版)、「ラ・コート・マル・タイユ」(だぶだぶなコート)ことブルーノ・ル・ノワール卿[4]など。その他、ガングラン卿の父、ガウェイン卿も少年期は素性を知らず、「外套の騎士」(Kight of Surcort)と名乗り旅をしていた時期がある。

ガングランの冒険[編集]

だいたい、ほとんどのロマンスにおいてあらすじは共通しており、著者によって若干強調する部分が異なる程度である。ガウェイン卿は森で出会った妖精・ブランシュマル(Blanchemal、フランス語で白い痛み)との間にガングランをもうける(母親がラグネルになっているものもある)。ブランシュマルはガングランの出生をひた隠しにし、一切血筋について情報が入らないようにしていた。しかし、ガングランは森で少年の騎士に出会ってしまうと、自分も騎士になることを望み[5]、アーサー王の宮廷に旅立つ。ここでガングランは自分の名前を知らなかったので、「ル・ベル・インコニュ卿」として騎士に任命される。

やがて、宮廷にウェールズの王女、「金髪のエスメレ」からの使者がやってくる。強力な魔法使いのマボン(Mabon)[6]の包囲攻撃に苦しめられており、是非とも助けて欲しいというのである。ル・ベル・インコニュはアーサー王にこの使者と王女の侍女を連れ、冒険の旅に出ることを願い出るのであった。

こうしてウェールズへ向かう途中、ル・ベル・インコニュはさらにいくつかの冒険をすることになる。その中でも特筆すべきは魔法使い、マルジェ・ル・グリ(Malgier le Gris)との戦いである。ル・グリは黄金の島(Ile d'Or)の女主人(版によっては妖精や魔法使い)、「白い手のピュセル」(Pucelle aux Blanches Mains)の求婚者であったが、ピュセルからは嫌われていた。そのため、ピュセルはル・グリを打ち負かし、自分を救い出したル・ベル・アンコニュに感謝し、領地を持参金にして結婚を申し込む。2人は結婚する気になるものの、ル・ベル・アンコニュはなるべく早いうちにウェールズの王女を救い出すという義務を負っていたので、再び旅に出るのであった。

そして、ル・ベル・アンコニュはエスメレを助け出すことにも成功する。この後、ル・ベル・アンコニュは、第一の訪問の際、突然辞去したことの謝罪のため、再びピュセルのもとへ訪問しばらく「黄金の島」に滞在し続けた。

アーサー王は、帰還しないル・ベル・アンコニュを宮廷におびき寄せるためにトーナメントを開催することにし、さらに彼をウェールズの女王となったエスメレと結婚させようと考えた。トーナメントに参加するならば、、ル・ベル・アンコニュはピュセルの愛を失ってしまい、永遠に会うこともなくなるだろうと思われた。だが、その犠牲にもかかわらず、ル・ベル・アンコニュはトーナメントに参加することを決意する。また、ピュセルも献身的にもル・ベル・アンコニュに尽くそうと、彼がトーナメントに参加できるよう、馬と従者、鎧などを輸送するのであった[7]。そして、最終的にガングランはエスメレと結婚し、またガウェイン卿の息子だったことが明らかにされる。この結婚について、ボージュは結婚とは情緒的な目的より社会的なものを満たすものだと言うことを強調している。

その他[編集]

ガングランはマロリーの『アーサー王の死』にも登場する。ただし、ル・ベル・アンコニュとしても冒険は収録されておらず、ほとんどさしたる活躍もない。端的に言えば、名前だけ登場すると言っても過言ではない。最終的に、叔父のモードレッド卿、アグラヴェイン卿とともに王妃グィネヴィアランスロット卿と不倫関係にあることを調査しようとしたところ、証拠をもみ消そうとしたランスロット卿により殺害されてしまった。なお、ランスロット卿が1人だったのに対し、ガングラン達は13人もいたのに、モードレッド卿を除く全員が十把一絡げに全員殺されてしまい、モブ以上の活躍はしていない。

脚注[編集]

  1. ^ Colby, Alice M. The Lips of the Serpent in the "Bel Inconnu". Madrid: Playor. 1977
  2. ^ Review author: Nitze, W. A. Gliglois. A French Arthurian Romance of the Thirteenth Century. Modern Philology. 1933
  3. ^ Livingston, Charles H. Gliglois. A French Arthurian Romance of the Thirteenth Century. Cambridge: Harvard University Press. 1932
  4. ^ Wilson, Robert H. The "Fair Unknown" in Malory. PMLA. 1943
  5. ^ Broadus, Edmund Kemper. The Red Cross Knight and Lybeaus Desconus. Modern Language Notes. 1903
  6. ^ Colby-Hall, Alice M. Frustration and Fulfillment: The Double Ending of the Bel Inconnu. Yale French Studies. 1984
  7. ^ Sturm, Sara. The "Bel Inconnu's" Enchantress and the Intent of Renaut de Beaujeu. The French Review. 1971

外部リンク[編集]