ガストフロント

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ガストフロント(gust front)とは、積乱雲からの冷たい下降気流が水平に吹き出し、周囲の暖かい空気の衝突した際にできる、上昇気流を伴った小規模な前線のことである[1][2]。gustは突風、frontは前線を意味するため、突風前線、陣風前線とも言う。

ダウンバーストの先端に形成されるガストフロント(黒い点線の部分)

積乱雲から吹き出す冷たい気流(outflow)と周囲の空気の境界であるoutflow boundary(噴流境界)の1つ。

ガストフロントが発生する範囲は狭く、その寿命も短いため、局地現象の1つである。

発生のメカニズムとその一生[編集]

スーパーセル内の気流の流れを示した図。一番下にある"gust front"がガストフロント。
スーパーセルを地図に表した図。図中に2つある前線がガストフロント。

積乱雲の発達[編集]

積乱雲は、強い上昇気流によってがどんどんと上空に発達していくことで強まる。1つの大きな雲の塊に見える積乱雲であるが、1つの雲の下でもが降ったり降らなかったりさまざまな領域があることから、その中には複数の積乱雲のまとまり(降水セル、単にセル(cell)とも言う)があることが知られている。

降水セルの中には、強く発達してスーパーセル(supercell)と呼ばれるものもある。ガストフロントは、このスーパーセルと呼ばれる発達した積乱雲に伴って生じる。

降水セルの中には、上昇気流の部分と下降気流の部分がある。

上昇気流の部分では、下降気流の影響もあって冷たくなった空気の層の上を、暖かく湿った空気が乗り上げるようにして上昇することで上昇気流が発生している。上昇気流は積乱雲や積雲が発達するのに不可欠な空気の対流活動であり、地上付近から対流圏界面(上空10~15km)付近にまで空気が上昇していく過程で、空気に含まれた水蒸気凝結してを作る。

降水セルが大きく発達すると、雲の中にある雨粒や氷粒も発達し、上昇気流では支えきれなくなって落下を始める。ここで雨粒や氷粒の落下により下降気流が生じる。また、氷粒が乾燥した空気を通過すると、周囲の空気の昇華熱を奪うため、冷たい空気ができてそれが下降気流に加わる。そして下降気流は、落下した雨粒が降らせる集中豪雨が、蒸発する際に気化熱を奪い、大気の下層が冷やされてさらに上から下降気流を引き込むことで維持・増強される。

下降気流の部分では、時にが降ったり、激しい下降気流に伴うダウンバースト(down burst, 下降噴流とも呼ぶ)が発生したりする。ダウンバーストは、ガストフロントができる一歩手前の現象であり、ダウンバーストが持続するとガストフロントが形成される。

メソサイクロンの発生[編集]

発達した降水セル(スーパーセル)の中では、重く冷たい下降気流の部分に比べて、軽く暖かい上昇気流の部分の気圧が低くなり、上昇気流の部分を中心として、低気圧と同じ方向(北半球では反時計回り、南半球では時計回り)に気流が渦を巻いて回転し始める。すると、メソサイクロン(Mesocyclone, メソロウとも呼ぶ)と呼ばれる小規模の低気圧ができる。

メソサイクロンの周囲を回転する空気には遠心力が掛かり渦の外側に引っ張られるため、中心部の空気が薄くなって気圧が下がる。一方気圧が下がることで、気圧傾度力が働いてさらに周囲の空気を巻き込む。また、この規模の渦には地球の自転に起因するコリオリ力という力も働くため、気圧傾度力・遠心力・コリオリ力の3つの力が均衡して、低気圧としての気流の循環を維持している。

ガストフロントの発生[編集]

上昇気流を伴った非常に激しい突風(ガストネード)、2002年10月にアメリカウィスコンシン州にて撮影(PD NOAA)

発達したスーパーセルの中で下降気流が発生し続けると、冷たい空気が滞留して小規模な高気圧(メソハイ、meso-high)ができる。

メソサイクロンの中では、上昇気流の部分や下降気流の部分も回転している。下降気流は周囲に向かって流れ出しているが、メソハイができるとこの下降気流の周囲への吹き出しが強くなり、冷たい空気の塊が維持されたまま流れ出す。

メソサイクロンに向かって吹き込む暖かく湿った南東の風と、メソハイからの冷たい気流がぶつかると、寒冷前線に類似した気流の衝突面、いわゆるガストフロントができる。

1つのメソサイクロンの中には、メソサイクロンの進行方向に対して後面にできる"Rear-flank gust front"と、前面にできる"Forward-flank gust front"の2種類がある。片方だけができることもあれば、両方ができることもある。Rear-flank gust frontのもととなる冷たい下降気流を"Rear-flank downdraft"(RFD)、Forward-flank gust frontのもととなる冷たい下降気流を"Forward-flank downdraft"(FFD)と呼ぶ。

冷たい空気と暖かく湿った空気がぶつかるところでは上昇気流が発生するため、ガストフロントの付近では強い上昇気流が発生する。すると、地上付近では上昇気流を伴った激しい突風が発生することがある。

この突風に関しては、地上の地形や建造物により気流が変わり強まることがある。また、1つのガストフロントの中で上昇気流の部分が複数あり、細かく見ると複数の循環があることも指摘されている。

ガストフロント付近では、ウインドシアと呼ばれる、狭い範囲の中で風向や風速が大きく異なる状況が発生する。ここでは大小さまざまな空気の渦が多数できては崩れてを繰り返しており、このうちの1つの渦が偶然にも発達すると竜巻(たつまき、Tornado)となると考えられている。

上昇気流を伴った激しい突風は、不安定で短命な竜巻のような旋風を発生させることがある。これはgust front tornadoといい、俗語でgustnado(ガストネード)あるいはgustinadoと呼ぶこともある[3]

ガストフロントの消滅[編集]

ガストフロントは、冷たい気流の供給元となる積乱雲が、下降気流を放出し終えて弱まると同じように弱まっていく。ただガストフロントの上昇気流が、新たに積乱雲を発生させることもある。

ガストフロントの発生しやすい環境[編集]

ガストフロントは、発達した積乱雲が減衰期に入ったとき(詳細は積乱雲参照)によく見られる現象である。スーパーセルのように強力な循環や降水を持つ積乱雲の場合は、ガストフロントも強くなる。

一般的に、積乱雲が発生しやすい環境でガストフロントも発生しやすい。寒冷前線などの通過時、熱帯低気圧の接近時のほか、季に多く見られるのは地表を暖かく湿った空気が覆い日差しが強く対流活動が活発な時である。暖かく湿った空気の上に寒気が流入した時に対流活動が活発になることが多い。

ガストフロントの観測と予報[編集]

ガストフロントの雲。雲形分類ではアーチ雲にあたる。
スーパーセルを捉えたレーダー画像。画面下半分にある、"Rear-flank gust front"と"Forward-flank gust front"がガストフロント。

ガストフロントが発生すると、冷たい気流と暖かい気流の境界にアーチ雲と呼ばれる特徴的な雲ができることがある[4]。アーチ雲を目視できれば、雲の動きや大きさを元にガストフロントの移動方向や規模などを大まかに推定できる。

気象を観測する機器を用いてガストフロントを観測するには、気温気圧レーダー画像の時間変化を見るのがよい。ガストフロントが通過すると、ほぼ例外なく数分間に数℃のペースで急激に気温が低下し、一時的に数hPa程度気圧が上昇する。

気温が低下するのは、ガストフロントの進行方向に対して後ろ側に冷たい空気が控えているためで、体感でも分かる程度の気温の低下が見られる。気圧が上昇するのは、ガストフロントで気流が衝突して、衝突している部分の空気がやや圧縮されているためである。

また、レーダー画像からは、積乱雲がアーチ状に並んだガストフロントの雲を捉えることができる場合もある。また、ガストフロントの通過に伴って、短時間に強い雨が降りすぐ止む場合もある。

また、混合比を算出して時間経過を見ると、ガストフロントの通過に伴って、数分間で急激に低下することが多い。これは、ガストフロントの後ろ側の空気が、前の空気よりも冷たいために相対的に乾燥していることが原因である。

ガストフロントの予報は、積乱雲の急発達による集中豪雨竜巻ダウンバーストと同様に、局地現象であるため予測が難しい。気象機関では、ドップラー・レーダーによる積乱雲の観測などをもとに気象情報を発表する。日本では、雷注意報に付随して発表される竜巻注意情報が、竜巻・ダウンバーストともにガストフロントによる突風への警戒の目安となる。ただし、その警戒時間は発表から1時間程度で、避難などの猶予時間は短い。

このほかには、目視で積乱雲の接近を確認したり雷鳴が聞こえたりした場合は、ガストフロントによる突風が発生する可能性があるとみてよい。

ガストフロントに伴う突風の災害例[編集]

竜巻やガストネード(gust front tornado)にまで成長したものを除けば、ガストフロント付近で発生する突風は、風速は竜巻に比べて弱い。ただ、天候の急変に際して急に発生するため、稀に災害を発生させることがある。

日本でも、小規模なものは積乱雲が発達した際によく発生していると考えられているが、災害を引き起こすような例は少ない。2008年7月27日に福井県敦賀市で発生し、テントの舞い上がりにより死傷者が出た際のものが、初めて被害を出したものだとされている。ただし、このときの風は竜巻の藤田スケールで言えばF0であまり強いものではなかった。テントの構造が舞い上がりやすいものだったことが災害を引き起こした原因ではないかとされている[5][6]

アメリカ合衆国では、こういった局地的な激しい気象現象に対する研究が進んでおり、頻繁にガストフロントの発生が確認されているが、それでも精密な観測例は少ないとされる。

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]