オルフェオとエウリディーチェ

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オルフェオとエウリディーチェ』(Orfeo ed Euridice )は、クリストフ・ヴィリバルト・グルックが作曲した3幕からなるオペラ。グルックのオペラの中で最も有名な作品である。タイトルは『オルフェオとユリディス』や『オルフェオとエウリディス』などの表記もある。

概要[編集]

グルックは1741年に、メタスタージオの台本によるオペラ『アルタセルセ』(現在は紛失?)によって、オペラ作曲家としてデビューを果たす。イタリア国内で8作ものオペラを発表したのち、ロンドンに招かれ、同地でヘンデルと親交を結んだ。1750年に結婚したのち、1754年にオペラ『中国人』を発表して大成功を収め、これにより宮廷音楽監督の称号を得た。

『オルフェオとエウリディーチェ』は1762年に作曲された。台本作者のラニエーリ・カルツァビージと共にオペラ・セリアの改革に乗り出し、オペラ改革理論を実践で示した最初の作品である。同年、神聖ローマ皇帝フランツ1世霊名日に当たる10月5日にウィーンブルク劇場で初演された。音楽劇の改革理論に基づいて作曲されたもので、初演当時から大成功を収め、グルックのオペラの代表作となった。このオペラによって、ベルリオーズワーグナーらに多大な影響を与えた。

なお、このオペラは日本人が最初に上演した本格的な歌劇として、日本洋楽史上においても記憶されるべき作品である。森鴎外による訳(『鴎外全集』19巻、岩波書店;瀧井敬子『森鴎外訳オペラ『オルフエウス』』紀伊国屋書店)があり、その経緯や改訂版に関しては、瀧井敬子「新発見の森鷗外直筆の『オルフエウス』第二訳稿をめぐって」『東京藝術大学音楽学部紀要』34(平成 21年3月、PDFあり)がある。

1774年パリ版[編集]

『オルフェオとエウリディーチェ』には2つの版が存在し、ウィーン版(Wq.30、ウィーン原典版とも)とパリ版(Wq.41)と呼ばれている。上記の1762年にウィーン宮廷劇場で初演されたのがウィーン版であるが、パリ版は1774年8月にパリのオペラ座での上演に際して改作したものである。パリ版にはバレエ曲やアモーレの最初のアリアフルート独奏の「天国の野原」(いわゆる「精霊の踊り」)の場面が追加されている。またフランス語台本は詩人のピエール・ルイ・モリーヌがイタリア語台本から翻訳している。パリではカストラートが好まれなかったことから、オルフェオ役はオート・コントルに変えられ、歌や器楽曲が増やされて、作品全体の規模が大きくなり、オペラ座の大編成のオーケストラを十分に生かすように手が加えられた。

精霊の踊り[編集]

「精霊の踊り」(または「精霊たちの踊り」)は、オペラの第2幕第2場で天国の野原で精霊たちが踊る場面で演奏される有名な楽曲で広く知られている。のちにヴァイオリニストフリッツ・クライスラーヴァイオリン用に編曲し、「メロディ」というタイトルで作曲したが、これも知られている。ピアノ用の編曲はジョヴァンニ・ズガンバーティヴィルヘルム・ケンプによる二つが一般的に演奏会で使用される。

中間部に哀調を帯びた旋律をもつ3部構造の清楚で優雅な趣をもっており、旋律はオペラから独立してフルートの曲として現在も演奏されている。

原作と台本[編集]

ギリシア神話オウィディウスの「転身物語」(または転身譜)第10巻第1章と第11巻、及びウェルギリウスの「農耕歌」第4篇に基づく。

台本はラニエーリ・カルツァビージ

登場人物[編集]

エウリディーチェソプラノ)、オルフェオ(ウィーン版はカストラート、パリ版はオート・コントルで初演時はテノール。現代では、カウンターテノールバリトンメゾ・ソプラノが多い。)、愛の神(ソプラノ)

あらすじ[編集]

第1幕[編集]

月桂樹と糸杉の木立がエウリディーチェの墓を取り巻いている。オルフェオは友人と共に妻エウリディーチェの死を悼んでいる。オルフェオは泣き崩れ、「エウリディーチェ」と悲痛な声をあげる。絶望のあまり妻を連れ戻しに黄泉の国に下がると神々たちに言う。そこに愛の神が現れ、オルフェオの嘆きに心を動かされたゼウス神たち神々は憐れみ、彼が黄泉の国に行って妻を連れてくることを許すという。ただし愛の神は、彼の歌によって地獄の番人たちをなだめること、そして何があっても決してエウリディーチェを振り返って見ないことが条件である。もしオルフェオが自分の事態を説明しようとしたり、振り返ったりすると彼女は永久に失うという。オルフェオはこの難しい試練に挑み、黄泉の国へと向かう。

第2幕[編集]

第1場、洞窟の入口

嘆きの川の先におどろおどろしい洞窟の入り口に、復讐の女神や死霊たちが踊っている。復讐の女神たちはオルフェオを恐ろしがらせようとして、地獄の入り口で彼を押しとどめる。オルフェオは勇気をもって竪琴を取り、甘い歌声で彼女たちを静め、オルフェオに道をあける。そして復讐の女神や死霊たちは静かに消えて行く。

第2場、エリゼの園(エリシウムの楽園)

エリゼの園でエウリディーチェは妖精と共に、エリゼの園の静けさと平和を讃えて歌っている。その時オルフェオはエウリディーチェを発見し、オルフェオはエウリディーチェの姿を見えないようにして手を取り、地上へと向かう

第3幕[編集]

第1場、薄暗い洞窟の迷宮の中

オルフェオがエウリディーチェの手を引いて上がって来る。エウリディーチェは初めのうちは喜んでいたが、オルフェオがすぐに自分の方に見ようとしないことに不審を抱き、ためらう。エウリディーチェは夫の愛が冷めたのではないかと怪しんで、それ以上夫について行こうしなかった。絶望したオルフェオは耐え切れず、エウリディーチェの方を振り向いてしまう。そのとたん、エウリディーチェは倒れて息絶える。オルフェオは嘆き、そして短剣を取り上げて自ら自殺を決意する。その時、愛の神が現れ、彼を押し留める。愛の神は「お前の愛の誠は十分示された」と告げ、エウリディーチェは再び息を吹き返す。2人は喜んで抱き合う。

第2場、地上の愛の神の宮殿

オルフェオが羊飼いやニンフたちと共に愛の神に感謝し、羊飼いやニンフは踊りを捧げる。エウリディーチェも愛の神に感謝し、全員が愛を讃える。

オペラの中の有名な楽曲[編集]

  • 精霊の踊り(メロディ)
  • オルフェオのアリア「エウリディーチェを失って」
  • 復讐の女神たちの踊り(Air de furie)(バレエ音楽『ドン・ファン』の終曲に同じものが使われている)

録音[編集]

録音に関しては以下の通り。

指揮者 管弦楽団・合唱団 出演者 録音年 レーベル
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団
フェードラ・バルビエーリ
ヒルデ・ギューデン
マグダ・ガボリー
1951 Documents
ミヒャエル・ギーレン オーストリア放送交響楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
ヒルデ・レッスル=マイダン
セーナ・ユリナッチ
エミー・ローゼ
1953 Walhall
ピエール・モントゥー メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団 リーゼ・スティーヴンス
ヒルデ・ギューデン
ローレル・ハーリー
1955 Andromeda
ヘルベルト・フォン・カラヤン ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
ジュリエッタ・シミオナート
セーナ・ユリナッチ
グラツィエラ・シュッティ
1959 オルフェオ
レナート・ファザーノ イ・ヴィルトゥオージ・ディ・ローマ
(ローマ合奏団)
シャーリー・ヴァーレット(Ms)
アンナ・モッフォ(S)
ジュディス・ラスキン(S)
1965 RCA
ヴァーツラフ・ノイマン ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
ライプツィヒ放送合唱団
グレース・ハンブリー
アンネリーゼ・ローテンベルガー
ルート=マルグリート・ピュッツ
1967 EMI
カール・リヒター ミュンヘン・バッハ管弦楽団
ミュンヘン・バッハ合唱団
グンドゥラ・ヤノヴィッツ(S)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)
エッダ・モーザ(S)
1967 グラモフォン
ゲオルク・ショルティ ロイヤル・オペラハウス管弦楽団
ロイヤル・オペラハウス合唱団
ピラール・ローレンガー
ヘレン・ドーナト
マリリン・ホーン
1969 デッカ
リッカルド・ムーティ フィルハーモニア管弦楽団
アンブロジアン・オペラ合唱団
アグネス・バルツァ(Ms)
マーガレット・マーシャル(S)
エディタ・グルベローヴァ(S)
1981 EMI
シギスヴァルト・クイケン ラ・プティット・バンド
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント
ルネ・ヤーコプス(CT)
マリアンネ・クヴェイクジルバー(S)
マグダレーナ・ファレヴィッチ(S)
1982 Accent
ドナルド・ラニクルズ サンフランシスコ・オペラ管弦楽団
サンフランシスコ・オペラ合唱団
ジェニファー・ラーモア
ドーン・アップショウ
アリスン・ハグリー
1995 ワーナー
ペーター・マーク ガリシア交響楽団
マドリッド共同体合唱団
エヴァ・ポドレス(A)
アナ・ロドリーゴ(S)
エレナ・デ・ラ・マルセド(S)
1998 Arts
ヘスス・ロペス=コボス マドリード王立劇場管弦楽団
マドリード王立劇場合唱団
フアン・ディエゴ・フローレス(T)
アインホア・ガルメンディア(S)
アレクサンドラ・マリアネッリ(S)
2008 デッカ

関連作品[編集]