オカリナ
オカリナ(オカリーナ、ocarina)はエアリード(無簧)式の笛であり、ザックス=ホルンボステル分類では気鳴楽器に属する。旧来の分類法では、唇の振動を用いないので、陶器や金属などで作られていても、閉管形の木管楽器とみなされる。リコーダーやフルートなどとは共振系の形状が異なっており、音響学的には『ヘルムホルツ共振器(Helmholtz resonator)』[1]と呼ばれるものに極めて近い特性を持っている。
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概要 [編集]
オカリナという名称は、イタリア語の「小さなガチョウ(oca:ガチョウ rina:小さい)」に由来する。
イタリアや日本においては、名称から類推される通りの涙滴状の形をしたものが一般的だが、世界的に見れば丸形や角形などのオカリナも存在している。さらに、指穴の数や配置も決まっているわけではなく、6個から13個程度の指穴を持つオカリナが多い。このように外形だけでなく指穴の数や配置まで比較的自由に変更できるのは、後述の発音原理が関係している。オカリナは手で持って演奏する楽器であり、音高を変えるためには指穴を指で塞がねばならないので、持ちやすさ、より良い音、楽しさなどを求めて様々の形態が生み出されてきたのである。材質もまた様々で、プラスチック製のものも見られるが、素焼きの陶器で作られているものが多く、比較的容易に自作することもできる。
オカリナは歌口付近の構造がリコーダーとほぼ同じなので音を出しやすい楽器であり、簡単な曲はすぐに演奏できるようになる。しかし、息の強さや気温により音高が変動する点もリコーダーと同様なので、吹きこなすにはやはり相応の訓練を必要とする。また、音域が1.5オクターヴ程度と狭いため、楽曲によっては移調したり、音域の異なるオカリナを使い分けるなどの工夫も必要になる。
ちなみに、GM規格に対応したMIDI音源は、必ずオカリナの音色を備えていなければならないと規定されていて、実際のオカリナと同様に推奨音域は狭く設定されている [2] 。
歴史 [編集]
オカリナの起源はマヤ文明にまでさかのぼることができ、亀の形をしたものが発掘されている[3]。中国および中央アメリカにおいては動物の形状をしたオカリナが文化上重要な地位にあった。19世紀に西洋に伝わり、イタリアのジュセッペ・ドナティ (Giuseppe Donati) によりほぼ現在の形が確立された[4]。
発音原理 [編集]
オカリナの音は、歌口から吹き込んだ息の束(エアビーム)がエッジに当たることによって発生するのであるが、一般に楽器が十分な大きさの音を出すためには、振動源(励振系)だけでなく共振系が重要な役割を担っている。
オカリナも振動源に関しては、同じくエアリード楽器であるリコーダーやフルートと特に変わるところはなく、大きく別けてふたつの説が存在する[3][5]。ひとつ目の説は、エッジに当たった空気が楽器の内部に入って内部の圧力がわずかに上昇し、それによってエアビームが押し出されると圧力が低下して、再びエアビームが引き込まれるという現象の反復により振動が発生するというもの[1][5]。ふたつ目の説は、エッジに当たった空気がカルマン渦を生じ、これがエッジトーン(強風のときに電線が鳴るのと同じ現象)を発生させて振動源となるというものである[6][5]。
このようにして発生した振動に対して、リコーダーやフルートのような『管状』の管楽器の場合は管の内部にある空気の柱(気柱)が共振(共鳴)して音が出るのであるが、オカリナの場合は『つぼ状の空洞』の内部にある空気が共振して発音する。オカリナの共振系は、この意味では確かに一般的な管楽器との間に違いがあるということもできるわけで、リコーダーよりもギターやヴァイオリンに近いといえる。
オカリナの音色は、他の楽器と同様、素材の他に空洞や歌口の形状など様々の因子に影響されるといわれている。一方、音高の方は、リコーダーやフルートの場合、エッジから音孔(指穴)までの距離よってほぼ定まるのに対し、オカリナの場合はヘルムホルツ共振器の持つ特性から、内部の体積に対する開口部の大きさ(開いている指孔の面積の総和)によって決まり、指孔の位置にはほとんど影響されない[1][3]。これが、オカリナの場合は指穴の位置を比較的自由に配置することができる理由である。
オカリナの共鳴は、大きな空洞内の空気の振動によるもので、細い気柱の振動ではないため、速い息を吹き込んでも、十分なエネルギーを持った倍音が発生しにくい。従って、指穴の数とその開口部の面積がそのまま音域の広さを決定するため、倍音も利用する一般的な管楽器と比べて音域が狭いのである。ただし、空洞が比較的管に近い形状のオカリナなど、条件によっては倍音が出ることもある。
オカリナは管楽器ではない? [編集]
オカリナは『つぼ状の空洞』という特異な共振系を持っているのであるから、『発音原理』からみて閉管楽器に分類するのは誤りである、それどころか管楽器ですらない、『つぼ状楽器(vessel flute = ベッセルフルート)』と呼ぶべきであるとの主張も見受けられる[3][7]。
確かに、一見すると『閉管』と『つぼ状の空洞』とは全くの別物で、管楽器の頁の共振周波数を求める式と、Helmholtz resonatorの頁 のそれとは異なるように思われるが、実はそうではない。物理学は常に近似を用いるので、異なる系には異なる式を立てるから、違うように見えるだけである。
『つぼ状の空洞』は、少しずつ変形させていくと、ついには『閉管』にすることができる。ここまでは『つぼ状の空洞』で、ここからは『閉管』などという明確な境界線は存在しないから、あるところで急に物理が変わるなどということもあり得ない。『閉管』は『つぼ状の空洞』の特別な場合に過ぎないのであり、従って両者の物理は全く同じなのである。つまり、オカリナは空洞の体積に対する開口面積を変化させることによって音高を変えるのに対し、一般的な管状の管楽器は開口面積に対する空洞の有効体積を変えて音高を変えている(円筒管であれば、空洞の体積と長さは単純に正比例の関係となる)のであって、本質的な違いは何も無いのである。共振系が『つぼ状の空洞』であるために、オカリナは倍音をうまく利用することができないが、『管状』という特殊な形状の空洞を獲得した管楽器は、倍音を活用して音域を拡大しているわけであるから、管状の管楽器はつぼ状楽器の進化形ととらえることもできる。
このようにつぼ状楽器は、一般的な管状の管楽器と違うところが無いわけではないが、極めて近い親戚であって、あえて別のカテゴリーの楽器として区別する必要性がない。それというのも、そもそも『管楽器』は英語では『Wind instrument(風の楽器、息の楽器)』、ドイツ語では『Blasinstrument(吹く楽器)』、フランス語でも『Instrument à vent(風の楽器)』であることからわかるように、元来『管状』に決まっているわけではなく、『つぼ状』であろうと何であろうと一向に差し支えないからである。
そういう目で見るとすぐ気付くように、オーボエの先端はつぼ状に膨らんでいるし、トランペットの先端は朝顔(アサガオ)のような形状であって、単純な『管状』ではない。それなのに、なぜか日本ではこれを『管楽器』と誤訳してしまったために、『管状』ということばの定義すら明確ではないのに『管』という文字にとらわれ過ぎて、『管楽器とは管状の楽器のことである』→『管状でなければ管楽器ではない』という奇妙な誤解を招いているわけである。『管楽器』はまた『吹奏楽器』とも呼ばれるが、こちらの方が明らかに適訳であり、これならオカリナも何ら特異な存在ではなくなる。実際、『(オカリナは吹奏楽器のひとつであり、)動作はフリュウ・オルガン・パイプあるいはホイッスルのそれと類似である。構造は、共振機構がパイプでなく、(つぼ状の)空洞と孔の組合せである点が異なる』だけであると明確に記述している文献[1]もある。
しかし、管楽器という表現を使わないことにすると、オーケストラを管弦楽団と訳すこともできなくなるし、管楽器を『吹奏楽器』と呼ぶなら、打楽器はなぜ『打奏楽器』と呼ばないのかという話にもなりかねない。管楽器、弦楽器、打楽器といった旧来の楽器分類法には、このような日本語訳に伴う問題だけでなく、楽器分類学#概要に記されている通り、分類法として本質的な欠陥がある。もともと『発音原理』に基づく分類法ではないのであるから、『オカリナは発音原理からみて管楽器ではない』などという主張自体が無意味なのである。
楽器を『発音原理』の面から議論するのであれば、発音原理を上位分類要素として、楽器をより科学的・体系的に分類する方法であるザックス=ホルンボステル分類に基づいて考える方が合理的である。オカリナに関しては改めて議論するまでもなく、気鳴楽器の項に見る通り『容器型のフルート』として特異性を認められてはいるが、リコーダーと極めて近い位置関係にあるのがわかる。このことからも、オカリナとリコーダーは共振系の形状が異なるに過ぎず、『発音原理が異なる』などというほどの違いは無いということが理解できるだろう。
種類 [編集]
音域の高い方から、日本で市販されているオカリナの代表的な種類を示す。音名の表記法については音名・階名表記#オクターブ表記を参照のこと。なお、少数派ながら『つぼ状楽器』と呼ぶべきであるという説もあるのに、C管、F管などと表記すると、暗黙の内に『管』楽器であると強調しているように受け取られかねないので、ここではC調、F調などとしておくが、もちろんどちらでも間違いではない。
| 名称 | 通称・略称 | 主音の音名 |
|---|---|---|
| ピッコロ | ソプラノC調 | c3 |
| G調 | ソプラノG調 | g2 |
| F調 | ソプラノF調 | f2 |
| C調 | アルトC調 | c2 |
| ビッグG | アルトG調 | g1 |
| ビッグF | アルトF調 | f1 |
| バス | バスC調 | c1 |
脚注 [編集]
- ^ a b c d H.F.オルソン(著), 平岡正徳(訳)『音楽工学』誠文堂新光社, 1969年【抜粋:ヘルムホルツ共振器は、開孔により外側の自由な空気と結合されている囲まれた体積の空気によって構成され、楽器に用いられる最も簡単な共振系である。ホイッスル、オカリナ、ギター、ヴァイオリンなどの共振系は、ヘルムホルツ共振器をなしている。】ヘルムホルツ共振器は、ヘルムホルツ共鳴器と呼ぶこともある。
- ^ General MIDI Lite p.13 (3.4 サウンド・セット、PC#80)を参照のこと
- ^ a b c d 小川堅二. “オカリーナの部屋”. フルートオカリーナ館. 2006年10月7日閲覧。
- ^ Mary Bellis. “Giuseppe Donati invented the modern 10-hole ocarina” (英語). Inventors. About.com. 2006年10月7日閲覧。
- ^ a b c 安藤由典, 『新版 楽器の音響学』音楽之友社, 1996年, ISBN 4-276-12311-9
- ^ N.H.Fletcher(著), T.D.Rossing(著), 岸 憲史 他(訳)『楽器の物理学』シュプリンガー・ジャパン, 2002年, ISBN 978-4-431-70939-8
- ^ Suimin. “オカリーナは閉管楽器か”. オカリーナの小道. 2006年10月7日閲覧。