エグゾセ

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エグゾセ
Exocet AM39 P1220892-detoured.jpg
航空機発射型AM39 エグゾセ
種類 中距離対艦ミサイル
原開発国 フランスの旗 フランス
開発史
製造業者 MBDA
値段 MM38:45万ドル
AM39:65万ドル
SM39:85万ドル
MM40:60万ドル
※いずれも輸出時
製造数 MM38:1,262発
AM39:714発
SM39:24発
MM40:399発
1986年時点
諸元

誘導方式 中途航程:慣性誘導
終末航程:ARH誘導
発射
プラットフォーム
 
  • MM38 水上艦発射型
  • AM39 航空機発射型
  • SM39 潜水艦発射型
  • MM40 水上艦発射型

エグゾセ[脚注 1]フランス語: Exocetフランス語トビウオの意)は、フランスMBDA社が製造している対艦ミサイル。フランス語としての正しい発音は[ɛgzosɛt]であり,同じつづりの語exocet[ɛgzosɛ]「トビウオ」とちがって語尾のtが発音されるのがふつうである。英語では[éksəset]などと発音される。

水上艦(地上も含む)発射型のMM38、改良型のMM40、航空機発射型のAM39、潜水艦発射型のSM39と多くの派生型が開発されている。フォークランド紛争の実戦で使用されたこともあり、西側諸国艦対艦ミサイルとしてはもっともよく知られた機種のひとつである[1]

来歴[編集]

開発は1967年よりアエロスパシアル社によって着手された。1968年10月、フランス海軍の発注とともに、初めて公表された。また、1972年には航空機発射型のAM39の最初の試験が行われた。潜水艦発射型のSM39は1979年に初めて公表され、1981年に「アゴスタ」から最初の試射が行われた[1]

語源[編集]

ミサイルの名称はノール・アビアシオンの技術者であったM. Guillotによって与えられた[2]フランス語でトビウオを意味する。ギリシャ語ἐξώκοιτοςを起源とする。

構造[編集]

MM 38の箱型発射筒
 
MM 40の円筒形発射筒

原型のMM 38が開発された当初は、索敵・測的手段としては小型艦搭載の電波探知装置を想定していたことから、ミサイルの射程はその探知距離程度で良いと考えられ、40キロメートル前後として設計された。このため、推進装置としては、多少射程には劣るが加速性に優れる固体ロケットモーターを、ブースター・サステナーともに採用した。その後、1981年より生産が開始されたMM 40では、艦載機のレーダーによって探知された目標への攻撃想定が追加され、最大射程は65キロメートルに延伸された。また、発射機も、従来の箱型発射筒にかえて、よりコンパクトな円筒形とされている。その後1991年に発表されたMM 40 Block 2では、電波吸収体(RAM)の塗布によってレーダー断面積(RCS)を低減し、誘導装置の改善とあわせて、被撃墜公算を低下させている。また、電子防護能力も強化された[1]。さらに2002年からは、サステナーをターボジェットエンジンに変更することで射程延伸を図ったMM 40 Block 3の開発が開始されており、2010年3月18日には「シュバリエ・ポール」において試射が行われた[3]。なお、潜水艦発射型のSM 39は水密カプセルに収容されており、まず水中でカプセルの固体ロケット・モーターで加速して海上に浮上したのちに、ミサイルのブースターが点火される[1]

ファイア・アンド・フォーゲット型のミサイルであり、ミサイルの誘導方式としては、中途航程では慣性誘導を、終末航程ではXバンドのシーカーによるアクティブ・レーダー・ホーミング(ARH)誘導を採用している。また、MM 40 Block 3では、沿岸部の地上目標への攻撃を考慮して、終末航程での誘導にGPSも使えるようになった[4]

本機はシー・スキミング(超低空海面追随飛行)が可能な、いわゆるシースキマー型の対艦ミサイルである。水上艦搭載型の場合、発射後、まず2秒間のブーストによって高度30–70メートル (98–230ft)まで上昇したのち、電波高度計に従って高度9–15メートル (30–49ft)まで降下して巡航に入る。その後、目標の推定座標から12–15キロメートル (6.5–8.1nmi)まで接近したところで、ミサイルはシーカーを作動させるとともに、さらに攻撃高度まで降下する。これは通例8メートル (26 ft)であるが、海況が穏やかであれば2.5メートル (8.2 ft)まで降下することも可能である[1]

このミサイルは比較的小さく、特に目標が大型艦だった場合には撃沈することは困難であるが、メーカー側は、160kgの弾頭を備えたミサイルがマッハ0.9で突入すれば、十分に破壊的であると主張されている。ただし、フォークランド紛争米艦「スターク」被弾事件においては、ミサイルは直撃したにもかかわらず、弾頭は必ずしも起爆しなかった。信管としては、着発信管のほかにシーカーを介した擬似近接信管を備えている。この擬似近接信管は、シーカーからの情報をもとにして、ミサイルが目標に命中したと期待されるタイミングから0.015秒後に起爆するよう設定されている[1]

諸元表[1][3]
MM 38 AM 39 SM 39 MM 40 MM 40 block 3
直径 34.8cm
全長 520cm 469cm 469cm
カプセル収容時
580cm
580cm
翼幅 100cm 110cm 113.5cm
弾体重量 750kg 655kg 666kg
カプセル収容時
1,350kg
855kg 780kg
弾頭重量 165kg
サステナー 固体ロケットモーター ターボジェットエンジン
ブースター 固体ロケット・モーター
飛翔速度 マッハ0.93(315メートル毎秒, 615ノット
射程 42 km (23 nmi) 50–70km (27–38nmi) 50 km (27 nmi) 70 km (38 nmi) 180 km (97 nmi)

配備[編集]

フランス軍NATO諸国のみならず世界中の軍隊に広く輸出され、数々の実戦で示された実績により、フランスの有力な輸出兵器製品となっている。これまでの生産数は3,000発以上を数えている。

フォークランド紛争[編集]

イタリアの実業家で、当時駐伊アルゼンチン大使館の「経済顧問」の肩書でアルゼンチン軍の武器調達を担当していたリーチオ・ジェッリを経由して入手したエグゾセを、フォークランド紛争1982年)において、アルゼンチン海軍が使用したことにより、エグゾセは世界的に有名になった。

アルゼンチン海軍は、やはりフランス製のシュペルエタンダール艦上攻撃機から発射したエグゾセにより、イギリス海軍駆逐艦シェフィールド」(5月4日)や、コンテナ船アトランティック・コンベアー」(5月25日)を撃沈し、他にも陸上からの発射により駆逐艦「グラモーガン」(6月12日)に損害を与えた。アルゼンチン側は、5月30日軽空母インヴィンシブル」に命中させて損害を与えたと発表したが、イギリス側は否定している。

シェフィールドに命中したエグゾセは不発であったにもかかわらず、秒速315mの速度での突入と残燃料による火災は、同艦に重大な損害を与えた。突入時の衝撃により、艦上の発電システムが破壊され、防火システムの効果的な作動が妨げられ、これらが火災による沈没を引き起こした。シェフィールドの損失によってイギリスの自信は揺るがされ、エグゾセは一風変わった種類の尊敬を勝ち得ることになった。また、このエグゾセなる語は、イギリスにおける「致命的な一撃」を意味する口語体の表現にまでなった。

グラモーガンに命中したエグゾセもまた、不発であったが、この時も残燃料が大火災を発生させた。これはグラモーガンの乗員の迅速な行動が艦を救ったというのが事実のようである。エグゾセ突入までの1分未満の短い間に、グラモーガンは飛来するエグゾセに対して最大限の転舵を行った。その結果、艦は大きく左舷に傾斜し、エグゾセの舷側への命中は避けられたものの左舷甲板コーミングに命中して上方に弾かれた。この命中痕はグラモーガンの修復が1982年末に開始されるまではっきりと残っていた。

フォークランド紛争の後、イギリス政府とその情報機関が明らかにしたところによれば、当局はイギリス海軍艦艇の対艦ミサイル防御能力が不十分であると評価されていたことや、エグゾセの潜在的な能力が海戦をアルゼンチン軍側に決定的に有利にしてしまうことに重大な懸念を抱いていた。特に、イギリス海軍の2隻の空母(「インヴィンシブル」と「ハーミーズ」)の片方もしくは両方が、撃破されるか無力化される事が「悪夢のシナリオ」として懸念されていた。仮にそうなれば、フォークランド諸島の奪回はきわめて困難になると考えられていた。アルゼンチン軍もそれを意図して空母を狙ったものの、たまたま航空機を運送中であったコンテナ船アトランティック・コンベアーをハーミーズと誤認して撃沈し、空母撃沈は果たせなかった。

このような事態を防ぐべく、アルゼンチン軍がエグゾセを追加入手するのを妨げるためにイギリスの情報機関[脚注 2]が世界的な規模での活動を行なった。また、フランスもペルーへの輸出を拒否した。というのも、ペルーは自らが入手したミサイルをアルゼンチンに渡してしまうと言われていたからである[脚注 3]。しかし、この時点ですでにEC及びNATO加盟国からアルゼンチンへの禁輸措置が取られていた。

なお、エグゾセは当時のイギリス海軍の艦(カウンティ級駆逐艦リアンダー級フリゲートの一部、21型フリゲート22型フリゲートバッチ1)も、艦対艦ミサイルとして採用していた。しかしアルゼンチン海軍の活動が消極的であった事から、活用機会が無かった。

イラン・イラク戦争[編集]

1987年5月17日、エグゾセが命中し消火作業による注水で大きく傾いたオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲート、USS FFG-31「スターク」

イラン・イラク戦争において、イラク軍は200発とも推定されるエグゾセの空中発射型をミラージュF1により運用してイラン海軍の艦艇を攻撃したが、戦果はまちまちであった。投入されたエグゾセはタンカーやその他の民間船にもしばしば命中したが、大部分が不発であった(タンカー戦争を参照)。アメリカイギリスの爆発物処分専門家のチームは、そうした船舶から弾頭を、ときには完全なエグゾセを回収した。

1987年5月17日イラク空軍ミラージュF1は、アメリカ海軍オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲート、「スターク」をイランのタンカーと誤認し、2発のエグゾセを発射した。2発とも命中したが、弾頭が炸裂したのは1発のみであった。これによりスタークは重大な損害を受け、37名が死亡、21名が負傷したが、乗員の懸命のダメージコントロールにより沈没を免れ、修復のために後送された(スターク被弾事件を参照)。

なお、イラクMiG-23MLにはミラージュF1EQ-5/6からパイロンを流用し、エグゾセを搭載できるよう改修された機体があった。この場合、エグゾセを機体中央線下に装着するため、本来の固定武装である連装機関砲は取り外されていた。

採用国と搭載プラットフォーム[編集]

艦対艦型[編集]


地対艦型[編集]

潜水艦発射型[編集]

空対艦型[編集]

脚注[編集]

  1. ^ エグゾと表記・発音されることもあるが、フランス語の発音/日本語表記としては誤り
  2. ^ アメリカの情報機関が関与したとも言われている
  3. ^ 事実、後にペルーは自国のミラージュ5の一部を、減耗したアルゼンチン空軍に引き渡している

参考文献[編集]

関連項目[編集]