エクセルギー

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エクセルギー (: exergy) とは、 『が外界とのみ熱・仕事を交換しながら、 外界と平衡するまで状態変化するとき、 系から理論上取り出せる最大の仕事量』 のことである。 availability、available energy、有効エネルギー などとよばれることもある。

熱力学第二法則によると、 熱を仕事に変換するには常にカルノー効率による制約が伴うので、 熱に関連したエネルギーを扱うときには、 そのうちの有効に仕事に変換できる部分とできない部分とを 区別して扱うことが必要である。 前者がエクセルギーとよばれる [1] [2] [3] [4]

熱力学第一法則(エネルギー保存則)は常に成り立つので、 外界を含めた拡大系では、エネルギーの量は一定不変である。 「省エネルギー」、「エネルギーを節約する」と言うときの「エネルギー」は、 「エネルギーの価値」、「エネルギーの質」の意味であり、 これがエクセルギーに対応していると考えられる。 省エネルギーを念頭において機器の開発や改良を行う際には、 エクセルギーを用いた評価法は極めて有力な手段となる。

歴史[編集]

「熱から最大いくらの仕事が取り出せるか」との問題に最初に答えようとしたのは、 サディ・カルノー((N. L. Sadi Carnot))であり(1824)、 その 1/4 世紀後に、トムソン(W. Thomson, Baron Kelvin) と クラウジウス(R. J. E. Clausius)らにより 熱力学が確立される基礎となった。 このカルノーの問題意識はエクセルギーに対する問いそのものであり、 熱力学第二法則がその答えとなっている。

availability という用語は、 1868年のテイト(P. G. Tait) の書籍で 初めて「熱の仕事として利用できる度合い」の意味で用いられた。 マクスウェル(J. C. Maxwell)や トムソンはこれを available energy とよんでいた。 1873年にギブス(J. W. Gibbs)が自由エネルギーの概念を発表し、 1889年にグイ(M. Gouy)が、1898年にストドラ(A. B. Stodola)が エントロピー発生とエクセルギー損失の関係(グイ・ストドラの定理)を発見した。 1930年代に、アメリカでは キーナン(J. H. Keenan)が availability と命名して、 熱力学的概念の確立と普及に大きく寄与した。

エクセルギー概念が普及するにつれ、日用語と区別できる名称の必要性が認識され、 1956 年にユーゴスラビア(現スロヴェニア)の工学者 ゾラン・ラント (Zoran Rant) がエネルギー(en + ergon; 内への仕事)にならって、 ラテン語由来の接頭辞 ex (外へ) とギリシア語 ergon (仕事) の合成語として、 エクセルギー(exergy)の術語を提案し、 現在ではほぼエクセルギーが一般的に使用されている [2] [5]


熱流のエクセルギー[編集]

は物体から他の物体へ移動するエネルギーのひとつの形態であり、 物体の温度に密接に関連したエネルギーである。 温度 T の物体からとりだした Q の熱から得られる仕事の最大値は、 外界(温度 T0)との間でカルノーサイクルを動かしたとして、次式となる。


  W = \left( 1 - \frac{T_0}{T} \right) Q  \qquad \qquad \qquad \qquad (1)

外界よりも温度の低い物体は「冷熱」を持っているということもある。 この場合、外界を高温熱源、物体を低温熱源とするカルノーサイクルを用いれば、 最大


  W = \left( 1 - \frac{T}{T_0} \right) Q_0

の仕事が得られる。 ただし、Q0 はカルノー機関が 温度 T0 の外界から取り出す熱であり、 温度 T の物体に吸収される熱量 -Q [注釈 1]との間に


  \frac{Q_0}{-Q} = \frac{T_0}{T}

の関係がある。 これを用いると、


  W = \left( 1 - \frac{T}{T_0} \right) \frac{T_0}{T} (-Q) = \left( 1 - \frac{T_0}{T} \right) Q

となり、前記の Q > 0 の場合の式 (1) と同じ形となる。 冷熱の場合は、Q の値は負であり、カルノー効率 (1 - T0/T) も負であり、 結果として得られる仕事量は正の値となる。

結局、冷熱の場合も含めて、温度 T の物体が放出する熱流(物体から出る方向を正とする) Q のエクセルギーは


  E = \left( 1 - \frac{T_0}{T} \right) Q       \qquad \qquad \qquad \qquad (2)

で表される[2]

ある機器から放熱がある場合、放熱の間の物体温度は未知の場合も多いが、 物体の温度が一様に低下する(熱容量が一定)のであれば、 放熱前後の温度 T1 と T2 の対数平均値


  T_m = \frac{T_1 - T_2}{\ln (T_1/T_2)}

を用いて、


  E = \left( 1 - \frac{T_0}{T_m} \right) Q     \qquad \qquad \qquad \qquad (3)

とすることができる。

注釈[編集]

  1. ^ 物体から取り出す熱を正とすると、物体に吸収される熱 Q は負であり、 正の値にするためにマイナス符号をつけている。


物質の持つエクセルギー[編集]

ある状態の物質の持つエネルギーは 物質の出入のない系(閉じた系)では内部エネルギー、 そうでない系(開いた系)ではエンタルピーであるが、 この中には、仕事に変換できる部分とできない部分が含まれている。 物質が外界と平衡するまで状態変化を行うとき、 そこから取り出せる仕事の最大値が物質の持つエクセルギーである。

補助熱機関を加えた大きい系[編集]

対象とする物質(系)が任意の状態変化をするとき、 系は外界に対して仕事をし、同時に熱を放出する。 外界に対して行った仕事は上記の仕事の一部となるのに加えて、 外部へ放出した熱も、その後仕事に変換できる可能性がある。

図 1 補助熱機関を加えたより大きい系

そこで、右図のように系と並行して動作し、 系が放出する熱を受け取って仕事を取り出す補助熱機関を考える [注釈 1]。 系自身が行う仕事 Wi を内部仕事とよび、 補助熱機関が行う仕事を外部仕事とよぶ。 系から取り出せる仕事は、内部仕事と外部仕事を合わせた 有効仕事 Wg = Wi + We である と考えることができる [1] [注釈 2]。 ある状態の物質の持つエクセルギーは、 外界と平衡するまで状態変化を行うときに取り出せる有効仕事の最大値である。

このような有効仕事に対して、次の定理が成立する[1]

『与えられた二つの状態間で変化が行われる場合、 変化が可逆の場合に有効仕事が最大(符号も含めた代数的意味で最大)となる。 可逆であれば、有効仕事は変化の経路に依存せず、両端の状態のみにより定まる。』

(証明)

状態1から2へ至る二つの状態変化 R と I を考える。 状態変化 R は外部に対して有効仕事 WgR を行い、外界へ -QR の熱を放出し, 状態変化 I は外部に対して有効仕事 WgI を行い、外界へ -QI の熱を放出するとする。

状態変化 R が可逆変化であるとき、R の向きを逆にして、1から I に沿って2へ行き、 R に沿って 1 へ戻るサイクルを考えると、 有効仕事と熱の出入りは 右図 のようになる。

図 2 二つの経路の比較

サイクル後は系および補助熱機関は元の状態に戻るので、 熱力学第一法則(エネルギー保存則)より


  W_{gI} + (-Q_I) = W_{gR} + (-Q_R)

つまり


  (-Q_R) - (-Q_I) = W_{gI} - W_{gR}

が成立する。

もし、WgI > WgR であれば、 外界から (-QR) - (-QI) の熱を受け取り、 それをすべて仕事 WgI - WgR に変換する第二種永久機関となる。 したがって、熱力学第二法則に矛盾しないためには WgI ≤ WgR でなければならない。 つまり、可逆変化 R の有効仕事は任意変化 I の有効仕事より必ず大きくなる (等号は下記のように、双方共に可逆変化の場合に対応)。

I も可逆変化である場合には、上の R と I を入れ替えた結果も成立するので、 WgI = WgR でなければならず、 可逆変化の有効仕事は、経路のいかんにかかわらず等しくなる。 (証明終わり)

以上より、ある状態の物質のもつエクセルギーは、 現在の状態から外界と平衡するまで任意の可逆経路に沿って変化したときに行う 有効仕事として求まる[1]

閉じた系のエクセルギー[編集]

閉じた系の微小変化では熱力学第一法則より次式が成立する。


  dQ = dU + dW_i

ここで、系は外界で囲まれているとすると、 系が行う内部仕事 dWi には、 外界の圧力 p0 に抗して行う排除仕事 p0 dV も含まれているが、 これは取り出すことはできないので、後で取り除かなければならない。

この間、系が放出する熱は -dQ であり、これより補助熱機関が dWe = (1 - T0/T) (-dQ) の外部仕事を行うので、 この間の有効仕事は次式となる。


  dW_g = dW_i + dW_e = dQ - dU + \left(1 - \frac{T_0}{T}\right) (-dQ)
       = - dU + \frac{T_0}{T} dQ

ここで、dQ/T = dS は系のエントロピー増加量 dS であるので、


  dW_g = - dU + T_0 dS

これを 現在の状態 (U, S) から外界と平衡する状態 (U0, S0) まで積分して


  W_g = - (U_0 - U) + T_0 (S_0 - S) = (U - U_0) - T_0 (S - S_0)

閉じた系のエクセルギーは、 この有効仕事から排除仕事 p0 (V0 - V) を除いた次式となる [1][2] [6]


  E = W_g - p_0 (V_0 - V) = (U - U_0) - T_0 (S - S_0) + p_0 (V - V_0) \qquad (4)

自由エネルギーとエクセルギーの関係[編集]

ヘルムホルツの自由エネルギー F およびギブスの自由エネルギー G は、 次式で定義される状態量である [7]


\begin{align}
  F &= U - T S \\
  G &= H - T S
\end{align}

等温条件下ではこれら自由エネルギーの変化量は


\begin{align}
  dF &= dU - T dS \\
  dG &= dH - T dS
\end{align}

と表される。

一方、等温変化での閉じた系のエクセルギー変化量は、 系と外界が熱平衡である(T = T0)として、


  dE = dU - T dS + p_0 dV

となる。

系の体積が一定に保たれているときは、 dV = 0 であるので、


  dE = dU - T dS   = dF

となる。 また、系の圧力が一定に保たれているときは、 p0 = p と置き換えて、 U + pV = H を用いれば、


  dE = dU - T dS + p dV = dH - T dS = dG

となる。 つまり、ヘルムホルツの自由エネルギーの変化量は、 等温等積条件におけるエクセルギーの変化量であり、 ギブスの自由エネルギーの変化量は、 等温等圧条件におけるエクセルギーの変化量である。

自由エネルギーは、温度一定の条件で生じる変化の方向を示すのに用いられる。 体積一定の系ではヘルムホルツの自由エネルギーが減少する方向に変化が生じ、 圧力一定の系ではギブスの自由エネルギーが減少する方向に変化が生じる [7]。 これは、一般の変化では、エクセルギーが減少する方向の変化だけが生じることと合致している。

温度一定に保たれた系で、膨張を伴わない仕事 dWe (例えば、電池等の電気的な仕事、液柱を持ち上げる等の仕事など) を生じるとすると、 その非膨張仕事の最大値は、 体積一定の系では dWe ≤ -dF となり、 圧力一定の系では dWe ≤ -dG となる [7]。 一般の変化で系から取り出せる 仕事の最大値 は、 系のエクセルギーの減少量 dW ≤ -dE であることと合致している。

化学反応を伴う多くの系では、反応に伴うエネルギー変化(生成エンタルピーの差)は 圧力、温度などの物理的変化に伴うエネルギー変化に比べて数桁大きく、 後者を無視しても問題ない場合が多い。 後者が無視できない場合は、自由エネルギーではなくエクセルギーを用いる必要がある。

つまり、 等温等積または等温等圧の条件での自由エネルギーの概念を、 一般の変化に拡張したものがエクセルギーであると考えることができる。 ただし、自由エネルギーは物質の状態だけで決まる状態量であるのに対して、 エクセルギーは、外界条件を固定しなければ値が確定しない点に注意を要する [4]

開いた系(流れ系)のエクセルギー[編集]

図 3 開いた系のエクセルギー

実用的な多くの系は、物質の出入を伴う開いた系となる。 開いた系の微小変化では、 熱力学第一法則 dQ = dH + dWi より、 内部仕事は、


  dW_i = dQ - dH

と表される。 また、補助熱機関が行う外部仕事は、閉じた系と同一であるので、 有効仕事は次式となる。


\begin{align}
  dW_g &= dW_i + dW_e = dQ - dH + \left(1 - \frac{T_0}{T}\right) (-dQ) \\
       &= - dH + \frac{T_0}{T} dQ = -dH + T_0 dS
\end{align}

ただし、dQ/T = dS は可逆変化における系のエントロピー増加量である。

これを現在の状態 (H, S) から 外界と平衡する状態 (H0, S0) まで積分すれば、 開いた系で物質がもつエクセルギーは次式となる [1][2][6]


  E = W_g = H - H_0 - T_0 (S - S_0)                       \qquad \qquad (5)

注釈[編集]

  1. ^ このような補助熱機関を考える理由は、 系の取り得る変化経路として任意の経路を対象としたいためである。 もし、補助熱機関をなくした状態で系が可逆変化を行うならば、 可能な可逆経路としては、現在の状態から外界温度まで断熱変化を行い、 その後外界温度と熱平衡を保ったまま 圧力が外界と平衡するまで等温変化する経路だけが可能となる。 これ以外の経路は有限温度差での熱移動を伴うため、 すべて非可逆となる。
  2. ^ 後述するように、 物質の出入りのない閉じた系で取り出せる仕事は、 この Wg から 排除仕事 p0 ΔV (ただし ΔV はこの間の系の体積増加量) を差し引かねばならない。 元の文献では、Wg を「総仕事」とよび、 排除仕事(開いた系では 0 )を差し引いたものを「有効仕事」と呼んで区別しているが、 ここでは簡略化のために区別せずに一括して「有効仕事」とした。 したがって、開いた系では両者は一致するが、 閉じた系で実際に得られる仕事量は Wg から排除仕事を差し引いた値となる。

いくつかの物質のエクセルギー計算式[編集]

物質がエネルギー変換に関与する実用的なプロセスのほとんどは流動系であるため、 以下では開いた系に限って説明する。 また、単位量(質量、標準体積またはモル)あたりのエクセルギー(比エクセルギー)を対象とする。


  e = E/G = h - h_0 - T_0 (s - s_0)

ただし、 h は比エンタルピー、s は比エントロピーである。

比熱一定の物質[編集]

多くの固体や液体では圧力の影響は無視することができ、 狭い温度範囲であれば比熱は一定と見なすことができる。 この場合は、dh = c dT, ds = (c/T) dT = c d(ln T) より、 次式より比エクセルギーを求めることができる[1]


  e = c \left[ T - T_0 - T_0 \ln \left(\frac{T}{T_0}\right) \right]
    = (h - h_0) \left[ 1 - \frac{T_0}{T - T_0} \ln \left(\frac{T}{T_0}\right) \right]
                       \qquad (6)

有効度[編集]

エネルギー(エンタルピー)のうちエクセルギーの占める比率を有効度'という[1]。 上記の比熱一定の物質の有効度 λ は


  \lambda = \frac{e}{h-h_0}
  = 1 - \frac{T_0}{T - T_0} \ln \left(\frac{T}{T_0}\right)

となる。

気体[編集]

多くの場合、気体を理想気体(完全ガス)で近似することができる。 このとき、比熱 cp, cv は一般に温度の関数になるが、 狭い温度範囲であれば、これも一定と見なせる。

圧力が変わらなければ、式(6)に比熱として定圧比熱 cp を用いればよい。

温度に加えて圧力も変化する場合は、 h = cp T, s = cp ln T - (cp - cv ) ln p = cp { ln T - [(κ-1)/κ] ln p } となるので、 次式から比エクセルギーを求めることができる[1]


\begin{align}
  e &= c_p (T - T_0)
     - c_p T_0
      \left[ \ln \left(\frac{T}{T_0}\right)
               - \frac{\kappa - 1}{\kappa} \ln \left(\frac{p}{p_0}\right) \right] \\
    &= (h - h_0)\left\{
      1 - \frac{T_0}{T - T_0}
          \left[ \ln \left(\frac{T}{T_0}\right)
               - \frac{\kappa - 1}{\kappa} \ln \left(\frac{p}{p_0}\right) \right]
      \right\}                                                       \qquad (7)
\end{align}

理想気体の有効度は


  \lambda =
      1 - \frac{T_0}{T - T_0}
          \left[ \ln \left(\frac{T}{T_0}\right)
       - \frac{\kappa - 1}{\kappa} \ln \left(\frac{p}{p_0}\right) \right]

となる。 ただし、κ = cp/cv は定圧比熱と定積比熱の比であり、 2原子分子気体では約 1.4 となる。

混合気体[編集]

成分 1 , 2 をそれぞれ n1、n2モル含む混合気体(系)を取り上げる。 同成分の外界でのモル比を n10 : n20 とする。 ただし、 n1+n2 = n10+n20 = n とし、 系の温度、圧力は外界の温度 T0 、圧力 p0に等しいものとする。

このとき系のエクセルギーは、特定の成分気体だけが通過できる半透膜を用いた思考実験により、 次式のように求まる[4]


  E = R T_0 \left(n_1 \ln\frac{n_1}{n_{10}} + n_2 \ln\frac{n_2}{n_{20}} \right)
                                                     \qquad \qquad (8)

湿り空気のエクセルギー[編集]

絶対湿度 x (kg/kgDA) の湿り空気は、乾き空気(水分を除いた空気) 1 kg の 中に x kg の水蒸気を含んでいる。 水蒸気(分子量 18.015)と乾き空気(分子量 28.966)のモル比は 
  n_1 : n_2 = n_1 : (1 - n_1) = \frac{x}{18.015} : \frac{1}{28.966} = 1.608 x : 1
であるので、絶対湿度 x の湿り空気 1kmol 中のそれぞれの kmol 数は


  n_1 = \frac{1.608 x}{1 + 1.608 x} , \qquad \qquad n_2 = \frac{1}{1 + 1.608 x}

となる。

一方、外界の絶対湿度を x0 とすると、その 1kmol中の水と乾き空気の kmol 数は


  n_{10} = \frac{1.608 x_0}{1 + 1.608 x_0} , \qquad \qquad n_{20} = \frac{1}{1 + 1.608 x_0}

これらを式 (8) に用いて、含まれる乾き空気の質量 28.966 n2 で割ると、 温度 T0、圧力 p0 で 乾き空気 1kg を含む湿り空気のエクセルギー(比エクセルギー) e は次式となる。


  e = R_a T_0 \left[1.608 x \ln \frac{x}{x_0}
               + \left(1 + 1.608 x \right) \ln \frac{1 + 1.608 x_0}{1 + 1.608 x} \right]
                                                     \qquad \qquad (9)

ただし、Ra = 0.2870$ kJ/(kg K) は,乾き空気 1 ㎏ のガス定数である。

任意の温度、湿り空気の比エクセルギーは、式(7)と(9)の和となる。

燃料[編集]

燃料についても、化学的エネルギーを含めたエンタルピー、エントロピーを知ることとができれば、 式 (5) 等を用いてエクセルギーを求めることができる。 しかし、石油、石炭等の化石燃料では化学的組成を含めて正確に知ることは難しく、 実用上はいくつかの近似式が用いられている。 その例を下表に示す [8]

表 1 燃料単位質量あたりのエクセルギー(Rant の近似式)
燃料種別 計算式 (kJ/kg)
石炭 e = Hl + 2440 w
炭化水素 液体 e = 0.975 Hh
気体(メタンを除く) e = 0.95 Hh
メタン e = 0.93 Hh
w: 石炭の水分 (kg/kg), Hl : 低位発熱量 (kJ/kg) , Hh : 高位発熱量 (kJ/kg)

エクセルギー評価の方法[編集]

グイ=ストドラの定理[編集]

外界を含めた全体系のエントロピーの増加量を ΔS* とすると、 エクセルギー損失 LW (Loss of Work の略)は次式で表される。


  LW = T_0 \Delta S^*

これは グイ=ストドラ(Gouy=Stodola) の定理と呼ばれている。

(証明)

補助熱機関を加えた大きい系が、 図 2 のように状態 1 (H1, S1) から状態 2 (H2, S2) へ非可逆変化し、 その間に WgI = WiI + WeI の有効仕事をし、 外界へ -QI の熱を放出したとする。 この間の全体系のエントロピー増加量は次式となる。


  \Delta S^* = S_2 - S_1 + \frac{-Q_I}{T_0}

もし状態 1 から状態 2 へ可逆変化をする場合は、 有効仕事 WgR = WiR + WeR をし、 外界へ -QR の放出をするとすると、 この場合の全体系のエントロピー増加量は 0 であるので、次式が成立する。


  \Delta S^*_R = S_2 - S_1 + \frac{-Q_R}{T_0} = 0

したがって、


  \Delta S^* = - \frac{-Q_R}{T_0} + \frac{-Q_I}{T_0} = \frac{(-Q_I) - (-Q_R)}{T_0}

と表すことができる。

一方、熱力学第一法則(エネルギー保存則)より W_{gI} + (-Q_I) = W_{gR} + (-Q_R) つまり


  (-Q_I) - (-Q_R) = W_{gR} - W_{gI}

が成立する。 したがって、


  \Delta S^* = \frac{W_{gR} - W_{gI}}{T_0}

となり、これより 有効仕事の減少量つまりエクセルギー損失は


  LW = W_{gR} - W_{gI} = T_0 \Delta S^*

となる[1](証明終わり)。


エネルギー収支とエクセルギー収支[編集]

物質の出入りを伴う開いた系では、 熱力学第一法則(エネルギー保存則)により、 出入りするエンタルピー、熱、仕事(工業仕事)の間に保存則が成り立つ。 したがって、ある機器に流入するエネルギーと流出するエネルギーを リストアップし、 両者の差を求めれば、 それは、放熱や漏洩などにより(機器外へ逃げて)失われたエネルギーとなる。 このような作業は通常、熱管理、熱勘定、熱収支、等とよばれている。 ある機器のエネルギー(エンタルピー)の流れは右図のようになる。

図 4 エネルギーフロー

一方、エクセルギーは、機器内で非可逆変化が生じれば、 グイ=ストドラの定理にしたがって必ず減少する。 出入りする物質、熱、仕事のエクセルギー差を求めれば、 それがこの機器におけるエクセルギーの損失 LW である。

ある機器のエクセルギーの流れは右図のようになる。 エクセルギー評価は熱力学第二法則に基づく評価ということもできる。

図 5 エクセルギーフロー


各機器のエクセルギー評価を行うには、以下のような手順に沿えばよい。

  1. 外界と平衡する状態を選定する。これには、次節を参考にできる。
  2. 系(機器)に流入する物質、熱、仕事を列挙し、流入エネルギー(エンタルピー)を求める。物質のエンタルピーの原点は通常は便宜的(例えば三重点の水等)に定められているので、外界と平衡する状態のエンタルピーとの差を用いるのがよい。
  3. 系から流出するエネルギー(エンタルピー)についても同様に行う。
  4. 両者の差を求めて、未知のエネルギー損失(放熱、漏洩等)を推定する。
  5. 推定した放熱、漏洩等も含めて、流入・流出エネルギーをエクセルギーに換算する。
  6. 流入エクセルギーと流出エクセルギーの差を求めて、機器内のエクセルギー損失を推定する。

エンタルピーを用いたエネルギー収支では、 その機器内でどれだけの(エクセルギーの)損失があったかは分からない。 この種の損失は、 熱と動力の変換を伴う設備(熱機関、冷凍機、各種化学プラント等)で、 設備を構成する全機器のエネルギー収支を集計した結果、 外界へ放出する熱量の増加となって現れる。 しかし、どの機器の何を改善すれば損失が減るかは、 勘と経験をもとにして試行錯誤を行わなければ知ることができない。

これに対して、エクセルギーを用いた評価では、 それぞれの機器ごとに原因別に損失の内訳が明らかになるので、 これを用いて見通しよく改善策を立案することができる。 ここにエクセルギー評価の最大のメリットがある。

外界との平衡状態の選び方[編集]

エクセルギーを求めるには基準状態となる「外界と平衡する状態」を確定する必要がある。 熱力学で平衡という場合、通常、(1)熱的平衡、(2)力学的平衡、(3)化学的平衡 の 3 者を満たすことを意味している。 しかし、このうち、関与するプロセスによってはいくつかの条件を満たさなくてもよい場合があり、 また、実用上考慮しなくてよい場合もある。 以下に実用上妥当な外界条件の決め方を例示する [1] [2]

  • (A) [熱的平衡] 温度が外界温度に一致する。 復水式蒸気タービン設備や空調機の室外機などのように、系と外界とが伝熱管等を介して間接的に(熱的にのみ)接触する場合、圧力は外界と同じになる必要はなく、また化学的な平衡も必要ない。
  • (B) [熱的平衡+力学的平衡] 温度および圧力が外界に一致する。内燃機関、ガスタービン、ボイラなどの燃焼排ガスは外気と直接接触混合するので、温度に加えて圧力も外界と一致する必要がある。
  • (C) [熱的平衡+力学的平衡+化学的平衡] 温度、圧力が外界に一致することに加えて、拡散・反応によって外界を構成する物質と化学的にも平衡する。前記の燃焼排ガスが外界(大気)と平衡するのは、厳密には排ガス成分の拡散や何らかの化学反応を経た後となるが、現実には、拡散過程やこれらの化学反応から有用な仕事を得る手段がないため、化学的平衡を無視しても問題ない。実用上、このタイプの平衡を考えなければならない場合は多くないと思われる。

エクセルギー評価の具体例[編集]

対象設備[編集]

右図のようなボイラとタービンを用いた自家発電(熱電併給)設備を例に、 エクセルギー評価の方法について解説する(書籍 [1]を参考にしているが、大幅に変更簡略化している)。

図 6 全プロセスの模式図

ボイラで燃料を燃やして過熱蒸気を発生する。 燃焼プロセスと熱交換プロセスを検討するために、 ボイラを燃焼器と熱交換器に分けて扱う [注釈 1]。 ボイラで発生した過熱蒸気は長い管路を通って、蒸気タービンへ導かれる。 タービンでは動力を取り出して発電すると共に、 タービン途中から一部の蒸気を抽気し、またタービン背気(約 5 気圧)を用いて、 工場内の種々の加熱用熱源として利用する(熱電併給、コジェネレーション)。

また、比較のために、外界温度の復水器を用いて全て動力として取り出す場合(発電のみ)も 並行して計算し、検討の材料とする。

このような自家発電設備は、実際はかなり複雑な構成となるが、 ここではエクセルギー評価の概要と利点を紹介することを目的としているので, 空気予熱器や脱気器などの副次的な機器はないものとし、できる限り簡略化した構成とする。 対象とした設備の各部における蒸気等の条件 [9] を下表に示す。 タービン出口の条件は、タービン内部効率が 80 % となるように定めた。

表 2 各プロセスの諸条件
項目 圧力(MPa) 温度(℃) 流量(燃料 1 kg あたり) 備考
燃料 20 1 kg/s Hh = 44200 kJ/kg、 Hl = 41400 kJ/kg
空気 0.1013 20 12.2 Nm3/s 理論空気量=10.89 Nm3/s、空気比=1.12、

cp = 1.30 kJ/(Nm3 K)

燃 焼 器 ( ボ イ ラ )
燃焼ガス 0.1013 2560 12.2 Nm3/s cp = 1.30 kJ/(Nm3 K)
サブクール水 9.0 150 11.5 kg/s h = 637.5 kJ/kg, s =1.8323 kJ/(kg K)
熱交換器(ボイラ)
燃焼ガス 0.1013 375 12.2 Nm3/s cp = 1.30 kJ/(Nm3 K)
過熱蒸気 9.0 550 11.5 kg/s h = 3510 kJ/kg, s = 6.814 kJ/(kg K)
配管抵抗
過熱蒸気 8.0 530 11.5 kg/s h = 3472 kJ/kg, s = 6.819 kJ/(kg K)
タ ー ビ ン
抽気 1.8 337.5 1.02 kg/s h = 3115 kJ/kg、 s = 6.968 kJ/(kg K)
背気 0.51 219 10.48 kg/s h = 2895 kJ/kg、 s = 7.134 kJ/(kg K)
(排気) 0.002337 20 11.5 kg/s h = 2291 kJ/kg、 s = 7.825 kJ/(kg K)、 かわき度 x = 0.899

また、用いた外界条件を下表に示す。

表 3 外界条件
物質 温度・圧力等 備考
燃料 20 ℃、760 mmHg
空気 20 ℃、760 mmHg cp = 1.30 kJ(Nm3 K)}
燃焼ガス 20 ℃、760 mmHg (空気で近似)、cp = 1.30 kJ(Nm3 K)
水・蒸気 20 ℃(17.53 mmHg)、飽和水 h0 = 83.9 kJ/kg 、s0 = 0.2963 kJ/(kg K)

燃焼プロセス(ボイラ)[編集]

図 7 燃焼プロセス

右図に示すように、C 重油を燃料とする燃焼器(ボイラ)で、 燃料の化学的エネルギーを熱エネルギーに変換するプロセスを取り上げる。 燃料の C 重油の高位発熱量は Hh = 44200 kJ/kg, 低位発熱量は Hl = 41400 kJ/kg であり、 燃料 1 kg/s あたり、20℃ の燃焼用空気(比熱 1.30 kJ/(N m3 K) ) を12.2 N m3/s 供給して燃焼させ、 2560 ℃ の燃焼ガス 12.2 N m3/s が発生したとする。 燃焼ガスの比熱も空気と同じく 1.30 kJ/(N m3 K) として扱う。

エンタルピー収支[編集]

流入エンタルピーは、燃料の化学的エネルギー(低位発熱量) 1×41400=41400 kJ/s と、 空気のエンタルピー 12.2×1.30×(293.15 - 293.15) = 0 kJ/s を合わせて、41400 kJ/s である。

流出エンタルピーは、燃焼ガスのエンタルピー 12.2×1.30×(2560-20)=40284 kJ/s であり、 差 41400 - 40284 = 1116 kJ/s が、放熱によるエネルギー損失となる (放熱自身は測定困難であるので、エンタルピー収支から推定することになる)。

エンタルピー収支の結果を下表のエンタルピー欄に示す。

表 4 燃焼プロセス(ボイラ)のエネルギー収支
区分 項目 エンタルピー エクセルギー
kJ/s % kJ/s %
流入 燃料 41400 100 43095 100
空気 0 0 0 0
41400 100 43095 100
流出 空気(燃焼ガス) 40284 97.3 29738 69.0
放熱 1116 2.7 823 1.9
LW --- --- 12534 29.1
41400 100 43095 100


エクセルギー収支[編集]

ラントの近似式(表 1 )を用いて、 燃料のエクセルギーは e = 0.975 × 44290 = 43095 kJ/kg となる。 流入エクセルギーは、燃料の 1 × 43095 = 43095 kJ/s だけである。

燃焼ガスが持ち出すエクセルギーは、式 (7) より


  E = 12.2 \times 1.30 \times
      \left[ 2560 - 20 - (273.15+20) \times \ln\left(\frac{273.15+2560}{273.15+20}\right) \right]
    = 29738 {\rm kJ}

となる。 また、前記の放熱 1116 kJ/s は燃焼ガスから外界へ放出されたと考えると、 燃焼前後の温度 20 ℃ と 2560 ℃の(絶対温度の)対数平均値


  T_m = \frac{2560 - 20}{\ln[(273.15+2560)/(273.15+20)]} = 1119 ~\mbox{K} = 846 ~\mbox{deg.C}

を式 (3) に用いて、 放熱量 1116 kJ/s のエクセルギーは 1116 ×(1-293.15/1119) = 823 kJ/s となる。 流入、流出エクセルギーの差 43095 - 29738 - 823 = 12534 kJ/s が エクセルギー損失 LW となる。

放熱 1116 kJ/s の放熱温度をいくらに選ぶかによって、放熱のエクセルギーと LW との内訳が変わるが、 いずれにしてもこの両者がエクセルギーの損失であることに変わりない。

エクセルギー収支を上の表のエクセルギー欄に示す。

評価[編集]

燃焼に伴い 29.1 % という大きなエクセルギー損失が生じている。 燃焼のように熱以外のエネルギーが熱エネルギーに変わる際には、 このような大きな損失が生じるが、 このことは、エンタルピー収支では見ることはできない。

熱交換プロセス(ボイラ)[編集]

右図に示すように、燃焼ガスを用いて蒸気を発生する熱交換プロセスを取り上げる。

図 8 熱交換プロセス

エンタルピー収支[編集]

流入するエンタルピーは、燃焼ガスのエンタルピー 12.2 × 1.30 × (2560 - 20) = 40284 kJ/s と 水のエンタルピー 11.5 × (637.5 - 83.9) = 6366 kJ/s の 計 46651 kJ/s である。

流出するエンタルピーは、燃焼ガスのエンタルピー 12.2 × 1.30 × (375 - 20) = 5630 kJ/s と 蒸気のエンタルピー 11.5 × (3510 - 83.9) = 39401 kJ/s の計 45031 kJ/s である。 残りの 1620 kJ/s が周囲への放熱となっている。

エンタルピー収支の結果を下表のエンタルピー欄に示す。

表 5 熱交換プロセス(ボイラ)のエネルギー収支
区分 項目 エンタルピー エクセルギー
kJ/s % kJ/s %
流入 燃焼ガス 40284 86.4 29738 96.2
6366 13.6 1189 3.8
46651 100 30926 100
流出 燃焼ガス 5630 12.1 1941 6.3
蒸気 39401 84.5 17428 56.4
放熱 1620 3.5 1299 4.2
LW --- --- 10258 33.2
46651 100 30926 100


エクセルギー収支[編集]

流入エクセルギーは、燃焼ガスのエクセルギー 12.2×1.30×{2560 - 20 - 293.15×ln[(273.15+2560)/293.15]} = 29738 kJ/s と 水のエクセルギー 11.5×[637.5 - 83.9 - 293.15×(1.8323 - 0.2963)] = 1189 kJ/s の 計 30926 kJ/s である。

流出エクセルギーは、燃焼ガスのエクセルギー 12.2×1.30×{375 - 20 - 293.15 × ln[(273.15+375)/293.15]} = 1941 kJ/s と 蒸気のエクセルギー 11.5×[3510 - 83.9 - 293.15×(6.814 - 0.2963)] = 17428 kJ/s となる。 放熱量 1620 kJ/s の持っていたエクセルギーは、 放熱温度を2560 ℃ と 375 ℃ の対数平均値


  T_m = \frac{2560 - 375}{\ln[(273.15+2560)/(273.15+375)]} = 1481 ~\mbox{K} = 1208 ~\mbox{deg.C}

を用いて、1620×( 1 - 293.15/1481 ) = 1299 kJ/s となる。 したがって、残りの 30926-1941-17428-1299 = 10258 kJ/s が LW となる。

エクセルギー収支を上の表のエクセルギー欄に示す。

評価[編集]

エンタルピー収支では、損失は 3.5% の放熱によるものだけであるが、 エクセルギー収支では、33.2 % もの LW が生じる。 これは有限温度差での熱交換に伴う損失であり、エンタルピー収支では見出すことはできない。

管路抵抗[編集]

右図に示すように、ボイラからタービンまでの管路における損失を取り上げる。 圧力 9.0 MPa 温度 550℃ の過熱蒸気が配管内を流れ、 管路抵抗により圧力 8.0 MPa 温度 530 ℃ となるものとする。

図 9 管路抵抗による圧力損失

エンタルピー収支[編集]

流入蒸気のエンタルピーは 11.5×(3510 - 83.9) = 39401 kJ/s 、 流出蒸気のエンタルピーは 11.5×(3472 - 83.9) = 38964 kJ/s である。 両者の差 437 kJ/s が放熱によるエンタルピー損失である。

エンタルピー収支の結果を下表のエンタルピー欄に示す。

表 6 管路抵抗のエネルギー収支
区分 項目 エンタルピー エクセルギー
kJ/s % kJ/s %
流入 蒸気 39401 100 17428 100
39401 100 17428 100
流出 蒸気 38964 98.9 16974 97.4
放熱 437 1.1 279 1.6
LW --- --- 174 1.0
39401 100 17428 100


エクセルギー収支[編集]

流入蒸気のエクセルギーは 11.5×[3510 - 83.9 - 293.15×(6.814 - 0.2963)] = 17428 kJ/s 、 流出蒸気のエクセルギーは 11.5×[3472 - 83.9 - 293.15×(6.819 - 0.2963)] = 16974 kJ/s である。 放熱量 437 kJ/s の持っていたエクセルギーは、 放熱温度を 550 ℃ と 530 ℃ の平均 540 ℃ として 437×[ 1 - 293.15/(273.15+540) ] = 279 kJ/s となる。 したがって、残りの 17428-16974-279 = 174 kJ/s が LW となる。

評価[編集]

管路抵抗による圧力損失は等エンタルピー変化であり、 エンタルピー収支では損失として出てこない。 エクセルギーで評価してはじめて損失として算出することができる。 ただし、この例の 1 MPa の圧力損失は大きめの値であるが、 これでも 1 % 程度であり、予想に反して大きくはない。

動力発生プロセス(熱電併給)[編集]

右図に示すように、背圧タービンでの動力発生プロセスを取り上げる。

図 10 タービン(熱電併給)

圧力 8.0 MPa 温度 530 ℃ の過熱蒸気を燃料 1kg 換算で 11.5 kg/s をタービンに導き、 途中の 1.8 MPa の位置で 換算 1.02 kg/s 取り出し(抽気)、 残り 10.48 kg/s をタービン出口の 0.51 MPa まで膨張させる(背気)。 タービンからは発電機を介して電力を取り出すと共に、 抽気と背気を工場内の種々の加熱用熱源として活用する。 タービン内部効率は 80 % としている。


エンタルピー収支[編集]

流入エンタルピーは、蒸気の 11.5×(3471.6 - 83.9) = 38959 kJ/s である。 流出エネルギーは、電力の 6254 kJ/s、 漏洩蒸気の 0.04×(3471.6 - 83.9) = 136 kJ/s、 抽気の 1.02×(3115.1 - 83.9) = 3092 kJ/s、 背気の 10.44×(2895.4 - 83.9) = 29352 kJ/s であり、 残りの 38959 - 6254 - 3092 - 29352 - 136 = 125 kJ/s が放熱ということになる。 漏洩蒸気は、安全側に見て入口状態の値を用いた。

エンタルピー収支の結果を下表のエンタルピー欄に示す。

表 7 タービンのエネルギー収支(熱電併給)
区分 項目 エンタルピー エクセルギー
kJ/s % kJ/s %
流入 蒸気 38959 100 16971 100
38959 100 16971 100
流出 電力 6254 16.1 6254 36.9
抽気 3092 7.9 1097 6.5
背気 29352 75.3 8427 49.7
漏洩蒸気 136 0.3 59 0.3
放熱 125 0.3 67 0.4
LW --- --- 1067 6.3
38959 100 16971 100


エクセルギー収支[編集]

流入エクセルギーは、 蒸気の 11.5×[3471.6 - 83.9 - 293.15×(6.8186 - 0.2963)] = 16971 kJ/s である。 流出エクセルギーは、電力の 6254 kJ/s、 漏洩蒸気の 0.04×(3471.6 - 83.9 - 293.15×(6.8186 - 0.2963)]) = 59 kJ/s 、 抽気の 1.02×(3115.1 - 83.9 - 293.15×(6.9684 - 0.2963)]) = 1097 kJ/s、 背気の 10.44×(2895.4 - 83.9 - 293.15×(7.1337 - 0.2963)]) = 8427 kJ/s である。

放熱量のエクセルギーは、 放熱温度を 530 ℃ と 219 ℃ の対数平均値


  T_m = \frac{530 - 219}{\ln[(273.15+530)/(273.15+219)]} = 635 \mbox{K} = 362 ~\mbox{deg.C}

を用いて、125×( 1 - 293.15/635 ) = 67 kJ/s となる。 したがって、残りの 16971-6254-1097-8427-59-67 = 1067 kJ/s が LW となる。

エクセルギー収支の結果をエクセルギー欄に示す。

評価[編集]

電気的エネルギーはエクセルギーに等しい。 それに対して、抽気、背気等の比較的低温の蒸気の場合、 エンタルピーとエクセルギーの間に大きな差があることに注意されたい。


設備全体のエネルギー収支[編集]

以上の機器別収支を集めてまとめた設備全体のエネルギー収支を、下表に示す。

表 8 設備全体のエネルギー収支(熱電併給)
区分 項目 エンタルピー エクセルギー
kJ/s % % kJ/s % %
流入 燃料 41400 86.7 100 43095 97.3 100
燃焼用空気 0 0 0 0
ボイラ給水 6366 13.3 1189 2.7
47766 100 44284 100
流出 発生電力 6254 13.1 81.1 6254 14.1 35.6
抽気熱量 3092 6.5 1097 2.5
背気熱量 29352 61.5 8427 19.0
ボイラ排ガス 5630 11.8 11.8 1941 4.4 4.4
燃焼器放熱 1116 2.3 7.2 823 1.9 5.7
熱交換器放熱 1620 3.4 1299 2.9
配管放熱 437 0.9 279 0.6
タービン漏洩 136 0.3 59 0.1
タービン放熱 125 0.3 67 0.2
燃焼器 LW --- --- 0 12534 28.3 54.3
熱交換器 LW --- --- 10258 23.2
配管 LW --- --- 174 0.4
タービン LW --- --- 1067 2.4
38959 100 16971 100

エンタルピー収支では、抽気・背気の熱量を額面どおり過大に評価する。 本設備のように背気の熱を加熱用熱源として利用する場合は、 損失がほとんどないとの誤った印象を与える。

一方、エクセルギー収支を見ると、 大きな損失がボイラ(燃焼器・熱交換器)での燃焼と熱交換にあることがわかる。 この損失を少なくするには、 燃焼温度を(燃焼用空気量を理論空気量に近づけて)高くして、 ボイラの圧力と温度を高くして燃焼ガスとの温度差を小さくする 等の対策を行うのが有効と思われる。 さらには、ボイラ排ガスの持ち出すエクセルギーも少なくないことから、 排ガスを用いた給水加熱、燃焼用空気・燃料の予熱、その他の対策も必要と思える。


復水タービンを用いて発電のみを行った場合の試算[編集]

比較のため、 同じ蒸気を用いて外界温度の復水器圧(20℃ の飽和蒸気圧 0.00234 MPa )まで 復水タービンで膨張させて仕事を取り出す場合について、計算する。

図 11 タービン(発電のみ)

タービンのエンタルピー収支(発電のみ)[編集]

流出エネルギーのうち、電力は 13360 kJ/s となり、 排気エンタルピーは 11.46 × (2291 - 83.9) = 25294 kJ/s、 放熱が 170 kJ/s となる。 排気は20 ℃、89.9 % の湿り蒸気となっている。

表 9 タービンのエネルギー収支(発電のみ)
区分 項目 エンタルピー エクセルギー
kJ/s % kJ/s %
流入 蒸気 38959 100 16971 100
38959 100 16971 100
流出 電力 13360 34.3 13360 78.7
排気 25294 64.9 0 0.0
漏洩蒸気 135 0.3 59 0.3
放熱 170 0.4 72 0.4
LW --- --- 3480 20.5
38959 100 16971 100


タービンのエクセルギー収支(発電のみ)[編集]

流出エクセルギーは、電力の 13360 kJ/s、 排気の 11.46 × [(2291 - 83.9 - 293.15 ×(7.8252 - 0.2963)]) = 0 kJ/s である。 放熱量のエクセルギーは、 放熱温度を 530 ℃ と 20 ℃ の対数平均値


  T_m = \frac{530 - 20}{\ln[(273.15+530)/(273.15+20)]} = 506 \mbox{K} = 233 ~\mbox{deg.C}

を用いて、169 × ( 1 - 293.15/506 ) = 72 kJ/s となる。 したがって、残りの 16971-13360-59-71 = 3480 kJ/s が LW となる。

設備全体のエネルギー収支(発電のみ)[編集]

この場合の設備全体のエネルギー収支を下表に示す。

表 10 設備全体のエネルギー収支(発電のみ)
区分 項目 エンタルピー エクセルギー
kJ/s % % kJ/s % %
流入 燃料 41400 86.7 100 43095 97.3 100
燃焼用空気 0 0 0 0
ボイラ給水 6366 13.3 1189 2.7
47766 100 44284 100
流出 発生電力 13360 28.0 81.1 13360 30.2 30.2
排気熱量 25294 53.0 0 0.0
ボイラ排ガス 5630 11.8 11.8 1941 4.4 4.4
燃焼器放熱 1116 2.3 7.2 823 1.9 5.7
熱交換器放熱 1620 3.4 1299 2.9
配管放熱 437 0.9 279 0.6
タービン漏洩 136 0.3 59 0.1
タービン放熱 170 0.4 71 0.2
燃焼器 LW --- --- 0 12534 28.3 59.8
熱交換器 LW --- --- 10258 23.2
配管 LW --- --- 174 0.4
タービン LW --- --- 3480 7.9
38959 100 16971 100

この場合、 排気は外界と平衡しているので、ここから仕事(および熱)を取り出すことはできない。 しかし、エンタルピー収支では 20 ℃、89.9 % の湿り蒸気を飽和水まで 冷却して得られる熱量 25294 kJ/s を計上しているので、 「タービン排気に大きな無駄がある」という誤った結論につながりやすい。

エクセルギー収支によれば、タービンの損失が 7.9 % に増加しているのがわかる。 復水タービンで蒸気を低圧まで膨張させたため、 元々良くなかったタービン効率の影響が大きく現れたものと判断される。 復水タービンとするのであれば、タービンの改良が必要かもしれない。

注釈[編集]

  1. ^ 実際は燃焼中の火炎からの放射伝熱で蒸発管内の水を加熱するので、 燃焼と伝熱が同時に進行する。 このため、ここでの計算で用いた燃焼ガスの温度などは、 実際とはかなり異なった値になっていると思われる。

エクセルギー評価のメリット[編集]

熱力学第二法則によると、熱エネルギー以外のエネルギーと熱エネルギーとは等価ではなく、 また同じ熱エネルギーの間でも、その温度によってそこから取り出せる仕事量は異なる。 エンタルピーを用いた従来のエネルギー評価ではエネルギーの質の違いを無視しており、 エネルギーの価値を正しく評価することができない。

エクセルギーはエネルギーのうちの有効な部分だけを取り出したものであり、 質の違いを含めたエネルギーの正しい評価方法である。

上のケースで見た例は、産業への応用分野で広く見られる例である。 火力発電所の場合を例として見てみると、得られた蒸気でこの後タービンを回して発電し、 タービンを出た低温の蒸気を海水で冷やして元の水に戻す。 その際、大量の熱を海水中に捨てることになるが、エンタルピーで評価する限りは、 ここで大量のエネルギーを海水中へ捨てて無駄が生じていることしか分からない。 この無駄を少なくするためには、発電プラント全体の種々の条件を様々に変えて、 繰り返し計算して最適の条件を見つかなければならない。 膨大な作業となる可能性がある。

エクセルギーを用いて評価すると個々の機器(要素プロセス)ごとに損失を計算でき、 さらにその損失の原因を特定することができるため、 どこを改善すべきかは容易に判断できる。 損失の機器別・原因別分析 を的確に行うことができる。 エネルギー問題や地球環境問題が重要な課題となっている現代において、 エクセルギーは省エネルギーのための極めて有力な手段であるといえる。

参考文献[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l 石谷清幹著編、 『熱管理士教本 エクセルギーによるエネルギーの評価と管理』、 共立出版 (1977)、ISBN 4-3200-8000-9. (絶版:理論編は文献 2. に継承)
  2. ^ a b c d e f 久角、中西、毛利、 『エクセルギーデザイン学の理解と応用 続熱管理士教本』 大阪大学出版会 (2012)、ISBN 978-4-87259-414-0
  3. ^ 高橋秀俊、『エクセルギー』、応用物理、第48巻 第8号、pp745-750 (1979). (J-STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/oubutsu1932/48/8/_contents/-char/ja/)
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  5. ^ R. W. Haywood, "A Critical Review of the Theorems of Thermodynamic Availability, with Concise Formulations", Journal of Mechanical Journal of Mechanical Engineering Science, vol.16 no.3, pp.160-173(1974).
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  9. ^ 日本機械学会、『1980 SI 日本機械学会 蒸気表』日本機械学会 (1980)

関連項目[編集]