エアロゲル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

たった2 gのエアロゲルの小片が、2.5 kgのブロックを支える。
たった2 gのエアロゲルの小片が、2.5 kgのブロックを支える。

エアロゲル (aerogel) は、ゲル中に含まれる水分を超臨界乾燥により気体に置換した低密度の物質である。

非常に低密度の固体で、さまざまな驚異的な特性を持ち、とりわけ眼をみはる断熱性を持つ。半透明な外見から「凍った煙」や「固体の煙」などの異名を持つ。

エアロゲルは、収縮を起こすことなくゼリーに含まれる水分を気体に置き換えられるか、というチャールズ・ラーンドの課題に挑戦した、スティーブン・キストラーにより1931年に発明された。最初に置換に成功した物質はシリカゲルだった。キストラーのエアロゲルはケイ素アルミナ酸化クロム酸化スズから作られたが、その後、他の物質でも製造されるようになった。 カーボンエアロゲルは1990年代の初頭に発明された。

目次

[編集] 特徴

エアロゲルの断熱特性の実演。
エアロゲルの断熱特性の実演。

90 - 99.8 %の空気で構成され、密度は1.9 - 150 mg/cm3である。触ると発泡スチロールのような感触がある。やさしく押しただけでは跡を残さないが、強く押すと元に戻らないへこみを生じる。

十分に強く押すとガラスのように粉々になり、希薄な構造に壊滅的な破壊をもたらす。壊れるときは粉々になる一方で、自重の2000倍もの重さを支える強度を持つ。

その驚くべき荷重能力は樹木状の微細構造によるもので、平均2 - 5 nmの球状の微粒子が融合したクラスター構造をしている。このクラスターは、ほとんどフラクタル鎖の100 nmに満たない気孔とともに、三次元的の微細な多孔性の構造をしている。気孔の平均的な大きさと密度は、製造時に制御できる。

エアロゲルの驚異的な断熱性は、熱が伝わる方法である対流伝導放射の3方法のほとんどを遮断することにより実現している。対流による伝熱は、空気が格子状構造を超えて対流できないことにより抑制され、伝導による伝熱は、シリカエアロゲルの場合、原料である珪素の熱伝導性が低いことにより抑制される。(ただし、金属エアロゲルの場合、熱伝導抑制効果はシリカエアロゲルほど良くない。) 放射による伝熱は、カーボンエアロゲルの場合、赤外線を吸収することにより抑制される。なお、もっとも断熱性に優れたエアロゲルは、炭素を加えたシリカエアロゲルである。

その吸湿性からエアロゲルの感触は乾燥しており、強力な乾燥剤としての特性も持つ。

外見は、ほとんど空気からできているため半透明状である。見かけの色は、可視光の短波長部がナノサイズの格子構造によりレイリー散乱することにより決まる。このため黒っぽい背景に置くと青みを帯び、明るい背景では白っぽく見える。

エアロゲル自体は親水性だが、化学処理を施すことにより疎水性にすることもできる[1]。水分を吸着すると収縮など構造変化を起こし透明度が劣化するが、疎水性にすることで劣化を防ぐことができる。内部まで疎水性のあるエアロゲルは表面だけを疎水性に処理したものに比べ、表面より深い傷がついても劣化を防止できる。また、ウォータージェットを使用できるため、加工が容易になる。

SEAgelは寒天から作られた有機的なエアロゲルで、味と硬さは米から作ったに似ている。

[編集] シリカエアロゲル

シリカエアロゲルはもっとも一般的なタイプであり、広い分野で研究・応用されている。ケイ素を含む物質であり、シリカゲルから作られる。

もっとも低密度の固体として記録されているのはアメリカのローレンス・リバモア国立研究所により作られたシリカエアロゲルで、1.9 mg/cm3の密度、水の1 / 530の比重を記録した。

シリカエアロゲルは赤外線を良く吸収する。建築物に使えば、太陽熱の入射を抑えたまま採光することができる。

非常に低い熱伝導率 (およそ 0.017 W/(m·K)) のため著しい断熱性を持つ。融点は1200 ℃。

ギネスブックでは、シリカエアロゲルは物質として、最良の断熱物質、最小密度の物質など15項目の記録を持つ。

[編集] カーボンエアロゲル

カーボンエアロゲルには導電性がある。

ナノサイズ分子の共有結合から構成される。非常に高い多孔率 (50 %以上。細孔直径は100 nm以下) を持ち、表面積は400 - 1000 m2/gに及ぶ。

製造方法は合成紙を作る手法と類似する。不織炭素繊維にレゾルシノール-ホルムアルデヒド-エアロゲル (RFエアロゲル) をしみ込ませ、熱分解させる。

合成紙状のエアロゲルはコンデンサーの電極や脱イオン化電極として頻繁に利用される。約800 m2/gに及ぶとても広い表面積を利用して、数千ファラッドに及ぶ大容量コンデンサ(スーパーキャップ)の製造に使用される。この手法により、容量は104 F/gおよび77 F/cm3を達成した。

また、カーボンエアロゲルは非常に黒いため、250 nm から 14.3 µmの波長では0.3 %しか反射せず、太陽熱を集めるのに効率が良い。黒鉛粒子の代わりにカーボンナノチューブで作られたカーボンエアロゲルは、高弾性率を持つ。これらはケブラーより強い炭素繊維に紡ぐことができ、特異な電気特性を持つ。

[編集] アルミナエアロゲル

アルミナエアロゲル、とくに他の金属を加えられたものは触媒として利用されている。ニッケルと組み合わせたニッケル-アルミナ・エアロゲルは、もっとも多い組み合わせである。

超高速粒子を捕らえるためにNASAが使用したガドリニウムテルビウムでドープされたしたエアロゲルは、衝突した箇所で衝突速度に相応する蛍光を発した。

[編集] 応用

エアロゲルのブロックによるスターダスト探査機の宇宙塵捕捉装置 (NASA)
エアロゲルのブロックによるスターダスト探査機の宇宙塵捕捉装置 (NASA)

エアロゲルはさまざまな用途に応用されており、商業的には天窓を断熱するため粒状にして使用されている。

ウィスコンシン大学の Zero-G エアロゲル[2] 研究チームは航空機による無重力実験の結果、無重力状態でエアロゲルを生成すると、より均一な大きさの粒子を作り出しシリカエアロゲル中におけるレーリー散乱を抑えることができることを確認した。この方法を使えば、シリカエアロゲルの色を青みがかった色から、よりいっそう透明に近づけることができる。この透明なシリカエアロゲルを窓の断熱に使えば、その建物の熱の損失を著しく抑える効果を期待できる。

多孔性で表面積が広いことから吸着効果が期待でき、こぼしたものの化学的吸着剤に応用できる。また、触媒への応用への可能性も秘める。増粘剤として、塗料や化粧品にも使用されている。

エアロゲルの能力は不純物をドープしたり、構造を強化したり、他材料とハイブリッド化するなどして強化することができると思われる。この方法により、材料としての応用の可能性は大きく広がる。

エアロゲルの毛布としての市販用製造は2000年ごろに開始された。この毛布はシリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッドである。 ハイブリッド化により、脆いエアロゲルを丈夫かつ柔軟性のある材質に変えることができた。

機械的および熱的特性は、ハイブリッドに使う強化繊維の種類やエアロゲル微細構造の大きさ、不透明化としての着色料を選択することにより、変えることができると思われる。

NASAスターダスト探査機においてエアロゲルを宇宙塵の捕捉装置として使用し、ヴィルト第2彗星の塵を捕捉することに成功した。通常、宇宙塵は探査機との衝突によって蒸発するが、エアロゲルを使用することにより蒸発させずに捕捉できる。ほかにも、火星探査機および宇宙服の断熱材として使用した。

素粒子物理学分野では、チェレンコフ光検出器として使用されている。つくば市高エネルギー加速器研究機構 (KEKB) のベレ実験所にあるベレ検出器のエアロジェルカウンターは、このような応用のひとつである。検出器にエアロゲルを使用する理由は、低屈折率をもつ透明な物質、というベレ実験に必要な条件を満たすことによる。実験において判別される1 - 3.5 GeV/cの領域の運動量を持つK中間子パイ中間子でチェレンコフ光を発生させるためには、屈折率1.02 - 1.05の物質が必要とする。通常、この屈折率は液体と気体の中間であり、低温液体や圧縮気体を使用しても実現が難しい。

レゾシノール・ホルムアルデヒド・エアロゲル (フェノール=ホルムアルデヒド樹脂に化学的性質が似ているポリマー) は、カーボンエアロゲル製造時の前駆体、または、大きな表面積が必要な場合の有機的な断熱材として使われる。表面積は600 m2/gにおよぶ高密度な物質になる。

金属エアロゲルのナノ複合材は、ヒドロゲル貴金属遷移金属のイオンを含む溶液をしみ込ませることにより得られる。溶液を含んだヒドロゲルは、ガンマ線の照射によりナノ粒子を析出する。このような複合材料の用途として、たとえば触媒、センサー、電磁遮蔽、廃棄物処理がある。ナノサイズの炭素-白金触媒は、燃料電池としての使用が期待されている。

[編集] 製造方法

[編集] シリカエアロゲル

シリカエアロゲルはコロイド状の珪素で作られたヒドロゲルを、ある極限環境中で乾燥することによって作られる。

製造プロセスは、二酸化ケイ素ゾルゲル (シリカゲル) を形成するため、エタノールのような液体のアルコールにシリコン・アルコキシド先駆体を混合するから始まる。

その後、超臨界乾燥と呼ばれる処理を行い、アルコールをゲルから取り除く。エタノールをまず液体アセトンと置換し、次に二酸化炭素を臨界点上に導くことにより行われることが多い。液体アセトンを使用することにより、良い勾配溶離を実現できる。

最終的にはゲル中のすべての液体を、ゲルの構造を損なうことなく気体と置換する。

[編集] RFエアロゲル

レゾルシノール・ホルムアルデヒド・エアロゲル (RFエアロゲル) は、シリカエアロゲルと同様の製法で作られる。

[編集] カーボンエアロゲル

カーボンエアロゲルは、RFエアロゲルからその炭素構造を残しつつ、不活性ガス中で熱分解して作られる。塊状、粉状、合成紙状として市販されている。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

ウィキメディア・コモンズ