エアバス ベルーガ

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A300-600ST ベルーガ

A300-600ST、2005年9月ハンブルク国際空港にて。

A300-600ST、2005年9月ハンブルク国際空港にて。

  • 用途貨物機
  • 製造者:SATIC社
  • 運用者:エアバス・トランスポート・インターナショナル社
  • 初飛行1994年9月13日
  • 生産数:5機
  • 運用状況:運用中

エアバス ベルーガ: Airbus Beluga)は企業連合エアバス・インダストリー(後にエアバス)が開発・製造した貨物機である。大きな航空機部品を輸送する目的でエアバスA300-600Rをベースに開発され、A300-600ST (Super Transporter)という型式名が付けられている。巨大な貨物室を備えることからシロイルカに似た独特な外見を持っており、それにちなんでシロイルカの別名である「ベルーガ」の愛称がつけられた[1]。ベルーガの開発・生産プロジェクトはエアバスの関連企業のSATIC (Super Airbus Transport International) [注釈 1]社によって行われ、1994年9月13日に1号機が初飛行し、全部で5機が生産された。

ベルーガの運航はエアバス関連企業のエアバス・トランスポート・インターナショナル社によって行われ、欧州各地で分担して生産されたエアバス機のパーツを最終組み立て地へ輸送する任務についており、飛行機を作るための飛行機とも言われる[5]。また、エアバス以外の顧客向けにチャーター輸送業務に用いられることもある。

沿革[編集]

開発の背景[編集]

エアバスのロゴが描かれたスーパーグッピー

エアバス・インダストリーは、欧州の航空機メーカーのコンソーシアム(企業連合)として設立され、参加各国で分担してパーツやコンポーネントを生産するという国際分業体制を取っていた[6]。欧州各地ので生産されるパーツを最終組み立て工場へ輸送するため、エアバスは大型貨物運搬用の輸送機としてボーイング377ストラトクルーザーを改修した「スーパーグッピー」を購入し、使用してきた[5][6]。スーパーグッピーは1971年から使用されたが機体の旧式化が進んだことと、エアバスの事業が急成長したことにより、新しい輸送機が求められるようになった[7][1][8]。そこで、エアバスは自社の旅客機A300-600Rをベースにした新しい貨物機を開発することとし、1991年8月にA300-600ST (Super Transporter) の開発計画を正式に開始した[9]

設計と生産[編集]

ドイツハンブルク上空を飛行するベルーガ(2007年)

A300-600STは、主翼、エンジン、胴体下半分をA300-600Rと同じくし、胴体上半分に大きな貨物を収容できる幅広の胴体セクションが設置された[3][8]。貨物室最前部には上側に開く扉が配置され、コックピットが胴体の下側に移されたことで、機体前方から貨物を積み下ろしできるようにされた[3][9][8]。コックピットのレイアウトや装備品などは、A300-600Rのものが踏襲された[3]

A300-600STの生産数は、5機でそのうち1機は当初はオプションとされたが、最終的に5機全てが生産されている[3][9]

A300-600STは新造機として生産されたが、幅広の胴体を組み付ける作業などは、最終組み立て地のトゥールーズにてSuper Airbus Transport International (SATIC) [注釈 1]社によって行われることになった[3][4]。SATIC社はエアバス参加企業であるフランスアエロスパシアル社とドイツDASA社が50対50で出資した合弁企業で、1991年10月20日に設立された[4]

表: A300-600STの型式証明取得日と納入日
号機 証明取得日 納入日
1号機 (MSN 655) 1995年10月25日 1995年10月25日
2号機 (MSN 751) 1996年4月22日 1996年4月22日
3号機 (MSN 765) 1997年5月7日 1997年5月7日
4号機 (MSN 776) 1998年7月30日 1998年12月18日
5号機 (MSN 796) 2001年1月5日 2001年1月5日

A300-600STの1号機は1994年9月13日に初飛行し、飛行試験を経て1995年10月25日に型式証明を取得した[5][3][10]。証明を取得した年からエアバスへの引き渡しが始まり[9]、2号機から5号機についても、表のとおり型式証明の取得と納入が進められた。

A300-600STの「ベルーガ」という愛称は、SATIC社によって付けられた[3]。エアバスは、当初はこの愛称を気に入っていなかったが、広く浸透したことから後に認めて使用するようになった[3]

運用開始後[編集]

ベルーガの最初の実用飛行は、納入の翌年となる1996年1月15日に行われた[3][9]。ベルーガは、欧州各地で製造されるエアバス機のパーツやコンポーネントを最終組み立て工場へ輸送する任務に従事し、全5機の導入によりスーパーグッピーは完全に退役した[3]

また、エアバスはベルーガを用いたチャーター輸送事業へも参入することとし、ベルーガの2号機を受領した後の1996年6月30日に、輸送請負の専門会社の設立を決めた[3]。この専門会社は「エアバス・トランスポート・インターナショナル」(Airbus Transport International、以下ATI)社と名付けられ同年9月20日に正式に登記を行い、11月24日に最初の請負輸送業務を行った[3]。全5機のベルーガの運航はATI社が担うようになり、2014年の時点では、欧州11カ所の工場間を1週間に60回以上飛行している[5]

ベルーガの運航開始以降も、エアバス機の生産数は拡大の一途をたどり、2011年にエアバスは輸送量の増加に対応するため「フライ10000」と呼ばれる計画を開始した[5][11]。この計画では、積み荷、積み降ろし方法を含めた物流インフラの最適化を目的とし、2017年までにエアバスの輸送機の年間総飛行時間を1万時間に増やすことを目指している[5][11]。この計画によりベルーガの1日当たりの飛行時間も延長される見込みである[11]

一方、SATIC社では、ベルーガのコンセプトを他のエアバス機に適用することも検討しており、エアバスA330エアバスA340がベース機の候補として取りざたされていた[9][12]。2014年の前半には、A330をベースとしてA300-600SLより飛行距離が長く、より重い貨物の輸送を可能にするベルーガXL構想が報じられていたが[12]、同年11月に、エアバスはA330をベースとした新たなベルーガを開発すると発表した[13][14]。新しいベルーガは、既存の機器やコンポーネントを再利用し、コックピット、貨物室、尾部などは新たに開発される予定である[13][14]。エアバスでは新しいベルーガを5機製造し、1号機は2019年中盤に運用を開始する予定で、現行のベルーガは新しいベルーガと順次置き換えることで2025年に退役するとしている[13][14]

機体の特徴[編集]

ケネディ宇宙センターに着陸するベルーガを前方から見る。

ベルーガは、主翼やエンジンはA300-600Rと同じだが、大型貨物を搭載できるように極めて太い胴体を持つ[3]。2014年現在、ベルーガは世界最大の胴体幅を持つ飛行機である[5][15]

胴体の下半分はA300-600Rと同じだが、客室部にあたる胴体上半分に大きな円筒形を乗せたような形で、その円筒形の下側2/3から胴体下半分までは直線的に結ばれている[3]。この円筒形部分は中心から内壁までの半径が3.52メートルあり、貨物室の最大高は7.10メートル、床面の幅は5.11メートルである[3]。円筒の前方と後方は、もとの機体形状に合わせてすぼめられており、完全な円筒部となる部分の長さは21.34メートルで、貨物室の全長は37.70メートルである[3]。床下貨物室にも貨物を搭載可能である[9]。貨物室の総容量は1,400立方メートルで、積載量は47トンである[3][5]

前方貨物扉を開いたベルーガを正面から見る。見学者用の通路が設けられている。

貨物の積み下ろしを行うため、貨物室の最前部に上開き式の扉が設けられている[3]。この扉は貨物室断面が完全に開口するまで上がるため、貨物室の寸法をフルに使用できる[3]。貨物扉を開いた時の最大の高さは、貨物を搭載しない状態で16.97メートルとなる[3]

前方から貨物の出し入れを行えるように、ベルーガのコックピットの位置は胴体下部に移されている[3]。乗務員の乗降扉は胴体の床面下に配置され、操縦室の後方にあたる胴体右側面に非常口が設けられている[3]。コックピットの設計やレイアウト、装備品はA300-600Rのものを踏襲している[3]。ベルーガでは人工衛星や美術品といった温度管理が必要な貨物を輸送できるように、可搬式のヒーターモジュールも用意されており、コックピットからヒーターモジュールの制御が行えるようになっている[16]

ベルーガでは、機体重量の増加に合わせてベース機よりも尾翼の構造が強化された[3]。また、直進安定性を高めるため、水平安定版の両翼端に垂直安定板が追加されたほか、垂直安定板の面積も拡大された[4]

エンジンはターボファンエンジンで、ゼネラル・エレクトリック製のCF6-80C2を2基装備する[5]

運用[編集]

全5機のベルーガはATI社によって運航され、欧州各地で製造されるエアバスA320やエアバスA330、そして開発中のエアバスA350 XWBといったエアバス機のパーツやコンポーネントを最終組み立て工場へ輸送する任務に従事している[17]。パーツの生産地であるフランスのナントサンナゼール、ドイツのブレーメンスペインヘタフェ、イギリスのブロートン英語版イタリアナポリなどから、最終組み立て地のトゥールーズやドイツのハンブルクを結んでいる[5]。総2階建ての超大型機であるエアバスA380については、ベルーガの貨物室にも収まらないコンポーネントがあるため専用の船と車両を用いた輸送がメインとなっている[18]

ブレーメン国際空港でコロンバスを搭載するベルーガ(2006年)

ATI社ではこの通常運航のほか、エアバス以外の顧客向けに大型貨物のチャーター輸送業務を請け負っている[3]。ベルーガの広い貨物室を活かし、それほど重くはないがかさばる荷物の輸送として、人工衛星ヘリコプターのほか美術品の輸送にチャーターされることもある[8]1999年にはドラクロワの絵画「民衆を導く自由の女神」を輸送するため日本の成田国際空港に飛来している[5]。また、2006年5月には国際宇宙ステーションのヨーロッパ実験棟コロンバスをドイツのブレーメンから米国ケネディ宇宙センターへ運搬するためにも利用された[19]

主要諸元[編集]

出典:特に記載のないものは Airbus S.A.S.[20] による

  • 運航乗務員数:2名[16]
  • 全長:56.15 m
  • 全幅:44.84 m
  • 全高:17.24 m
  • 翼面積:122.40 m2
  • 胴体直径:7.31 m
  • 貨物室全長:37.7 m
  • エンジン:GE CF6-80C2A8 ターボファンエンジン 2基
  • エンジン推力(1基あたり):119 - 120 kN
  • 最大離陸重量:155 t
  • 最大積載量:47 t
  • 貨物室容量:約14,000 m3[5]
  • 最大巡航速度:マッハ0.82
  • 航続距離:積載量40トンで2,779 km、26トンで4,632 km.

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ a b 国際民間航空機関 (ICAO) の登録コード一覧では、SATICは Special Aircraft Transport International Company とされている[2]が、本項では、ベルーガの紹介文献[3][4]における記述に従う。

出典[編集]

  1. ^ a b エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密 (1/4)”. CNN.co.jp (2014年2月11日). 2014年7月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月15日閲覧。
  2. ^ Manufacturers Code”. ICAO. 2014年11月7日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 青木 2010, pp. 78-79.
  4. ^ a b c d Kingsley-Jones 1999, pp. 57-58.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l YOSHIKAWA, Tadayuki. “エアバスの巨大輸送機ベルーガ、初飛行20周年 主翼や胴体運ぶ”. Aviation Wire. 2014年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月15日閲覧。
  6. ^ a b 青木 2010, p. 131.
  7. ^ 青木 2010, pp. 78-79, 131.
  8. ^ a b c d エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密 (2/4)”. CNN.co.jp (2014年2月11日). 2014年9月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月15日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g Kingsley-Jones et al. 1997.
  10. ^ EASA 2014.
  11. ^ a b c エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密 (3/4)”. CNN.co.jp (2014年2月11日). 2014年9月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月15日閲覧。
  12. ^ a b エアバス・ベルーガ 世界一変わった外観の貨物機の秘密 (4/4)”. CNN.co.jp (2014年2月11日). 2014年9月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月15日閲覧。
  13. ^ a b c Airbus to expand oversize air transport capability”. Airbus S.A.S.. 2014年11月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月19日閲覧。
  14. ^ a b c KOHASE, Yusuke. “エアバス、ベルーガ新型機開発へ 既存機は25年までに退役”. Aviation Wire. 2014年11月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月19日閲覧。
  15. ^ Beluga A300-600ST: widest fuselage, oversized dimensions, cylindrical cargo”. Airbus S.A.S. 2014年8月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月20日閲覧。
  16. ^ a b Beluga A300-600ST: flight deck”. Airbus S.A.S. 2014年8月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月20日閲覧。
  17. ^ Beluga A300-600ST : the most voluminous cargo for oversized cargo transport”. Airbus S.A.S. 2014年8月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月20日閲覧。
  18. ^ 青木 2010, pp. 135-137.
  19. ^ Mansfield, Cheryl. “Space station module Columbus lands on Florida shores (PDF)” (English). John F. Kennedy Space Center, NASA. 2014年9月19日閲覧。
  20. ^ Beluga A300-600ST: Dimensions & key data”. Airbus S.A.S. 2014年8月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月20日閲覧。

参考文献[編集]

書籍[編集]

オンライン資料[編集]

関連項目[編集]

  • ボーイング747LCF - ボーイング747を改造した大型貨物機。ボーイング機のコンポーネントを輸送するために用いられている。

外部リンク[編集]