インディアン・カジノ

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インディアン・カジノは、北米アメリカ連邦に属するアメリカインディアン部族が運営するカジノのこと。全米のインディアン部族の主幹産業のひとつである。


概要[編集]

カジノ事業は現代を生きるインディアン部族にとっての主要な経済収入のひとつで、部族が運営する「インディアン・カジノ」は、「現代のバッファロー」ともいわれ、インディアン部族の重要な産業となっている。保留地が狭い不毛の地である部族には、カジノが唯一の収入源である場合も多い。その規模もビンゴ場だけの小さなものから、ホテルやレストラン、劇場、温泉、ゴルフコースなどを備えた一大娯楽施設まで様々である。

インディアン・カジノの誕生[編集]

1979年12月14日、セミノール族はフロリダ州ハリウッドの保留地で、起死回生をかけて高額賭率のビンゴ場を開設した。これに対し、フロリダ州は即座にこれを停止させようとし、部族と州はカジノ経営の是非を巡って法廷闘争となった。この歴史的な係争は「フロリダ・セミノール族対バターワース」裁判と呼ばれている。

1981年、連邦最高裁判所はセミノール族のビンゴ場経営の権利を支持する判決を下した。

1987年、カリフォルニアの「ミッション・インディアン」のカバゾン・バンドが高額賭率ビンゴ場を開設。その差し止めを要求する州と法廷闘争となった。この係争は「カリフォルニア対ミッション・インディアン・カバゾン・バンド」裁判と呼ばれている。

米国最高裁判所はこれに対し、「市民法280条(「ブライアン対イタスカ郡」裁判)」(Bryan v. Itasca County)を基に、「インディアン部族による賭博の開催は連邦と州の管轄外であり、カリフォルニア州にそれを罰することはできない」とする裁決を下した。

インディアン賭博規制法(IGRA)[編集]

1988年、連邦議会は、インディアンの賭博場経営と規制に関する「インディアン賭博規制法(IGRA)」を通過させた。これは、連邦政府が公式認定した部族が(つまり、「絶滅認定」された部族はカジノ運営できない)州との交渉を経て、アメリカ国の規定内および室内で行うことを前提としている。言い換えれば、州がこれを禁止した場合、インディアンはカジノ設営出来ないということでもある。この法令は、インディアンの賭博場を以下のように、3つのクラスに分けるものである。

「クラス1」- 最小級賞品を伴う、「伝統的な部族の賭博と社会的な賭博」と定義。部族政府外には、全く規制権限がない。
「クラス2」- 家庭内などでない、他の賭け客に対して行われるギャンブルと定義。ビンゴや、ポーカーのようなカードゲーム。それらが州でも適法である限り、これらのゲームはインディアンの国でも認められるものとする。
「クラス3」- カジノに対してのギャンブル、つまりスロットマシン、ブラックジャック、サイコロ博打、ルーレットを含み、「クラス1」とか「クラス2」とかでない、賭博すべてを形作るものと定義。州との盟約を必要とする。

この法令の制定にあたり、インディアン・カジノ運営の審査と認可業務に当たらせるべく連邦は「全米インディアン賭博委員会(NIGC)」を設立。インディアン側もインディアンのカジノによる自給自足と福利厚生を保護すべく「全米インディアン賭博協会(NGIA)」を設立している。

ピクォート族(ペコー族)の「フォックスウッド・カジノ」

1992年コネチカット州マシャンタケット・ピクォート族が「フォックスウッズ・カジノ・リゾート」をオープンし、さらにダコタ・スー族が「ミスティック・レイク・カジノ」を開き大きな利益を得て大成功。ピクォート族やダコタ族に続けと、他の部族も不安定な経済収入など将来性を考慮してギャンブル事業に乗り出し、現在、アメリカにインディアンが運営するカジノは377ヶ所あり、ほとんどの州にインディアン・カジノが開設され、アパッチ族チョクトー族オナイダ族、チペワ族(オジブワ族)など連邦政府が認定する562の部族がギャンブル事業を運営している。これらインディアン・カジノの年間総収入は約1兆6500億円に達している。かれらのカジノのほとんどは都市圏から離れた場所にあるが、遠距離にも拘らず来客数は年次増大しており、保留地全体を潤す効果も甚大である。

インディアンとカジノ[編集]

1990年代に入ると、テキサスやマサチューセッツ、オレゴンをはじめ各地の州議会で「賭博は教育・道徳的に許されないものである」との理由からインディアン・カジノの運営禁止決議が相次いでいる。しかし、インディアン・カジノの収入の多くは「没収された土地の買い戻し」や「道路の舗装・整備」、「部族の医療や教育、居住」、「バッファロー牧場の開設」などの資金といった、それぞれのインディアン部族員の福利厚生に使われているものであり、州とインディアン部族のカジノを巡る係争は年次拡大している。そもそもインディアンの衣食住の権利を詐取してきた白人が「道徳」を理由にカジノを禁止するのは理不尽ではないかとの内外の批判も多く、またインディアン・カジノが自治体にもたらす税収は莫大なものであり、インディアンだけでなく、非インディアンの雇用をも生み出す一大事業ともなっていて、これら州によるカジノ禁止決定に対する抗議デモの参加者には失業した非インディアンのカジノ従業員の姿も多い。

一方、カジノ経営をする部族の中には十分な収入が得られないものもあり、人口の集積地から近い、他のカジノとの競争が少ないなどの条件がそろわなければカジノの経営による利益は薄く、カジノの設立や運営を仲介する非インディアン企業に支払う手数料も高額にのぼるなど、ギャンブルの経済効果を疑問視する声もある。ホピ族のようにカジノ事業を敬遠する部族もいる。ナバホ族は2度の住民投票でカジノ建設を否決してきた。ただ、ホピ族は伝統的に自給自足度の高い定住農耕民であり、ナバホ族は有名な観光地を持っており、カジノに頼らざるを得ない弱小の部族に比べ、幾分カジノに対する温度差を生んでいる面がある。

またオジブワ族の「ホワイトアース保留地」の部族議長のように、腐敗した部族政府が白人賭博代理業者と癒着して、連邦に逮捕されるなどの悪例もしばしば見られている。オクラホマのワイアンドット族(ヒューロン族)は、カンザスのワイアンドット族から、オクラホマの彼らの保留地へのカジノ建設を提案され苦慮している。カンザス・ワイアンドットは連邦認定を解除された「絶滅部族」なので保留地を没収されており、オクラホマ・ワイアンドット族の狭い保留地でのカジノ建設可能地といえば、部族伝統の墓地しかないからである。

カリフォルニア州はカジノを承認しない姿勢を続け、インディアン部族と10余年にわたる法廷闘争を続けている。この中で都市部でのカジノ建設を企む白人企業家グループが、ポモ族コイ族などに次々に白羽の矢を立て、カジノ計画を持ちかけている。が、揺れ動く法廷闘争のはざまで承認を得られず、大損を出して部族が振り回される格好になっている。オーロネ族は、部族の連邦承認要求のだしに、インディアン・カジノの建設を持ちかけられている。一方で、カリフォルニアには総勢63のインディアン・カジノが開設営業されている。小規模部族の多い同州では、まさにカジノは部族の命運をかけた唯一の産業となっている。

関連項目[編集]