イルルヤンカシュ

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嵐神に殺されるイルルヤンカシュ。背後に嵐神の子 Sarruma

イルルヤンカシュ (Illuyankas) は、ヒッタイト神話に伝わるの姿をした怪物である。別名イルヤンカ (Illyanka, Illuyanka)。名前の意味は「蛇」で、固有名詞ではなく、先住民言語起源説と印欧語起源説がある。ハットゥシャ出土の粘土板に記載されている。

なお、右のレリーフは2つ目の物語の一場面である。

神話[編集]

神話としては、プルリヤシュ祭で読まれる嵐の神と怪物との戦いが2バージョン残っている。

1つ目の物語[編集]

1つ目の物語では、嵐神とイルルヤンカシュが争った時、イルルヤンカシュの強大な力の前に天候神である嵐神は敗れ去る。そこで風と大気の神である女神イナラシュに助力を求めた。

女神は盛大な酒宴を開き、イルルヤンカシュを招き、イルルヤンカシュを泥酔状態にした。それだけでは暗殺成功には不十分と考えた女神は人間界にあるジッグラト(聖塔)に降臨し、聖塔にいた人間の中から男を選び「泥酔して動けなくなったイルルヤンカシュを縛るのにはぜひとも人間の力が欲しい」と願い出た。そこにいた人間とはフパシヤシュという名の男であった。フパシヤシュは女神イナラシュ(イナラ、Inara)と一夜を共にすることを条件に協力を願い、イナラシュはその条件を承諾した。女神と一夜を共にし己の欲望を満たし、しかも女神と交わったことによって神の力まで得たフパシヤシュは命令どおりイルルヤンカシュを縛り上げた。その後、嵐神によりイルルヤンカシュは殺されることになった。

しかし、フパシヤシュは役目を果たしたにもかかわらず天空にある女神の家に軟禁される。しかも女神が人間界にいるときは窓を開けてはならないという規則まで設けた。窓からは天界から人界を見ることができ、フパシヤシュの妻子を見て里心がつくからだと女神は言った。そしてイナラシュは後から「女神と交わったものはもう人間の体には戻れない」(人間としての死を意味する)ということを告げた。しかし好奇心から女神の居ない間にフパシヤシュは窓を開けてしまった。そして、故郷を見下ろしたフパシヤシュは故郷に戻りたい気持ちになり泣き崩れた。家に帰ってきた女神イナラシュはそれを見てフパシヤシュを殺した。

2つ目の物語[編集]

2つ目の物語では、嵐神がイルルヤンカシュに敗れ、嵐神は蛇に心臓と眼を奪い取られる。嵐神の心臓と眼とは嵐神の神としての力の源を意味する。蛇に逆襲すべく、嵐神は貧しい人間の娘と結婚した。

嵐神と人の子である半神(男児)が成長すると、嵐神は息子をイルルヤンカシュの娘に婿入りさせた。妻の家を訪れたときに心臓と眼の在り処を聞きだせと息子に命じた。在り処を聞きだした息子は蛇から眼と心臓を譲り受けた。息子はそれを嵐神に渡し、嵐神は再び蘇った。嵐神は再び蛇に挑むが息子は蛇側にいた。「我は蛇の一族。我を助けるな」という声を息子は天に向かって叫んだ。その声を聞いた嵐神は、自分の息子ごとイルルヤンカシュを殺した。

蛇が嵐神(英雄)に退治される神話は広く世界中に普及しておりギリシア神話のテュポンなどが例に挙げられる。それは水神から天空神への信仰の転換点であるとも言われている。

参考文献[編集]

関連項目[編集]