イランに対する制裁

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

イランに対する制裁(イランにたいするせいさい)は、イランにおける深刻な人権侵害や核開発問題を受け、多数の国や多国籍企業がとっている措置。制裁は一般的に核兵器ミサイル、特別な軍事技術などの軍事関連の輸出を禁止し、または、石油天然ガス石油化学製品に投資することも禁止している。加えて、イランの金融機関を国際的な取り引きから締め出している。1979年イラン・イスラム革命以来、アメリカ合衆国はイランに対する制裁措置をとってきた。イランの核開発問題を巡り、アメリカをはじめとする諸国および多国籍企業が制裁に協力をしている。

対イラン国連制裁[編集]

国際連合安全保障理事会決議として可決されたイランに対する制裁措置には以下のものがある。

  • 安全保障理事会の決議1696。2006年7月31日に可決された。 国連憲章の第7章を行使して、イランがウランの濃縮活動を中止するよう要請。
  • 安全保障理事会の決議1737。2006年12月23日に可決された。核関連原料及び技術を禁止し、核開発計画に関係する個人や企業の資産を凍結。
  • 安全保障理事会の決議1747。2007年3月24日に可決された。イランに対する武器輸出の停止、凍結資産を拡張。
  • 安全保障理事会の決議1803。2008年3月3日に可決された。資産凍結を延長し、同盟国がイランの銀行活動を監視し、船舶や飛行機を検査し、また核開発計画に関係する個人を領土内で監視することを要請。
  • 安全保障理事会の決議1835。2008年9月27日に可決された。
  • 安全保障理事会の決議1929。2010年6月9日に可決された。弾道ミサイルに関する活動を禁止し、武器禁輸を強化し、核開発計画に関連する個人に渡航を禁止し、イスラム革命防衛隊Islamic Republic of Iran Shipping Lines の資産及び資金を凍結して、禁止された活動に関連するイラン船舶へのサービスを禁止し、イランの銀行の支店が、各国の領土に開店するのを禁止し、各国にある金融機関がイランに開店すること及び預金口座を開設することを禁止した。また、各国にイラン貨物を検査することを要請。

対イラン二国間制裁[編集]

オーストラリアはイランのミサイル、核開開発計画に関係する個人や法人に対して金融制裁及び海外旅行を禁止している。また、武器輸出を禁止している[1]カナダは特定のイラン人の資産と取引すること、武器輸出、原油の精製、イランの金融機関の設立、石油またはガス分野への投資、イランの銀行との取引、イラン政府の負債の購入を禁止している。その上、Islamic Republic of Iran Shipping Lines に船舶及びサービスの提供をすることを禁止している。しかしながら、 外務省の許可を得れば特別な場合に限り、禁止された活動または商取引が可能である[2]

欧州連合の規制により、外国貿易、金融サービス、エネルギー関連会社や技術 分野での、イランとの商取引が減少した。欧州連合はイラン及びイランの会社に保険を提供することを禁止した。2012年1月23日に、同年7月より、イラン産原油に制限を加えて、イラン中央銀行の資産を凍結することとした[3]。翌月に、イランが先制の手段を講じて、イギリスフランスへの原油輸出を停止した。しかしその両国はすでにイラン産原油への依存を大幅に減らしていた(ヨーロッパ全体でイランからの輸入を半減した)。数人のイランの政治家が、イラン産原油に今だ依存している国(ギリシャスペインイタリアなど)への販売停止を要求した[4]3月15日に、欧州連合は、ベルギーブリュッセル国際銀行間通信協会(SWIFT)がイランの中央銀行を含む25のイランの銀行へのサービスを打ち切るよう、指示することを決定した。 その結果、イラン中央銀行に対する欧州連合の制裁がいっそう強められた。3月17日に国際銀行間通信協会のサービス供給が停止された.。それにも関わらず、イラン中央銀行を通じて合法的に取引することが今でも可能である。 2011年6月24日の欧州連合の公報によると、シリア政府の反政府運動の弾圧に関与しているとして イラン革命防衛隊の下記の3人に対して、個人制裁措置が取られた:Soleimani and Brig Cmdr Mohammad Ali Jafari, and the Guard's deputy commander for intelligence, Hossein Taeb.

インドはイランの核開発計画に関連する品目、材料、設備あるいは技術などの輸出を禁止している[5]。しかし、2012年には制裁の強化に反対した[6]。インドの輸入原油の中でイラン産が12パーセントを占めているためである[7]。2012年3月に、両国間の貿易を促進するために、イランへ代表団を派遣した[8]。その結果両国は、2015年までに 貿易総額を250億ドル分増加すると発表した。さらに、イランに対する制裁措置を回避するため、インドが購入するイラン産原油をルピーで決済することに合意した.[9]

イスラエルは敵国との関係を禁止する法案を成立させた。この法案により、イランとの商取引及び渡航が禁止され、国際制裁に違反した会社に対して罰金を課すことが可能になった [10]

日本は一部のイランの銀行との取引を禁止し、イランのエネルギー分野への投資を禁止し、核開発計画に関係する個人や会社の資産を凍結した[11]。2012年に、イランにとり第二の原油取引先である日本が、イランへの依存を減らすために「具体的な手段」をとることを発表した。2011年には、東日本大震災が起こったにも関わらず、イランからの輸入を20パーセントを減らした[12]ロシアは安全保障理事会で過去4回の制裁決議を支持したものの、2012年4月から制裁強化に反対することを表明している 。

南アフリカ最大のイラン産原油の取引先がとイランとの商取引を停止し、サウジアラビアに代替の原油の供給を依頼した 。 韓国は126の個人や会社に制裁を加えた 。日本と韓国で、イランの原油輸出の26パーセントを占める 。2012年3月の国際エネルギー機関 (IEA:International Energy Agency) の調査報告によると、韓国が年初にイランの原油輸入を急増させた 。

スイスは武器及びイランの石油やガス分野に利用される製品の販売を禁止し、金融サービスに制限を加えた[13]

トルコはアメリカの外圧により、イラン産原油輸入の20パーセントを切り詰めた。

アメリカ合衆国は武器販売を禁止し、ほぼ完全なイランとの経済活動の禁止を行っている。その中には、イランとの商取引を行う会社への制裁、イランからあらゆる製品の禁輸、イランの金融機関への制裁、イランの航空機産業との商取引の禁止が含まれている。イランと取引する場合は、財務省から特別な許可を必要としている。さらに、イラン人権蹂躪制裁規則によってイランの複数の高官を指名している [14]。2012年2月にアメリカにあるイランの中央銀行、他の金融機関及びイラン政府の資産を凍結した 。アメリカの見解では、制裁はイラン政府の歳入の80パーセントを占めるエネルギー分野を標的にすべきである。そして、国際金融システムから孤立させることが必要であるとしている [15]

制裁の結果[編集]

制裁はイランの3520億ドルという、原油に依存した経済に影響を及ぼしている[16]。イラン中央銀行の公報によると、原油輸出のシェアは減少の傾向にある [17]。同時に経済成長にも影響が見られる [18]。2012年3月までには、イランの生産が過去10年で最低の水準に低下し、今後さらに1980年代イラン・イラク戦争以来のレベルまで低下すると見られている。イラン産の原油は割引価格で販売され 、欧米原油市場におけるイラン産原油の穴埋めはサウジアラビア産でまかなわれ、後者の生産が30年ぶりの水準となっている。

これまでのところイランに対する制裁は、イランが核開発計画を進めるために不可欠な材料及び設備を入手することを困難にしており、計画にとって重大な障害となっている。制裁の社会的、経済的な影響も大きい。例えば、2011年の秋頃から、イラン通貨の貨幣価値が下落し、イランを金融恐慌状態に陥れたとされている。欧州連合の原油輸入停止の直後、通貨がさらに10パーセント下落した [19]。 一方、どの程度まで影響が与えられるのかはっきりとわからないという意見もある。制裁はイランの国民生活に影響を及ぼすのみで、専門家の中には核開発計画自体には効果的な影響を及ぼさないと主張しているものもおり、1970年代から核開発活動を行ってきた4カ国中3カ国は、制裁措置にも関わらず、核兵器開発を成功させたことを例にあげている。 もう一つの影響としては、イランによるホルムズ海峡の封鎖の示唆により、各国が代替の原油輸送経路を検討し始めたことがある[20]。 結果として現在は中国がイラン最大の貿易相手国となっている。

参照[編集]

  1. ^ Government of Australia, Australia's autonomous sanctions: Iran, July 29, 2010
  2. ^ a b Ladane Nasseri (12 February 2012). "Iran Won't Yield to Pressure, Foreign Minister Says; Nuclear News Awaited". Bloomberg. Retrieved 13 February 2012.
  3. ^ a b c Javier Blas; Najmeh Bozorgmehr (20 February 2012). "Iran struggles to find new oil customers". The Financial times. Retrieved 21 February 2012.
  4. ^ "Iran stops oil sales to British, French companies". Reuters. 19 February 2012. Retrieved 19 February 2012. "Iran's top oil buyers in Europe were making substantial cuts in supply months in advance of European Union sanctions, reducing flows to the continent . . . by more than a third—or over 300,000 barrels daily. . . . Iran was supplying more than 700,000 barrels per day to the EU plus Turkey in 2011, industry sources said."
  5. ^ "India imposes more sanctions on Iran". The Hindu. 1 April 2011. Retrieved 13 February 2012.
  6. ^ Sandeep Dikshit (11 February 2012). "India against more sanctions on Iran". The Hindu (Chennai, India). Retrieved 13 February 2012.
  7. ^ "India won't cut Iranian oil imports despite US, EU sanctions: Pranab Mukherjee". The Times of India. Reuters. 30 January 2012. Retrieved 13 February 2012.
  8. ^ "Govt wants more exports to Iran". The Times of India. TNN. 10 February 2012. Retrieved 13 February 2012.
  9. ^ "Payment issue with Iran resolved: FIEO". The Economic Times. 2 March 2012. Retrieved 3 March 2012.
  10. ^ Attila Somfalvi (30 May 2011). "PM clarifies: Ties with Iran forbidden". Yedioth Ahronoth. Retrieved 13 February 2011.
  11. ^ "Q&A: Iran sanctions". BBC News. 6 February 2012. Retrieved 13 February 2012.
  12. ^ "Japan 'to reduce Iran oil imports'". BBC News. 12 January 2012. Retrieved 13 February 2012.
  13. ^ Reid, Katie (19 January 2011). "Switzerland brings Iran sanctions in line with EU". Reuters. Retrieved 25 February 2012.
  14. ^ OFAC Targets Two Iranians for SDN Designations, Sanction Law, December 14, 2011
  15. ^ Kenneth Katzman (3 February 2011). "Summary". Iran Sanctions. Congressional Research Service. Retrieved 13 February 2012.
  16. ^ a b Ladane Nasseri (12 February 2012). "Iran Won't Yield to Pressure, Foreign Minister Says; Nuclear News Awaited". Bloomberg. Retrieved 13 February 2012.
  17. ^ Iranian National Bank. "Economic Trends No 62, Third Quarter 1389 (2010/2011), Balance of Payments, p.16".
  18. ^ 31Editorial (17 February 2012). "Time to test Iran's nuclear intentions". The Financial Times. Retrieved 19 February 2012. "Ratcheted-up sanctions, including an imminent oil embargo and the obstruction of Iran's ability to finance its trade, are having a big impact on the Iranian economy."
  19. ^ Ladane Nasseri (26 January 2012). "Iran Central Bank Will Devalue Rial 8.5% Against Dollar as Sanctions Bite". Bloomberg. Retrieved 26 January 2012.
  20. ^ a b Kadhim Ajrash; Nayla Razzouk (12 February 2012). "Iraq Opens Offshore Oil Facility to Boost Export Capacity in Persian Gulf". Bloomberg. Retrieved 13 February 2012.

外部リンク[編集]

Videos