イスラームと児童性愛
イスラームと児童性愛(イスラームとじどうせいあい)とのかかわりは、他の宗教におけるそれと同様複雑である。論議は主として、古典イスラーム法における女児の結婚最低年齢(法定同意年齢)に集中する。
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[編集] 基本的事実
[編集] 預言者ムハンマドとアーイシャ
ブハーリーのハディース集、真正集によればイスラームの預言者ムハンマドは、メディナ時代の初期に9歳の少女アーイシャと結婚し、性行為を行った[1]。このときムハンマドは50代であったとされる。
[編集] 古典イスラーム法の結婚最低年齢
古典イスラーム法の一般的な解釈において、女子の結婚最低年齢は9歳である。イスラーム法では結婚以外での性行為は認められていないので、事実上結婚最低年齢が法定同意年齢に該当する。イスラーム法において、女子は9歳で一人前(判断力を持った存在)とされ、大人に準ずる扱いを受ける。宗教儀礼を怠った場合の刑罰が大人同様に執行され、ベールの着用が義務付けられる。結婚最低年齢が9歳であるのも、上のような思考法の一例である。
現在でもイランやサウジアラビアなど、「イスラーム的」な政治を目指す国では、上記の法律が施行されている。しかし同時に多くのイスラーム教国では、結婚最低年齢はイスラーム法によらず、より高い15歳から18歳程度の年齢となっている。
逆に古典イスラーム法を施行する国家でも、イエメンは非一般的な解釈にのっとり、女児の結婚最低年齢に関する法律を定めていない。そのため、9歳未満の女児との結婚・セックスも可能であり、問題視されている[2][3]。
[編集] 論争
[編集] ムハンマドとアーイシャとの結婚に関する議論
ブハーリーの真正集によるムハンマドとアーイシャとの結婚時のアーイシャの年齢は、現代では非イスラーム圏でもよく知られるようになっている。非イスラーム世界の人間の中には、預言者ムハンマドを児童性愛者、チャイルド・マレスターと非難する人間も少なくない[4][5]。とりわけ反イスラーム主義者はこの事に関して強くムハンマドを非難している。例えばオランダの反イスラーム主義者のヒルスィ・アリ(Hirsi Ali)は、「自分が53歳のときに6歳の女の子と結婚し、9歳のときに結婚を完成させた-初夜の性交を行った-堕落者」(“a pervert” for marrying a six-year-old girl, Aisha, when he was 53, and consummating the marriage when she was nine)と預言者ムハンマドを中傷・攻撃している[6]
しかし一方で、ムスリムの少なからぬ人々、そして非ムスリムでも児童性愛行為と児童性的虐待を結びつけることを嫌う児童性愛擁護運動(所謂少女愛運動)の信奉者などは、アーイシャが預言者ムハンマドにとって最愛の妻であったとするハディースを引きながら、ムハンマドの行為を非難するのは筋違いであるとムハンマドを擁護している。
[編集] 古典イスラーム法上の結婚最低年齢に関する議論
古典イスラーム法上の結婚最低年齢にはいくつかの説がある。
通常の解釈に従えば、ブハーリーのハディースによるところの、預言者ムハンマドと結婚し、初性交を行ったときのアーイシャの年齢に基づき、少なくともセックスを伴う結婚に関しては9歳である。そのため現代の観点では女児に対する性的虐待であるとみなされる性行為も、結婚の上なら合法とされ、問題視されなかった。現代でもイランやサウジアラビアなどイスラーム世界のごく一部の国では、イスラーム法上の結婚最低年齢をそのまま施行しており、国際的な批判を浴びている。サウジでは親の借金のかたとして8歳の少女が結婚させられた事例がある[7]。ただしこの場合裁判官は上記のイスラーム法で定められた年齢まではセックスを行わないよう夫に求めている[8]。
サウジアラビアのシャリーアが9歳の少女との結婚・セックスを肯定することに関しては、人権上の観点から批判するものも多い。しかしこれらの批判に対して、サウジのウラマー(イスラーム法学者、実質的なイスラームの聖職者)達で構成される、高位聖職者評議会の議長アブドゥル・アズィーズ・アル・シェイフ(古典アラビア語転写:abdu al[9]-azizi al-shaykhu、古典アラビア語口語読み:abdulaziz alsheykh)は、シャリーアでは10歳の少女でも結婚・セックスの対象とすることができ、むしろシャリーアに対する批判を行う側こそ少女達への不正義を行っていると述べた[10]。
更に上に挙げたイエメンのように、結婚最低年齢を定めない国もある。また初潮がきた場合即結婚・セックスの対象として許されるという解釈も存在している。反イスラーム主義者の中には、このことを取り上げてイスラームは児童性愛・児童性的虐待を認める宗教と攻撃する人間も存在している[11]。
しかし少女愛運動の信奉者など、児童性愛の遂行を児童性的虐待と切り離す人々の中には、このような法規定は児童性愛者の存在を認めうるものであり、むしろ現代の世界においても有用な法であるとする意見も存在している。
また、そもそも現代のイスラーム教国のほとんどの法律では女性の結婚最低年齢や法的同意年齢は医学的な性的成熟を踏まえたものであり、15歳から18歳程度であって非イスラーム諸国とも変わらない。また当該国のイスラーム法学者の多数派の解釈も、このような法律を支持しており、古典イスラーム法に基づく9歳からの結婚・性行為の合法化を求めている人間は、きわめて少数派である[12][13]。イランやサウジアラビアのような古典イスラーム法による結婚最低年齢を施行する国でも、実際はほとんどの人間は20過ぎで男女とも結婚している。このような大事実を無視して、例の少ない事例を見つけ出してイスラーム全体とみなすのは不適切ではという意見もある。
[編集] ハディースの真贋性
イスラームの信仰において、聖典クルアーンは神のロゴス、神の一部であり、その内容を疑うことは許されないが、預言者ムハンマドの言動を伝えるハディースについては、伝承の過程での改竄やハディース自体の捏造などが初期から発見されており、批判的思考を持つことが許容されている。
そのため、ハディースの伝承経路や内容を元にその真贋を問うハディース学が発達したが、9世紀にハディース学の権威ムハンマド・アル・ブハーリーが「真正」であると認められるハディースのみを収録した「真正集」を編纂し、これはイスラーム法学者たちによりその真正性を認められ、イスラーム法の法源としてまた信者の指針として、クルアーンに次ぐ事実上の聖典の地位を与えられた。上記のムハンマドとアーイシャとのハディースも「真正集」中に収められており、前近代においては疑いようのない歴史的な事実と考えられていた。
しかし、近代に入って非イスラーム圏の学者がハディースの真贋を徹底的に追求した結果、少なくともほとんどのハディースは預言者ムハンマドに関する歴史的事実を伝えているとは判断できず、とりわけ法学に用いられる「真正」とされたハディースが実はより怪しいものであるとみなされるようになった。イスラーム圏の学者たちもこの結果を受けて、少なくとも古典ハディース学のハディース真正性に関する結論は疑わしい部分も少なくないと認めるようになった。
ブハーリーの真正集中にあるムハンマドとアーイシャとの結婚年齢に関するハディースも、そのような観点から見直しが進められ、かつて「真正」ではなく、より低いランクの信用度しかないとされ、歴史的事実ではないとされてきたハディースに従い、ムハンマドとアーイシャが結婚し性行為を行ったときのアーイシャの年齢はより高い年齢だったとする説が複数出されている。例として、インドのイスラーム学者マウラナ・ムハンマド・アリーはアーイシャがムハンマドと結婚した年齢は15歳であったとも主張している[14]。
[編集] 参照
- ^ ブハーリーのハディース集成書『真正集』「婚姻の書」第39節第1項(アーイシャ自身からの伝)、同第40節(アーイシャおよび伝承者ヒシャームからの伝)、同第59節(伝承者ウルワからの伝)その他。ハディース中の「9歳で婚姻を完成させた」という一文が実際に「性行為を行ったという意味とされるのは集成書の注記による。
- ^ 強制結婚させられた8歳の少女、離婚が成立
- ^ イエメンの裁判所、8歳の少女の離婚を認める
- ^ An Examination of Muhammad’s Marriage to a Prepubescent Girl And Its Moral Implications
- ^ Was Muhammad a Pedophile?
- ^ Anthony Browne, Film-maker is murdered for his art, Times Online, November 3, 2004
- ^ 父親の借金清算で8歳女児結婚 サウジ、無効確認申し立て退ける
- ^ 8歳少女と47歳男性の結婚、裁判所が容認 サウジ
- ^ 但しこの定冠詞alの冒頭のaは母音の後なのでハムザトゥ・アル・ワスルとなり発音されない
- ^ 「10歳少女の結婚も法的に可能」、サウジのイスラム教最高指導者AFP・BBニュース、2009年1月16日付
- ^ Islam and Pedophilia
- ^ イスラム聖職者会議、9歳からの女子結婚認める宗教令を批判 モロッコ ここでは法学者ムハンマド・アル=マグラーウィーが預言者ムハンマドの事跡を理由に9歳との結婚・セックスは合法と主張している
- ^ Cleric marries 12-year-old 問題となった法学者は、当該少女は初潮が来ているため結婚・セックスも合法であると主張している
- ^ Maulana Muhammad Ali, The Living Thoughts of the Prophet Muhammad, p. 30, 1992, Ahmadiyya Anjuman Ishaat, ISBN 0-913321-19-2