アプロディーテー
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アプロディーテー(またはアプロディタ、古典ギリシア語:Ἀφροδίτη Aphrodītē, Ἀφροδιτα Aphrodita)は、愛と美と性を司るギリシア神話の女神で、オリュンポス十二神の一柱である。美において誇り高く、パリスによる三美神の審判で、最高の美神として選ばれている。また、戦の女神としての側面も持つ。日本語では、アプロディテ、アフロディテ、アフロディーテーなどとも表記される。
元来は、オリエントや小アジアの豊穣の植物神・地母神であったと考えられる。アプロディーテーは、生殖と豊穣、すなわち春の女神でもあった。
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[編集] 概説
ヘーシオドスによる『神統記』によれば、クロノスによって切り落とされたウーラノスの男性器にまとわりついた泡(アプロス、aphros)から生まれ、キプロス島(キュプロス島)に行き着いたという。これは、Ἀφροδίτη が「泡の女神」とも解釈可能なことより生じた通俗語源説ともされる。ただし、キュプロスとアプロディーテー女神のあいだには本質的な連関があり、女神が最初にキュプロスに上陸したというのは、アプロディーテーの起源とも密接に関係する。
一方、ホメーロスによればゼウスとディオーネーの娘だと述べられている。ローマ神話におけるウェヌス(英語読みでヴィーナス)に相当する。聖鳥はハト。
[編集] 東方起源の性格
古くは東方の豊穣・多産の女神アスタルテ、イシュタルなどと起源を同じくする外来の女神で、『神統記』に記されているとおり、キプロスを聖地とし、「キュプリス」という別名を持つ。オリエント的な地母神としての性格は、繁殖と豊穣を司る神として、庭園や公園に祀られる点にその名残を留めている。また、これとは別に航海の安全を司る神として崇拝されたが、これはフェニキアとの関連を示唆すものと考えられる。
スパルタやコリントスでは、アテーナーのように、甲冑を着けた軍神として祀られていた。特にコリントスはギリシア本土の信仰中心地とされ、アプロディーテー神殿[1]には、女神の庇護下の神殿娼婦[2]が存在した。この所作もまた東洋起原のものとされる。
古くから崇拝されていた神ではないために伝えられる説話は様々である。ヘーパイストスの妻とされるが、アレースと情を交わしてエロースなどを生んだという伝承もある。アプロディーテーとエロースを結び付ける試みは、紀元前5世紀の古典期以降に盛んとなった。
[編集] 金星の女神
本来、豊穣多産の植物神としてイシュタルやアスタルテ同様に金星の女神であったが、このことはホメーロスやヘーシオドスでは明言されていない。しかし古典期以降、再び金星と結び付けられ、ギリシアでは金星を「アプロディーテーの星」と呼ぶようになった。現代のヨーロッパ諸言語で、ラテン語の「ウェヌス」に相当する語で金星を呼ぶのはこれに由来する。
グレゴリオ聖歌でも歌われる中世の聖歌『アヴェ・マリス・ステラ』の「マリス・ステラ(Maris stella)」は、「海の星」の意味であるが、この星は金星であるとする説がある。聖母マリアがオリエントの豊穣の女神、すなわちイシュタルやアスタルテの系譜にあり、ギリシアのアプロディーテーや、ローマ神話のウェヌスの後継であることを示しているとされる。
[編集] ローマ神話での対応と別名
ローマ神話では、ウェヌス(Venus)をアプロディーテーに対応させる。この名の英語形「ヴィーナス」は金星を意味すると共に、「美の女神」を意味する。
別名として、レスボス島の詩人サッポーはアプロディタ(Aphrodita)[3]と呼んでいる。またキュプリス(「キュプロスの女神」の意)という別名もある。キュプロス島には古くからギリシア人植民地があったが、キュプロスを経由して女神の信仰がオリエントより招来されたためとも考えられる。アプロディーテーとキュプロスには本質的な関係があった。
その海からの生誕伝説と関係して「キュテレイア(キュテーラの女神)」と呼ばれるほか、キュプロスの都市パポスにちなみ「パピアー(パポスの女神)」とも称される。
[編集] 物語
[編集] アドーニス
アドーニス(Adonis)は、アッシリア王テイアースの娘[4]スミュルナの生んだ子であるとされる。スミュルナは、アプロディーテーへの祭祀を怠ったため父親に対して愛情を抱く呪をかけられ、策を弄してその想いを遂げた。しかし、これが露見したため父に追われ、殺される所を神に祈って没薬の木(スミュルナ)に変じた。その幹の中で育ち、生まれ落ちたのがアドーニスといわれる[5]。
アプロディーテーはこのアドーニスの美しさに惹かれ、彼を自らの庇護下においた。だがアドーニスは狩猟の最中に野猪の牙にかかって死んだ。女神は嘆き悲しみ、自らの血(ネクタル)をアドーニスの倒れた大地に注いだ。その地から芽生えたのがアネモネといわれる。アプロディーテーはアドーニスの死後、彼を祀ることを誓ったが、このアドーニス祭は、アテーナイ、キュプロス、そして特にシリアで執り行われた。この説話は、地母神と死んで蘇る穀物霊としての少年というオリエント起原の宗教の特色を色濃く残したものである。
[編集] アイネイアース
ゼウスはたびたびアプロディーテーによって人間の女を愛したので、この女神にも人間へ愛情を抱くよう画策し、アンキーセースをその相手に選んだ。女神はアンキーセースを見るとたちまち恋に落ち、彼と臥所を共にした。こうして生まれたのがアイネイアースである。彼は、アテーナー、ヘーラー、アプロディーテーの器量比べに端を発するトロイア戦争の後、ローマに逃れ、その子イーロス(ラテン語名:ユールス)が、ユリウス家の祖とされたため、非常に崇拝された。
[編集] 脚注
- ^ 政府公認の売春宿を作ってその利益が神殿建設資金になった説がある。
- ^ ヒエロドゥーライ(hierodoulai、「神聖奴隷」「神婢」)。ただし、娼婦と男娼の場合があるため、男娼のみの場合、または両性をまとめて呼ぶ場合は、ヒエロドゥーロイ(hierodouloi)と称する。
- ^ アイオリス方言と考えられる。
- ^ オウィディウスによると、ピュグマリーンの孫キニュラースの娘。
- ^ ただし、アドーニスの出生についてはまったく別の説話も多い。例えば、アポロドーロスの述べるところでは、エーオースの子孫で、キュプロスにパポス市を建設したキニュラースの息子がアドーニスである。
[編集] 参考文献
- 呉茂一 『ギリシア神話』 新潮社
- アポロドーロス 『ギリシア神話』 岩波書店
- M. G. Howatson et al. Concise Companion to Classsical Literature Oxford Univ. Press
[編集] 関連項目
- 美 - 愛
- ウェヌス - イシュタル - アスタルテ - フレイヤ
- 死と再生の神 - 地母神
- アドーニス
- ヘルマプロディートス - ヘルメスの子
- コガネウロコムシ:多毛類(ゴカイの仲間)で、学名にこの女神の名が使われている。

