アザゼル

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アザゼル(1825年版地獄の辞典の挿絵)

アザゼル(Azazel)は、『旧約聖書レビ記にみられる言葉であり、黙示文学やラビ文学に記されるユダヤ神話における天使堕天使)ないし荒野の悪魔の名である。堕天使のアザゼルと悪魔のアザゼルを別のものとする説もあるが、ここでは同一のものとして説明する。

堕天使としてのアザゼル[編集]

アザゼルまたはアザエル(Azael, Azzael)は『第一エノク書』などの黙示文学やラビ文学において堕天使として登場する。この天使はアシエル(Asiel, Assiel)、アゼル(Azel)とも表記される[1]

アザゼルという名は「神の如き強者」という意味のヘブライ語に由来し[2]、「神が力を与える者」の意であるとも言われる。『アブラハムの黙示録』では7つの蛇頭、14の顔に6対の翼を持つとされる[1]

前身は砂漠の神で、カナン人(古代パレスチナの住民)の神アシズ(Asiz)がルーツであると言われる。この神は太陽を激しく燃やすことを使命としたとされる[2]

アザゼルが堕天使となった経緯についてはいくつか説があるが、その1つに、の創り出した人間アダムに仕えるように命じられるも、「天使が人間などに屈すべきにあらず」と頭を下げなかったという伝説がある。このアザゼルの行いは神を否定するに等しい行為で、結果、天界を追放されたとされる[3]

エノク書』に記される伝説では、堕天使としてのアザゼルはもともとは神に命ぜられて地上の人間を監視する「見張りの者たち」(エグレーゴロイ)のひとりであった。アザゼルら見張りの天使の首長たちは、人間を監視する役割であるはずが、人間の娘の美しさに魅惑され、妻に娶るという禁を犯す[4] 。かれらとともに200人ほどの見張りの天使たちが地上に降り、人間の女性と夫婦となった。『第二エノク書』では、この堕天使の一団はスラブ語グリゴリ(Grigori=見張り)と呼ばれ、ウォッチャーズ (Watchers) と英訳される。こうした物語は、“「神の子ら」(ベネ・ハ=エロヒム)が人間の娘と交わった”とする創世記の記述を、後世の黙示文学の作者たちが発展させたものと考えられている[5]

この伝説においては結局のところ、アザゼルらグリゴリの行動は人間の文化向上に貢献した[2]が、神の機嫌を損ね、神は地上に大洪水を引き起こし、大虐殺を行った。

『第一エノク書』におけるアザゼル[編集]

旧約偽典のひとつであるエチオピア語の『第一エノク書』によれば、

  • (6章):アザゼルは人間の女性と交わる誓いを立ててヘルモン山に集まった200人の天使の一人で彼らのリーダーの一人であった。
  • (7章):彼らは女性と関係を持ち、女たちに医療、呪いなどを教え、女性たちは巨人を産んだ。
  • (8章):アザゼルは人間たちに剣や盾など武具の作り方、金属の加工や眉毛の手入れ、染料についての知識を授けた。
  • (9章):神の目から見ればアザゼルのしたことは「地上で不法を教え、天上におこなわれる永遠の秘密を明かした」ことであった。
  • (10章):神はラファエルにアザゼルを縛って荒野の穴に放り込んで石を置くよう命じた。
  • (13章):エノクは縛られて審判を待つアザゼルを見て声をかける。
  • (54章・55章):天使の言葉の中でアザゼルが堕天使のリーダーとして言及される。69章では堕天使たちのリストの10番目にその名があげられている。

レビ記におけるアザゼル[編集]

旧約聖書レビ記」16章には贖罪日(ヨム・キプル)の儀式の方法が示されるが、その中にアザゼルの名前が出る。この箇所で神はモーセに祭司アロンが至聖所に入る儀式について伝える。

それは、7番目の月の10日を贖罪の日として祝う時、イスラエルの人々から贖罪のささげものとして2匹の雄山羊を受け取り、これを引いてきてくじを引き、1匹を主のものにし、もう1匹をアザゼルのものにするというものである。ここでアザゼルのものとされた山羊を屠らずに生かしおき、これにて贖いの儀式を行う。こうして民の罪を負わせた山羊を荒れ野のアザゼルのもとへ放逐するというものである。

この「アザゼルの山羊」はティンダル訳聖書(16世紀)において scapegoat と英訳された。スケープゴート(贖罪の山羊)という言葉が一般に「身代わりに罪をかぶる者」の意味で用いられるのはこの故事に由来する。[要出典]

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  1. ^ a b グスタフ・デイヴィッドスン著 『天使辞典』 吉永進一監訳、創元社、2004年、ISBN 4-422-20229-4
  2. ^ a b c 『堕天使―悪魔たちのプロフィール (Truth In Fantasy)』 真野 隆也 シブヤ ユウジ/画、新紀元社、1995年7月。ISBN 978-4-88317-256-6
  3. ^ 『別冊宝島1631 天使・悪魔・妖精 イラスト大事典』 宝島社、2009年6月。ISBN 978-4-7966-7119-4
  4. ^ この時、同じ監視者の指揮官シェムハザの反対意見を聞かずにアザゼルが禁を犯したと解説する真野隆也 『天使 (Truth In Fantasy)』 新紀元社、1995年2月。ISBN 4-88317-250-3『知っておきたい天使・聖獣と悪魔・魔獣』 荒木正純監修、西東社、2007年7月。ISBN 978-4-7916-1489-9があるが、『エチオピア語エノク書』の原典邦訳である『聖書外典偽典4』(教文社)の該当部分(第6章175頁)では、シェムハザが禁を犯すことに積極的である描写はあるが、シェムハザが反対したことを示す記述は見当たらない。『スラブ語エノク書』の邦訳の『聖書外典偽典3』にもそのことを示す記述はない。
  5. ^ J・B・ラッセル 『悪魔の系譜』 大瀧啓裕訳、青土社、2002年、57-59頁。

関連項目[編集]