アイム・オンリー・スリーピング

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アイム・オンリー・スリーピング
ビートルズ楽曲
英語名I'm Only Sleeping
リリース
録音
ジャンルサイケデリア[1]
時間3分2秒
レーベル
作詞者レノン=マッカートニー
作曲者レノン=マッカートニー
プロデュースジョージ・マーティン
リボルバー 収録曲
エリナー・リグビー
(A-2)
アイム・オンリー・スリーピング
(A-3)
ラヴ・ユー・トゥ
(A-4)
ミュージックビデオ
「I'm Only Sleeping」 - YouTube

アイム・オンリー・スリーピング」(I'm Only Sleeping)は、ビートルズの楽曲である。アメリカやカナダでは1966年6月に発売されたキャピトル編集盤『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』、イギリスでは2か月後に発売された7作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『リボルバー』に収録された。レノン=マッカートニー名義となっているが、実質的にはジョン・レノンによって書かれた楽曲[2]で、ジョージ・ハリスンが演奏したフレーズを逆回転させたギターのパートが特徴となっている[3][4]

1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー2』には、ヴィブラフォンを使用したリハーサル音源とテイク1が収録された。2018年に『タイムアウト・ロンドン』が発表した「The 50 Best Beatles songs」では第12位にランクインした[5]

背景・レコーディング[編集]

1966年にレノンによって書かれた「アイム・オンリー・スリーピング」の草案では、当時の作品に見られる薬物の陶酔感ではなく、ベッドにいることで得られる喜びについて書かれていた[6]。レノンは、ツアー期間中でない日は、睡眠や読書、テレビの視聴などに時間を費やしていて、薬物を服用していたこともあったことから、作曲作業を行なう際にはポール・マッカートニーが眠っているレノンを起こしていた[7]。1966年3月4日に発行されたロンドン・イブニング・スタンダード英語版紙の記事で、レノンの友人であるモーリーン・クリーブ英語版は「彼はいつまでも眠ることができ、おそらくイギリスで一番の怠け者」と書いている[8]

「アイム・オンリー・スリーピング」のレコーディングは、1966年4月27日にEMIレコーディング・スタジオで行なわれ、リズムトラックはアコースティック・ギター2本とベースドラムの編成[9][10]で11回録音された[11]。この日の最終テイクとなるテイク11がマスターとして選ばれ、2日後にレノンのリード・ボーカルが追加された[12]。その後5月5日にハリスンによるギターソロ、翌日にレノン、マッカートニー、ハリスンのバッキング・ボーカルが録音されて完成した[13]

本作は、プロデューサーのジョージ・マーティンとの5時間のセッションでハリスンが演奏したフレーズを逆回転させたギターのパートが特徴となっている[14]。ハリスンは、テープを逆再生することで、曲におぼろげな雰囲気をもたらしている[15]。2本入っているギターのフレーズのうち、一方にはファズを効かせている。レコーディング・エンジニアを務めたジェフ・エメリックは、2006年に「ジョージが何時間もギターを演奏していたことを思い出す。ヘッドフォンをして、眉をひそめていた」と振り返っている[6]

2番目のブリッジ部分に入る前のブレイク部分では、あくびをする音が入っている[10]

リリース[編集]

「アイム・オンリー・スリーピング」は、1966年6月20日にアメリカやカナダで発売されたキャピトル編集盤『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』のA面2曲目に収録された[16]のち、8月5日にイギリス発売されたオリジナル・アルバム『リボルバー』のA面3曲目に収録された[17]。このような関係から、『リボルバー』のアメリカ盤には収録されていない。

「アイム・オンリー・スリーピング」のモノラル・ミックスとステレオ・ミックスでは、逆回転させたギターソロが入る箇所と長さが以下のように異なっている。

ミックス 備考
モノラル・ミックス(アメリカ) 1966年5月12日に作成[13]。2番目のヴァースには逆回転させたギターのフレーズが入っていないが、「Taking my time」の「time」と「Lying there and staring at the ceiling」の「ceiling」の箇所にフレーズの断片が聴こえる。インストゥルメンタルのブレイク部分からそのまま「Please don't spoil my day」というフレーズに続き、曲のエンディング部分で「I'm only sleeping」の後に4拍空けて逆回転させたギターのフレーズが入る[2]
疑似ステレオ・ミックス(アメリカ) アメリカで発売されたモノラル・ミックスをステレオ化したものだが、リバーブが多めにかけられている。『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』の第1版にのみ収録された[2]
ステレオ・ミックス(アメリカ) 1966年5月20日に作成[18]。「Running everywhere at such a speed」と「Till they find there's no need」の箇所に逆回転させたギターのフレーズが入っている。このフレーズは2小節でギターソロとフェード・インし、「Please don't spoil my day」というフレーズに続く。曲のエンディング部分で「I'm only sleeping」と歌われた直後に逆回転させたギターのフレーズが入る[2]
モノラル・ミックス(イギリス) 1966年6月6日に作成[19]。「where at such a speed」、「there's no need」、「staring at the ceiling」の箇所に逆回転させたギターのフレーズが入る。このフレーズはギターソロの終わりと逆のエンディング部分で途切れ、「I'm only sleeping」と歌われた直後に入る[2]。5種類あるミックスの中で、逆回転させたギターのフレーズが最も多く入るミックスとなっている[20]
ステレオ・ミックス(イギリス) everywhere at such a speed」と「find there's no need」の箇所に逆回転させたギターのフレーズが入る。このフレーズはギターソロの終わりと逆のエンディング部分で途切れ、「I'm only sleeping」と歌われた直後に入る[2]

本作を含む『リボルバー』の収録曲でビートルズが使用した録音技術は、他の多くのアーティストに大きな影響を与えたとされており[21]、音楽学者のウォルター・エヴェレット英語版クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングが1969年に発表した楽曲「プリ・ロード・ダウン」に含まれている逆回転させたギターのパートを、本作から影響されたものと見ている[22]

1987年の初CD化以降、ステレオ・ミックスとモノラル・ミックスはイギリスで発売されたミックスに統一された[20]。1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー2』には、ヴィブラフォンを使用したインストゥルメンタルのリハーサル・テイクの一部と1966年4月29日のセッションでレコーディングされたテイク1が収録された[9]

クレジット[編集]

※出典[15]

カバー・バージョン[編集]

「アイム・オンリー・スリーピング」をカバーしたアーティストには、ロザンヌ・キャッシュ英語版アメリカ[2]ヴィンス・ウェルニック英語版クォーオン英語版ジェフ・トゥイーディー英語版サッグス英語版ヤンダー・マウンテン・ストリング・バンド英語版オアシス+ステレオフォニックスらがいる[23]

アークティック・モンキーズは、バンド初のライブで本作を演奏した[24][25]トム・ビショップ英語版は、2013年に発売したアルバム『A Little Physics and a Lot of Luck』に本作のカバー・バージョンを収録した。

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ Swanson, Dave (2013年3月30日). “Top 10 Beatles Psychedelic Songs”. Ultimate Classic Rock. Future. 2020年11月14日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g Fontenot, Robert. “The Beatles Songs: 'I'm Only Sleeping' – The history of this classic Beatles song”. oldies.about.com. 2019年4月12日閲覧。
  3. ^ Gilmore, Mikal (2016年8月25日). “Beatles' Acid Test: How LSD Opened the Door to 'Revolver'”. Rolling Stone. 2020年11月14日閲覧。
  4. ^ McCormick, Neil (2009年9月7日). “The Beatles – Revolver, review”. The Daily Telegraph (London). https://www.telegraph.co.uk/culture/music/the-beatles/6150301/The-Beatles-Revolver-review.html 2017年2月16日閲覧。 
  5. ^ Time Out London Music (2018年5月24日). “The 50 Best Beatles songs”. Time Out London. 2020年11月14日閲覧。
  6. ^ a b 100 Greatest Beatles Songs: 57 – 'I'm Only Sleeping'”. rollingstone.com. 2017年4月2日閲覧。
  7. ^ Turner 2016, pp. 250–251.
  8. ^ Turner 2016, pp. 135–136, 250.
  9. ^ a b Winn 2009, p. 15.
  10. ^ a b c Rodriguez 2012, p. 130.
  11. ^ Miles 2001, p. 230.
  12. ^ Lewisohn 2005, p. 77.
  13. ^ a b Lewisohn 2005, p. 78.
  14. ^ Rodriguez 2012, p. 131.
  15. ^ a b MacDonald 2005, p. 85.
  16. ^ Lewisohn 2005, pp. 78, 201.
  17. ^ Rodriguez 2012, pp. 24–25.
  18. ^ Lewisohn 2005, p. 80.
  19. ^ Lewisohn 2005, p. 82.
  20. ^ a b Rodriguez 2012, p. 132.
  21. ^ Hoffmann 2016, p. 269.
  22. ^ a b Everett 1999, p. 50.
  23. ^ DaveO (2009年8月18日). “Cover Wars: I'm Only Sleeping edition”. Glide Magazine. 2020年11月14日閲覧。
  24. ^ BBC Radio 2 Arctic Monkeys interview”. BBC.co.uk. BBC. 2020年11月14日閲覧。
  25. ^ They came, they thawed, they conquered”. Guardian (2006年1月1日). 2020年11月14日閲覧。

参考文献[編集]

  • Everett, Walter (1999). The Beatles as Musicians: Revolver Through the Anthology. New York, NY: Oxford University Press. ISBN 0-19-512941-5 
  • Lewisohn, Mark (2005) [1988]. The Complete Beatles Recording Sessions: The Official Story of the Abbey Road Years 1962-1970. London: Bounty Books. ISBN 978-0-7537-2545-0 
  • MacDonald, Ian (2005). Revolution in the Head: The Beatles' Records and the Sixties (2nd rev. ed.). Chicago, IL: Chicago Review Press. ISBN 978-1-55652-733-3 
  • Miles, Barry (2001). The Beatles Diary Volume 1: The Beatles Years. London: Omnibus Press. ISBN 0-7119-8308-9 
  • Rodriguez, Robert (2012). Revolver: How the Beatles Reimagined Rock 'n' Roll. Milwaukee, WI: Backbeat Books. ISBN 978-1-61713-009-0 
  • Winn, John C. (2009). That Magic Feeling: The Beatles' Recorded Legacy, Volume Two, 1966-1970. New York, NY: Three Rivers Press. ISBN 978-0-307-45239-9 

外部リンク[編集]