ふたたびの加奈子

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ふたたびの加奈子
著者 新津きよみ
イラスト やまもとちかひと(装画)
野津明子(装幀)
発行日 2000年8月15日
発行元 ハルキ・ホラー文庫
ジャンル サスペンスホラーファンタジー
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 文庫本
ページ数 272
コード ISBN 978-4-89-456741-2
ウィキポータル 文学
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ふたたびの加奈子』(ふたたびのかなこ)は、新津きよみによる日本小説2013年、今作を原作とした映画『桜、ふたたびの加奈子』が公開されている。

概要[編集]

「生まれ変わり」という超常的な要素が盛り込まれているが、新津自身は特に霊感がなどもなく、生まれ変わりについての文献を多く読んだという。そして育児というプレッシャーと嬉しさが同居しているような複雑な心理描写は自身の経験を元に、子どもが小学校に上がって子育てが一区切りついた時に数年前を振り返って書き上げたという。[1]

あらすじ[編集]

一人娘の加奈子を突然の交通事故で亡くしてから、容子の様子はおかしくなった。加奈子の魂が“マル子”としてまだ近くにいると言い張り、一緒にデパートに出かけ、一緒に食事をする。しかしながら当然その姿は容子にしか見えず、夫である信樹は困り果てる。しかしある日、その“マル子”がマタニティクリニックに飛んでいき、妊婦である野口正美の中に入り込んだのを目撃した容子は、“マル子”は転生したのだ、生まれてくる野口正美の子供こそが加奈子の生まれ変わりなのだと信じこんでしまう。

登場人物[編集]

桐原 容子(きりはら ようこ)
30代半ば。旧姓:富永。結婚前は保育士をしていた。卵管が詰まりぎみでなかなか妊娠しなかったが、不妊治療の末に妊娠。しかし妊娠6ヵ月の時に子宮筋腫が発見される。加奈子を産んだ後、信樹と医者の説得もあり、手術を受けたため次の妊娠は望めない。加奈子の死について、肉体は戻らないが魂は”マル子”として傍に居続けていると信じ、彼女はその気配を感じることができるため、出かける時も常に隣を気にして話しかけ、夫と2人だけのはずの食事の場でも必ず”マル子”の分まで用意する。”マル子”の存在は四十九日が過ぎる頃から感じるようになったという。恋愛小説児童書心理学の本を好んで読む。夫の健康管理にうるさい。父親は入浴中に心筋梗塞で亡くなり、母親もすでに亡くなっている。弟が一人いるが、遠い親戚の家に婿養子に入っている。
夫である信樹の浮気を機に離婚し、高円寺に移り住み、ベビーシッターを始める。
桐原 信樹(きりはら のぶき)
容子の夫。国立大学の農学部を出て、今は大手食品会社のアグリバイオ事業部に所属する仕事一筋の理系人間。加奈子が生まれた翌年に新築一戸建をローンで購入した。
桐原 加奈子(きりはら かなこ)
信樹と容子の一人娘だったが、家から数十メートル離れた友達の家からの帰り道、線で引かれただけの歩道を一人で歩いていた時に白い乗用車に撥ねられて亡くなった。乗用車はそのまま逃げたので犯人は捕まっていない。享年5。身長1m7cmだった。
マル子
※すべて容子の証言による
わずかな隙間さえあればどこでもすり抜けられる。エレベーターが好きですぐ手すりにまたがりたがる。空気の塊のような感じで、気がつくと天井に張り付いていたり、後ろに回り込んでいたり、ふわりと出てしまっていたりする。もともとは臆病。ちゃんと歩いたり走ったり飛んだり跳ねたりする。食事もするが、実際に食物は減らない。名前の由来は、その存在を”なんとなく丸みを帯びて感じるから”。触ろうとしてもそこだけ不思議な力が働いて触れられない。いろいろ形を変えるが、普段は容子の腰よりちょっと上くらいの高さに漂っている。
ゴロー
桐原家が家を購入してすぐにペットショップで買ってきた柴犬。加奈子にとてもよく懐いていた。容子曰く、マル子に向かって吠え続けて敵対視するため、信樹の出張中に容子が勝手に業者に引き取らせてしまった。
野口 正美(のぐち まさみ)
地元の県立高校を出て、東京の大学に進学し、社会人になってから知り合った高校の2年先輩の夫と結婚して6年目の主婦。結婚するまでは一流商社に準総合職として勤めていた。姉がいる。「宮脇マタニティ・クリニック」で菜月を産む。
野口 貴弘(のぐち たかひろ)
正美の夫。次男。実行不可能なことは口にしない性格。優しいが鈍感。
野口 菜月(のぐち なつき)
正美と貴弘の娘。5ヵ月。アトピー体質で紫外線に弱い。よく泣く。加奈子の魂が転生した(と容子は考えている)。
進藤 ゆかり(しんどう ゆかり)
正美が辞めた会社で鉄鋼部にいた同期の同僚。
西村 陶子(にしむら とうこ)
信樹の浮気相手。信樹の会社の新製品のコマーシャル制作に携わっているテクスタイル・デザイナーでリボンの新進デザイナーとして有名。信樹より10歳年下。大学でテクスタイル・デザインを学び、ヨーロッパやアジアを回って織物の歴史や技術を学んだ。中学1年生の時に母を亡くしている。父親は大きな家具会社の社長。病弱な妹(祥子・3年前に結婚して鎌倉に住んでいる)がいる。離婚後の信樹と一緒に住んでいるが婚姻関係は無い。
土田(つちだ)
野口家の右隣に住んでいる初老の女性。
丸尾 砂織(まるお さおり)
野口正美が妊娠していた頃に隣に住んでいた女性。正美と同じく当時、妊娠中だった。パリで出産し、現在は三鷹市のアパートに息子と2人で住んでいる。以前は「まるお里織」という筆名で海外ミステリーやロマンス小説の翻訳を手掛ける翻訳家として活躍していた。訳書は30冊を超える。
丸尾 賢一(まるお けんいち)
沙織の息子。2歳くらいの男の子。
白鳥 玲児(しらとり れいじ)
日本の美大を出てフランス政府が主催する公募展に入賞し、パリに拠点を移して活動している画家。賢一の父親。砂織とは、砂織が教授秘書をしていたころに知り合った。
滝沢 京介(たきざわ きょうすけ)
砂織を担当していた出版社の翻訳者部門の編集者。砂織よりも7つ年下。

書籍情報[編集]

映画[編集]

桜、ふたたびの加奈子
監督 栗村実
脚本 栗村実
原作 新津きよみ『ふたたびの加奈子』
製作 山崎康史
和田倉和利
中山賢一
出演者 広末涼子
稲垣吾郎
福田麻由子
江波杏子
音楽 佐村河内守[注釈 1]
撮影 ニホンマツアキヒコ
編集 栗村実
配給 ショウゲート
公開 日本の旗 2013年4月6日
上映時間 105分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
興行収入 1億円弱[3]
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桜、ふたたびの加奈子』として映画化。「女性のためのロードショー」[4]や「女性に贈る映画」[5]と銘打たれ、2013年4月6日新宿ピカデリー他、全国109スクリーンで公開された[6]。より女性にアピールされているのは、世代や立場の違う4人の女性(容子・正美・砂織・松代)がもつ人生観が描かれ、母性・クラシック音楽・桜といった女性らしいエッセンスが作品に多数散りばめられているためである[5]

作品のテーマはいのちの循環(輪廻転生[4][7]。桜の花や人間など、全てが循環で動いていることを表現するため、”環”や”円”をモチーフにして撮影された[5][8]。ただし加奈子の魂が転生する先である正美が主婦ではなくシングルマザーを決意した女子高生であったり、その正美を見つめる高校生や登場人物全ての接点になる古本屋の店主[9]ら小説には存在しないオリジナルの人物が登場するなど、設定は原作と多少異なる。

監督は栗村実。原作との出会いは2002年、栗村がロサンゼルスに住んでいた頃で[10]、いのちの循環という深淵かつ普遍的なテーマに惚れ込み、すぐに原作者である新津きよみの元に熱烈な映画化オファーをした[7]。新津も、”子を亡くした喪失を乗り越える希望を持てる結末””悲しみを乗り越えて夫婦が再生していく物語”という核の部分で監督と一致した想いがあったため、特別な注文はつけず栗村にすべてを任せたという[7]。2004年には脚本が書きあがり、小説ではメインだった娘のひき逃げ事件にまつわるミステリーの部分をバッサリ切り捨てるなど物語の骨組みそのものが変わっていたが、「プロットがシンプルになっているのに映画を観終わった後と小説を読んだ後の感動の質が同じだった[8]」「感動して大泣きした」と新津は絶賛している[7]

主演の広末涼子稲垣吾郎は、同じく新津きよみ原作の2009年のテレビドラマ『トライアングル』以来の共演となる[11]。2人はこの作品の中で夫婦役を演じたが、「地に足がついた普通の男を演じるのは新鮮」という稲垣吾郎が演じる夫の姿には、広末涼子や『笑っていいとも!』に登場する"オネメン"[注釈 2]達も絶賛している[12][13]

撮影は2012年の春[11]、ほとんどが栃木県足利市で行われた[4]。この地はプロデューサーである中山賢一の地元でもあり、大河ドラマ太平記』(1991年)をきっかけに全国でも類を見ない程に撮影協力体制が整った場所[4]。今作でも市長をはじめ、足利市役所の職員や市民スタッフ、エキストラが全面協力したが[4]、撮影スケジュールは桜の開花具合に合わせたため変更が相次いだ[11]。ちなみに桐原家はセットではなく民家を使って撮影されている[11]。ロケ地は他に、茨城県鉾田市滝浜海岸など[14][15]。新津も撮影現場に足を運び、信樹(稲垣)が死亡届を実際にある役所に提出するシーンの撮影に立ち会ったが、そこで”死亡届の最後の文字がかすれる”というように男女の悲しみの温度差が理想的な形で表されていたことに脱帽したと話している[8]

世界各国の映画祭への出品も視野に入れて制作され[9]、2013年11月9日から29日まで台湾で開催された金馬映画祭で上映された[16][17]

ゴーストライター問題の影響[編集]

2014年2月、本作の音楽を担当した佐村河内守の「ゴーストライター問題」が明らかになった。これを受けて「桜、ふたたびの加奈子」製作委員会とポニーキャニオンは本作のDVDとBlu-ray Discを2014年2月10日より出荷停止にする措置をとった[18]。また、2014年2月22日から本作を放送予定だったWOWOWは、本作の放送を取りやめ、他の番組に差し替えた[19]。曲の権利確認がなされて、現在は再発売とテレビ放映とが行われている。

キャスト[編集]

スタッフ[編集]

Blu-ray / DVD[編集]

2013年11月20日発売[23]。発売・販売元はポニーキャニオン(2枚組DVD:PCBP-52865、Blu-ray+DVD:PCXP-50185)。

  • ディスク1:本編
  • ディスク2:特典映像DVD

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ a b ゴーストライターによる作曲の疑惑があり、製作委員会が事実確認を行っている[2]
  2. ^ 宅配サービスで働くイケメンを募集した「笑っていいとも!」の1コーナー「デリメンコンテスト」から生まれた造語。見た目がイケメンなのにオネエ言葉を話す人達のこと。

出典[編集]

  1. ^ Myson (2013年9月26日). “『桜、ふたたびの加奈子』原作者、新津きよみさんインタビュー”. トーキョー女子映画部. 2013年12月26日閲覧。
  2. ^ 西村重人 (2014年2月5日). “別人作曲問題、音楽担当映画は「事実関係を確認」”. シネマトゥデイ. 2014年2月9日閲覧。
  3. ^ 「2013年 日本映画・外国映画業界総決算」『キネマ旬報(2月下旬決算特別号)』第1656号、キネマ旬報社、2014年、200頁。 
  4. ^ a b c d e 映画『桜、ふたたびの加奈子』公式サイト”. 2013年4月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年3月31日閲覧。
  5. ^ a b c 映画 桜、ふたたびの加奈子 公開直前スペシャル〜女性に贈る映画の秘密〜” (2013年3月2日). 2013年3月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  6. ^ “実は広末涼子ファンだった!? 稲垣吾郎が“笑撃”の告白”. 映画.com. (2013年4月6日). https://eiga.com/news/20130406/9/ 2013年4月8日閲覧。 
  7. ^ a b c d 黒豆直樹 (2013年). “原作者・新津きよみ氏絶賛『桜、ふたたびの加奈子』”. ぴあ映画生活. 2013年12月26日閲覧。
  8. ^ a b c 【インタビュー】広末&稲垣とは「縁がある」?原作者が語る『桜、ふたたびの加奈子』”. cinemakafe.net (2013年11月6日). 2013年12月26日閲覧。
  9. ^ a b “広末涼子×稲垣吾郎 新作「桜、ふたたびの加奈子」で娘を亡くした夫婦役”. 映画.com. (2012年10月10日). https://eiga.com/news/20121010/4/ 
  10. ^ 新津きよみ (2013年2月2日). “『桜、ふたたびの加奈子』マスコミ向け試写会”. 2013年3月31日閲覧。[リンク切れ]
  11. ^ a b c d 『桜、ふたたびの加奈子』広末涼子&稲垣吾郎 単独インタビュー”. シネマトゥデイ. 2013年4月5日閲覧。
  12. ^ 広末涼子「きっとほれ直す」夫を演じる稲垣吾郎にウットリ”. 映画.com (2013年3月24日). 2013年5月12日閲覧。
  13. ^ “桜、ふたたびの加奈子 :「いいとも」で話題の“オネメン”たちが大絶賛”. MANTANWEB. (2013年5月2日). https://mantan-web.jp/article/20130502dog00m200041000c.html 2013年5月12日閲覧。 
  14. ^ 小島優 (2013年4月28日). “【ロケ地巡りの旅】映画「桜、ふたたびの加奈子」 白波寄せるサーフィンの穴場 茨城・鉾田市の滝浜海岸”. msn産経ニュース. オリジナルの2013年4月28日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130428102942/http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/130428/ent13042818010012-n1.htm 2013年12月26日閲覧。 
  15. ^ 映画『桜、ふたたびの加奈子』 が公開されます”. いばらきフィルムコミッション (2013年3月31日). 2013年4月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月12日閲覧。
  16. ^ 台湾最大のシネフェス「金馬影展」、堺雅人「その夜の侍」など日本映画が多数上映―台湾”. Record China (2013年9月30日). 2013年12月26日閲覧。
  17. ^ 栗村実公式Twitter2013年11月11日の発言
  18. ^ “DVDが出荷停止…佐村河内氏作曲映画、原作者が悲痛の訴え「解決法を探って欲しい」”. シネマトゥデイ. (2014年2月5日). https://www.cinematoday.jp/news/N0061247 2014年3月12日閲覧。 
  19. ^ 【番組変更のお知らせ】映画「桜、ふたたびの加奈子」(2/7)”. WOWOW (2014年2月7日). 2014年3月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月12日閲覧。
  20. ^ 広末涼子が“子供を失った母親”役を通して“乗り越えた”こととは?”. webザテレビジョン (2013年11月27日). 2013年12月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年12月26日閲覧。
  21. ^ 稲垣吾郎「生まれ変わっても自分がいい」『桜、ふたたびの加奈子』初日舞台あいさつ”. TVfanWeb (2013年4月6日). 2013年12月26日閲覧。
  22. ^ ““現代のベートーヴェン”佐村河内 守の音楽にインスパイアされた映画『桜、ふたたびの加奈子』完成”. BARKS. (2013年2月8日). https://www.barks.jp/news/?id=1000087270 2013年2月9日閲覧。 
  23. ^ “広末&稲垣「桜、ふたたびの―」DVD&ブルーレイ20日発売”. SANSPO.COM. (2013年11月19日). オリジナルの2013年12月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131226225842/http://www.sanspo.com/geino/news/20131119/oth13111905020006-n1.html 2013年12月26日閲覧。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]