麻疹
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麻疹(ましん、英measles, rubeola、元の用字は痲疹だが、漢字制限によって麻疹と書かれるようになった)とは、ウイルス感染症の一種。「麻疹」と書いてはしかとも読み、一般にはこちらの方が知られている。近年は「疹」の字が常用漢字でないため「麻しん」とも書かれる。伝染力が非常に強いうえに日本では制圧が遅れているため、日本人は一生に一度はかかるともいわれている。世界保健機関の分類により現在AからHの8群、22遺伝子型に分類されている。流行株の変異によって、ワクチンで獲得した抗体での抑制効果が低くなることが懸念されている。
目次 |
[編集] 原因
麻疹ウイルスによる。感染経路は空気感染・飛沫感染・接触感染と多彩。
[編集] 臨床像
麻疹には、症状の出現する順序や症状の続く期間に個人差が少ないという特徴がある。ただし、免疫のある患者では、非典型的で軽症な経過をとることがある(修飾麻疹)。ワクチン接種歴により軽く済むといわれるが、後年再び感染することもある。
[編集] 潜伏期間
- 麻疹ウイルスへの曝露から、発症まで8~12日間かかる。
[編集] カタル期
- カタル期は3~4日間続き、他者への感染力はカタル期に最も強い。38℃前後の風邪症候群様(発熱、倦怠感、上気道炎症状)の症状や結膜炎症状が2~4日続き、いったん解熱する。カタル期の後半、発疹出現の1~2日前に、口腔粘膜の奥歯付近に、直径1mm程度の少し膨らんだの白色小斑点(コプリック斑)を生じる。
[編集] 発疹期
- カタル期の後にいったん解熱するが、半日ほどで再び39~40℃の高熱が出現し(二峰性発熱)、発疹が出現する。発疹は体幹や顔面から目立ち始め、後に四肢の末梢にまで及ぶ。
- 発疹は鮮紅色で、やや隆起している。特に体幹では癒合して体全体を覆うようになるが、一部には健常皮膚を残す。
- 発熱・発疹のほか、咳・鼻汁もいっそう強くなり、下痢を伴うことも多い。口腔粘膜が荒れて痛みを伴う。これらの症状と高熱に伴う全身倦怠感のため、経口摂取は不良となり、特に乳幼児では脱水になりやすい。
- 発疹期は発疹出現後72時間程度持続する。これ以上長い発熱が続く場合には、細菌による二次感染の疑いがある。
[編集] 回復期
- 解熱後も咳は強く残るが徐々に改善してくる。発疹は退色後、色素沈着を残すものの、5~6日程で皮がむけるように取れるとも報告されている。回復期2日目ごろまでは感染力が残っているため、学校保健法により解熱後3日を経過するまでは出席停止の措置がとられる。
[編集] 合併症
麻疹に感染・発症すると一時的な免疫力低下が起こる(ウイルスがリンパ球などで繁殖するため)ので、感染症にかかりやすくなる。発熱時に不適切に解熱剤などを投与した場合、細菌による二次感染の危険性が高まる。また、合併症は以下のように区分される。
[編集] 脳・神経系の合併症
- 亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis、略称:SSPE)
- この病気は麻疹に感染後数年してから発症し、ゆっくりと進行する予後不良の脳炎である。麻疹に罹患した人の数万人に一人が発症するといわれている。まれに予防接種でも発症することがある。
- ウイルス性脳炎
- 1000人に1人くらいの割合で発症。熱発の程度と脳炎の発症率に相関はない。発症すると1/6が死亡、1/3に神経系の障害が残るとされる。
[編集] 咽頭~気道系の合併症
[編集] その他
- ワクチン未接種の女性が妊娠中に麻疹にかかると子宮収縮による流産を起こすことがある。妊娠初期での感染では31%が流産し、妊娠中期以降でも9%が流産または死産、24%は早産との報告がある。
[編集] 治療
特異的治療法はなく、解熱剤、鎮咳去痰薬、輸液や酸素投与などの支持療法を行う。
ビタミンAの投与が症状の悪化を防ぎうるとの報告があったが、発展途上国のような低栄養(ビタミンA欠乏)状態の患児のみに有効であるとの指摘もある。
細菌性二次感染は少なからず見られるものの、抗菌薬の予防投薬は二次感染を予防するという根拠がなく、必ずしも推奨されない。
免疫賦活薬イノシンプラノベクスは抗ウイルス作用を示す。麻疹患者に接触後72時間以内の免疫グロブリン製剤の投与が、麻疹発症を予防するか、あるいは症状を軽減させることが認められている。しかしながら血液製剤であるため、適応は原則として、ワクチン未接種の乳幼児や免疫不全患者など、ハイリスク患者に限られる。
[編集] 民間信仰
- 富山県高岡市では、「はしか」が流行すると、九紋龍の手形の紙をもらい「九紋龍宅」と書いて門口に貼って病除けにした、と言い伝えられている。
- 神奈川県横浜市や大和市、藤沢市に点在する鯖神社(左馬神社、佐婆神社とも言う)を一日で巡る「七さば巡り」をおこなうと、はしかや百日咳の病除けになるという。
- 愛知県や三重県では、アワビの貝殻を入口などにつるして、はしか除けをしたという。
[編集] 予防
幼児期の予防接種が麻疹排除の上で欠かせないとされている。 日本での予防接種は1966年に任意接種として開始され、1978年より定期接種に指定された。 しかし、日本の2000年以前の予防接種率が低かったうえに(世界的に主流とされる2回ではなく)1回のみの接種であったため、麻疹の発生を今日まで制圧できておらず、日本は「麻疹輸出国」として国際的に非難されている。
罹患したことのある人、ワクチン接種を行った人は終生免疫を獲得するとされていたが、ワクチン接種を行っていても十分な抗体価を得られない場合や、野生株の麻疹ウイルスの曝露がないまま長時間を経過することによって抗体価が低下した場合、麻疹を発症することがある。このような場合は典型的な麻疹の経過をとらず、種々の症状が軽度であったり、経過が短かったりすることが多い(修飾麻疹)。
ワクチン接種後の抗体価の低下を防ぐため、全世界113ヶ国(2004年現在)では年長幼児~学童期に2回目のワクチン接種を行い、抗体価の再上昇(ブースター効果)を図っている。日本においても、2006年4月以降に1回目のワクチン接種を受ける児からは、就学前の1年間に2回目の接種を実施できるように予防接種法が改正された(麻疹・風疹混合ワクチンの項を参照)。さらに10代以降の患者が急増していることを受け、2008年4月から5年間に限定し、中学1年生と高校3年にも予防接種することが決まった[1]。
アメリカでは1970年代後期より麻疹ワクチンの徹底した導入により2000年に麻しんが排除され、2002年以降の患者数は100人未満となりその多くは輸入症例となり、メディカルスクールの学生の実地教育にも事欠くほどに患者が減少したといわれている。
[編集] 2012年の麻疹排除計画
WHO/UNICEFにおいて、日本を含む西太平洋地域での麻しん排除の目標時期を2012年に設定された事を受け、国内の麻しんを2012年迄に排除する事となった。
麻疹排除とは
- 輸入例を除き麻疹確定例が1年間に人口100万人当り1例未満であること。
- 2回の麻しん含有ワクチン接種率がそれぞれ95%以上であること。
- 全数報告などの優れたサーベイランスが実施されていること。
- 輸入例に続く集団発生が小規模である事。等
であり[2] 、これを達成する為に国内体制を整備した。
基本方針
- 厚生労働省の予防接種に関する検討会が麻しん排除計画案を策定し、厚生労働省に提出。[3]
- 麻しんに関する特定感染症予防指針を告示[4]
- 2008年1月1日から麻疹と風疹は、それぞれ全数把握疾患に変更。
- 2008年4月1日から5年間の期限付きで、麻疹と風疹の定期予防接種対象を拡大。
関係者会議
- 国として麻しん対策会議/麻しん対策ブロック会議を定期的に開催する。
- 各都道府県にて麻しん対策会議を設置すべくガイドライン案を制定。[5]
学校等での対策
医療機関での対策
保健所での対策
- 麻しんを積極的に排除するための疫学調査のガイドラインを改版。[10]
- 予防接種の実施状況を把握するための予防接種管理システム(オフライン型)を国費で開発し、地方自治体に無償で提供する事になった。[11]
各自治体の対策
- 島根県[12]。
[編集] 発生
平安時代以後度々文献に登場する疫病の一つ「あかもがさ(赤斑瘡/赤瘡)」は今日の「麻疹」に該当するというのが通説である。
日本では例年、全国の小児科から1-3万人の症例が報告されているが、実際の発生数は年間10万人を超えると考えられている。
麻疹は子供の病気であると誤解されていることがあるが、2008年現在、報告のうち4才以下の症例は15%にも満たず、10代から20代の患者が多数を占めている[13]。ただし、麻疹による死者は日本でも減少しており、2000年以降は年間20人以下である。
[編集] 近年における麻疹の流行
[編集] 2001年
患者報告数が定点あたり11.20人(推計患者数 約27.8万人)[14]という大流行があり[15]、これを契機に予防接種率の向上や、1歳の誕生日に予防接種を行うキャンペーン等の対策がとられた。
[編集] 2006年
春に茨城県と千葉県での地域流行が起こり、茨城県は96例[16]、千葉県は定点報告数で90例[17]
[編集] 2007年
南関東を中心とした地域流行が発生し、各地に飛び火した。10歳から29歳の世代という比較的高年齢に発生が集中したのが特徴である。 [18]。
成人麻疹の流行により2007年7月27日現在で高校73校、高専4校、短大8校、大学83校が休校し、高校・高専・短大・大学のみで1657人の患者が発生した [19]。 この対策の為、流行の中心地である東京都では都立学校の生徒・児童の内のワクチン未接種かつ未罹患者への有償での予防接種の実施、都内市区町村立学校の児童・生徒に対する市区町村が行う措置の支援、私立学校の児童・生徒に対しても同等の支援を行う事とした。[20]
麻疹・成人麻疹の流行により麻疹ワクチン・MRワクチンの需要が急増し、定期接種ワクチンが前年よりMRワクチンに移行された影響も重なり全国的にワクチン在庫が不足する事態が生じた。麻疹ワクチン・MRワクチンは1歳~2歳未満・小学校就学前の1年間を定期接種により優先され、それ以外の世代では緊急接種を除きワクチン接種の前に抗体検査を行うことが推奨されたが、それにより一時的に検査試薬が不足する事態を招いた。
10歳~29歳の麻疹・成人麻疹が多くみられた原因として、定期接種世代の時点で使用されていたMMRワクチンの副反応の影響による接種率の低迷、麻疹発生の減少によりブースタ効果が期待できなくなった事で抗体価が低下し修飾麻疹が発生したことなどが考えられる[21]。
[編集] 2008年
神奈川県(2008年9月30日現在、3515件)、北海道(1453件)、東京都(1148件)、千葉県(1032件)、福岡県(670件) で地域的流行が発生した。[22] 全体の35%を占める神奈川県での流行は横浜市(2008年10月2日現在、1466件)、横須賀市(679件)が中心[23]であり、横浜市ではこの事態を受けて2008年3月21日より2009年3月20日の1年間の時限措置として、「定期予防接種対象者を除く1歳~高校3年生に相当する年齢で、麻しん予防接種を1度も受けておらず、麻しんにり患していない方」を対象とする市費負担による予防接種(任意接種)を実施している。[24] 同様に横須賀市では2008年2月1日より3月31日の2ヶ月間の時限措置として、「2歳から高校3年生(相当年齢)で、麻しん予防接種を未接種、かつ麻しん未罹患の人(小学校入学前1年間の児童を除く)」に定期外予防接種を実施した。[25]
[編集] 千葉血清製ワクチンの抗体獲得性の問題
2001年に沖縄県中部地区で千葉県血清研究所(千葉血清)製ワクチン既接種者を千葉血清が検査した結果、136検体中111検体に麻しん抗体が認められ(抗体保有率82%)た。同一の検体を沖縄県中部地区医師会が別の検査機関に依頼した所、141検体中19検体に麻しん抗体保有が認められ(抗体保有率13%)た。[26]
- 沖縄本島での3歳児健康診査にて2866名の接種歴と麻しん罹患状況を調査した所、沖縄県中部地区のみワクチンの有効性が低いという結果が得られている。[26]
- 2006年の茨城県内での麻しん発生での調査において、患者の多くが千葉血清製ワクチン既接種者であったが。これについて茨城県竜ヶ崎保健所は、「免疫のつき方が弱かったか、一度ついた免疫が次第に弱まってきた可能性が考えられる」としている。[27]
- 2008年の川崎市内の麻疹発生において、千葉血清製ワクチンを接種した世代に麻疹が特異的に発生した。[28]
[編集] 脚注
- ^ 国立感染症研究所 感染症情報センター (2008-04). "日本の定期/任意予防接種スケジュール(2008年4月1日施行)" (GIF). 2008年10月5日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター麻しんチーム (2008-2-12). "世界および日本の麻しんの現状、そしてわが国が目指すゴール" (PDF) 13. 2008年10月7日 閲覧。
- ^ 予防接種に関する検討会 (2007-8-8). ""麻しん排除計画案"" (PDF). 2008年10月6日 閲覧。
- ^ 厚生労働省 (2008-12-28). ""麻しんに関する特定感染症予防指針"" (PDF). 10月6日 閲覧。
- ^ 厚生労働省健康局結核感染症課; 国立感染症研究所感染症情報センター (2008-5-2). "都道府県における麻しん対策会議のガイドライン(案)" (PDF). 10月6日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター; 文部科学省・厚生労働省 (2008-3). "学校における麻しん対策ガイドライン" (PDF). 2008年10月6日 閲覧。
- ^ 茨城県竜ヶ崎保健所; 国立感染症研究所感染症情報センター (2008-1-18). "保育所・幼稚園・学校等における麻しん対応ガイドライン 第二版" (PDF). 2008年10月6日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター麻疹対策チーム (2008-1-23). "医療機関での麻疹対応ガイドライン(第二版)" (PDF). 2008年10月7日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター (2008-1-10). "医師による麻しん届出ガイドライン 第二版" (PDF). 2008年10月7日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター (2008-1-31). "麻しん排除に向けた積極的疫学調査ガイドライン [第二版]" (PDF). 2008年10月7日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター (2008-2). "「予防接種管理システム」のお知らせ" (PDF). 2008年10月7日 閲覧。
- ^ 島根県健康福祉部薬事衛生課 (2007-12-20). "島根県における麻しんのまん延予防対策のための指針". 2008年10月5日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター 病原微生物検出情報事務局 (2008-09-30). "週別麻疹報告数、2008年第1~38週(感染症発生動向調査)" (PDF). 2008年10月6日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター (2008-2-15). "麻しん排除を目指す国内外の状況" (PDF). 麻しん対策ブロック会議 10. 2008年10月7日 閲覧。
- ^ 国立衛生研究所 (2004-3). "麻疹 2001~2003年". 2008年10月5日 閲覧。
- ^ 茨城県竜ヶ崎保健所 本多めぐみ (2007-9). "2006年の茨城県南部における麻疹集団発生とその対応". 2008年10月5日 閲覧。
- ^ 千葉県衛生研究所 (2008-10-05). "2006年の麻しん流行状況-千葉県". 2008年10月5日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター (2006-9). "注目すべき感染症". 2007年7月11日 閲覧。
- ^ 厚生労働省健康局結核感染症課 (2007-7-27). "麻しん及び成人麻しん施設別発生状況(最終報 全施設合計)" (PDF). 2008年10月5日 閲覧。
- ^ 東京都福祉保健局; 教育庁 (2007-5-17). "学校における麻しん(はしか)流行に対する緊急対策について". 2008年10月5日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター (2007-09). "年齢別 麻疹,風疹,MMRワクチン接種率". 10月5日 閲覧。
- ^ 国立感染症研究所感染症情報センター (2008-9-30). "都道府県別病型別麻しん累計報告数 (n=10,794) 2008年第1週-38週" (PDF). 2008年10月5日 閲覧。
- ^ 神奈川県衛生研究所感染症情報センター (2008-10-2). "麻しん発生状況(36)". 10月5日 閲覧。
- ^ 横浜市健康福祉局健康安全課 (2008-3-12). "麻しん(はしか)流行に伴う横浜市の緊急対策について". 2008年10月5日 閲覧。
- ^ 横須賀市こども育成部こども健康課 (2008-1-24). "麻しん(はしか)流行予防への緊急措置". 2008年10月5日 閲覧。
- ^ a b 朝日新聞社 (2003-11-30). "はしかワクチン、効果8割 千葉のメーカー出荷". asahi.com. 10月3日 閲覧。
- ^ 茨城県保健福祉部保健予防課危機管理室 (2006-6-8). "牛久市・取手市を中心とした麻しん(はしか)患者の発生について(第6報)" (PDF). 2008年10月3日 閲覧。
- ^ かたおか小児科クリニック Dr.かたおか (2008-6-26). "麻しん発生状況での疑問". Dr.かたおかの診療日誌. 2008年10月3日 閲覧。
[編集] 関連法規
[編集] 関連項目
- 風疹(3日はしかとも呼ばれる)
- 感染症
- 発熱と発疹を起こす病気の一覧
[編集] 外部リンク
- 国立感染症研究所 感染症情報センター
- 東京都内で検出された麻疹ウイルスのNP遺伝子解析結果 2001年4月~2003年3月東京都感染症情報センター
- 2007年にポーランドで感染循環している麻疹と風疹ウイルス株の遺伝子型分類海外渡航者の為の感染症情報
- 2008.3.25 麻疹は子供の病気にあらず日経メディカル オンライン (麻疹の典型的な臨床経過)
- 麻疹ワクチン接種指針

