つり革

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つり革の例(丸形)

つり革吊革、つりかわ)とは、電車バスなどの乗り物で、立っている乗客が体を支える目的で握るために、上から吊るされている道具をいう。古くは革製のものもあったが、現在は塩化ビニール被覆のキャンバスナイロンストラップと、プラスチックの握りの組み合わせが主流である。吊手ともいう。

地下鉄車両では、暗闇での避難時の火傷を防ぐため、火炎にさらされても滴下しない材質が選ばれている。

握り部の形状による分類[編集]

  • 環状
    • 丸型
    • 三角型(通称、おにぎり型)
    • 五角型(通称、ホームベース型)
  • 球形

丸形は握りが列車の進行方向と平行に設置されることが多いのに対し、三角型は直角に設置されることが多い。個体の形状にもよるが、総じて丸型よりも三角型の方が握りやすい。三角型は家庭用アイロンの握り手をヒントに開発され、1970年代中期以降に東京圏・大阪圏の国電で比較的多く採用された。この時のものは列車の進行方向と平行に設置され、握りの部分が湾曲しているなどの工夫が見られたが、握りと広告スペースのスリーブが一体成型となっており、首振りの自由度が低く、乗客の疲労度は大きい。人間工学的見地から、1982年以降の新造車では再び丸型に戻されている。

三角型は帝都高速度交通営団(営団地下鉄)→東京地下鉄(東京メトロ)でも、1980年代以降の新造車に多く用いられているが、こちらは人の腕の動きに合致した、進行方向に対し直角(枕木方向)の配置であった。もとより、東京メトロ車両は東京地下鉄道としての開業時から直角配置である(下記のリコ式を参照)。

1990年代以降はJRを含む他の事業者で再び三角型の割合が増えてきている。ただ、丸形は輪を回転させることで直前の利用者が握った場所を避けられる、手首を穴に通して少々寛げるなどという理由で、丸形を好む利用者も少なくない。

球形の握りは日本では見かけないが、ロンドン香港などで採用されていた例がある。しっかり握るには、十分な握力が必要である。

珍しい部類として、舞浜リゾートライン香港MTR(港鉄)の迪士尼線(ディズニーランドリゾート線)では、ミッキーマウスを模した丸いが左右に付いた握りが、また、西武鉄道30000系では、卵形の独自の握りが採用されている。

リコ式[編集]

リコ式吊り手を採用した東京地下鉄道1000形電車

かつて、東京地下鉄道→帝都高速度交通営団や京浜急行電鉄などにおいては、「リコ式」と呼ばれる剛構造の吊り手が使用されていた。

アメリカのリコ社で開発されたことからこの名前があり、握りにはストラップがなく、使われない時にはコイルばねの力で車体の外側を向いて跳ね上がるようになっていた。車両の揺れで吊り手が網棚や手すりにぶつかる不快感が無く、乗客がつかまった際、前後方向に揺れないために安定性が保てるという利点もあり、特に高加減速度で運転する路線に向いているとされる。また、東京地下鉄道では防火対策として車内から可燃物を排除する観点から、当時主流であったセルロイド製の吊り輪に代えて導入したとされている。

乗客が手を離した際に席を立った別の乗客の頭にぶつかるケースが多々発生した[要出典]ため、苦情により廃止された。
また、急ブレーキを掛けた際に折れてしまうという事故があったため、営団地下鉄では普通のつり革に変更された。

ドアスペース上のつり革[編集]

京阪式跳ね上げ吊り手
京阪2200系

通勤形電車においては、ドアスペース上のつり革をどのように設置するかがしばしば課題になる。というのは、つり革を設置した場合、混雑時にはつり革を持つ乗客が壁になり、スムーズな乗降を妨げる可能性があるためである。国鉄・JRはこの点について長らく「邪魔になるつり革を極力設置しない」という方針をとっていた。国鉄時代、72系以前の電車ではつり革の代わりに出入り口広場の中央につかみ棒(スタンションポール)を設置し、101系103系では進行方向と平行(レール方向)にはつり革を設けず、それを横切る形(枕木方向)で高い位置につり革を取り付けていた。その後の形式ではドアスペースのつり革自体を設置していないものもある。しかし、走行時につかまるところが何もないことを不安視する意見が増え、後に改造して高めのつり革を取り付けている。

九州旅客鉄道(JR九州)の813系の一部車両や817系では、ドアスペース上のつり革を円形に配置することで混雑の緩和を試みている。

他の大手私鉄などでは、出入りする際に頭に当たらないよう、高めのつり革を進行方向と平行に設置している例が多い。京阪電気鉄道では「持たないときはバネで跳ね上がる吊り手」をドアスペースに設置した形式がある。これはリコ式とストラップ式を組み合わせたもので、腕の付け根に組み込まれたコイルばねをねじり方向に使うことで跳ね上げ力を得ている。手で引き下げることで通常の吊り手と同じ高さとなるため、取り付け位置が高いだけのつり革に比べると、乗降の邪魔にならない点は同じでも、持つのは楽になる。ただし利用者の身長が低い場合は届かない(使えない)という短所もある。このつり革は京阪が特許を取ったため、基本的に同社でしか見られないものであり、他社では一時期京阪線に乗り入れていた、近鉄820系電車での試用(のち撤去)にとどまっている。なお、2000年代以降は普通の短いつり革に変更されつつある。

その他[編集]

  • JR東日本は万一急ブレーキがかかったときでも転倒しないよう、車内のどこに立ってもつかまれるようにしているのに対し、JR西日本は客室内の見通しを良くし、すっきりさせるというデザイン上の観点からつり革の数が少ない。しかしながら、JR宝塚線(福知山線)の脱線事故で助かった乗客の証言から、乗客の生死を分けた要因の一つにつり革の存在が挙げられている。[1][2]東西の違いは事故時の被害に差を生む可能性もある。
  • 日本の場合、つり革の成型色はほとんどが艶付きの白系統か明るい灰色系であるが、2005年頃より、優先席のエリアを解りやすくするため、このエリアのつり革を別の色(オレンジ色、黄色[3]など)のものに換装する事業者が増えている。
  • これとは別に、東日本旅客鉄道(JR東日本)のE531系E233系キハE130系や、千葉都市モノレール0形では、優先席付近などを除き再生プラスチックを採用した艶消しの黒色で、二等辺三角形の、上下方向に長い(ドア付近は従来の三角形)つり革を使用している。また、205系E231系などでも、優先席付近のつり革に限り同タイプのつり革(色は黄色など)に交換されている。
  • 京王電鉄京王線系統で、かつては春や秋の行楽シーズンに優等列車の分割があったことから、案内をしやすくするために基本編成と付属編成でつり革の色を変えている(後者を緑色にして「白のつり革の車両は○○行き、緑のつり革の車両は△△行き」と案内放送を行なっていた)。
  • 東京急行電鉄新3000系を嚆矢として、1990年代末期以降では長さの異なるつり革を互い違いに配置し、子供など背の低い利用客に配慮した例も増えている。似た例では前述JR東日本のE531系やE233系で、優先席部分のつり革取り付け部のパイプの高さを低く設置した事例がある。
  • 路線バスなどでは、電車より車体が小さく、またツーステップ車などでは天井までの高さも低かったためか、棒が細く直径も少し小さめのつり革が使用されることが多い。また、起動停止が頻繁な路線バスでは前後に大きく揺れないようにつり革2本に輪を1つつけ、三角形の固定をする事例(仙台市交通局における「V型つり革」)がある。
  • 主に暴走族旧車會が、四輪車でのスポーツ走行時やハコ乗りの際などに同乗者が使う目的で、もしくは装飾用として車内に設置することがある。
  • 博物館明治村動態保存している京都市電には木製のつり革が吊り下がっている。
  • 主な生産者である三上化工材株式会社(大阪市西淀川区)は「トヨサンベルト」の名で発売しており、同社のみで過半数のシェアを握っている。梱包用ダンボールの「当社の吊手は中の芯地がものをいっています」という記載からも強度を確保する工夫が見てとれる。

脚注[編集]

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  1. ^ [1]
  2. ^ [2]
  3. ^ 平成20年秋のダイヤ改正に向けた増備車両(4編成・24両)の搬入について (PDF) - 首都圏新都市鉄道ニュースリリース 2008年5月28日 2ページ目で「優先席部分の吊革の色を黄色に変更」と言及している。

関連項目[編集]